アメリカウィルス事情

 シスコの全面広告
PM 4:45 娘がオフィスにやってきた
PM 5:05 私のPCにゲームをダウンロードした
PM 5:05 ゲームはウィルスに感染していた
PM 5:06 ネットワークが自動的にウィルスを駆除した
PM 5:06 何事もなかったように娘と食事に出かけた
 最初に見たとき、あまりの内容に「二度とこの広告は使われないだろう」と思っていたが、その後当たり前のように数回登場している。
 いかん、駄目だということすら認識されていないようだ。こんな風潮が伝染すると情報リテラシーが下がって、いずれ私が大変になる。情けは人のためならず。真面目に扱おう。
まず一行目。娘とはいえ部外者だろ!オフィスに入れるなよ。しかもPM4:45だろ、普通は9to5が勤務時間じゃないのか。コンプライアンス上問題がある。これだけで、この会社がいかにいい加減か分かる。
二行目。そのPCは会社のものか?私物か?私物だとして持ち込んでいいのか?会社のだったら勝手にダウンロード(しかもゲームをダウンロード)していいのか。さらにコンプライアンス上問題がある。駄目な会社だなあ。
三行目。まあ、そういうこともあるだろう。つまりダウンロードした時点でウィルスチェックソフトが働き、ワーニングを出したのね。(市販の殆どのウィルスチェックソフトは一度ファイルをローカルに取り込んでからウィルスチェックをかける。つまりここですでにローカルに感染ファイルがいるということが分かる。)
四行目、あっそー、とひとまず読み飛ばす。やがてこの表現がキーになるのだが。
五行目、おい。ウィルスが駆除されたからといって食事に行くな。まずウィルス感染の事実と状況を報告だろう。会社からIPAへの報告は別の部署がやってくれるとしてもだ。まるで責任感というものがない。ウィルス感染の事実はネットワーク監視の部署にメールが行き、そこで確認してくれる仕切かもしれないが、状況報告「勤務時間中に娘が来て、ゲームしたいというのでダウンロードしたら、ウィルスがいた」くらいは必要だろう。
 はっきり言おう、こいつは予定して食事に行ったんじゃない。逃げたんだ。予定であれば娘はなんで出発一分前にゲームをダウンロードしたんだ?多分こういう会話があったんだろう。
「パパ、ご飯に行くって約束は?」
「ちょっと片づけものがあって、もう少し待っていてくれないか」
「たいくつー、ゲームとかないの?」
「フリーセルとマインスイーパーくらいだなあ」
「あきちゃったよう、なんか別なのダウンロードしてもいい?」
「しかたないな、好きな奴落としてきな。」
 ところが、ウィルス発見のワーニングが出た。ぼやぼやしていると監視部署から「どうなってるんだ」と電話がかかってくる。状況報告もしなければならない。でも監視部署に対し頭を下げているところを娘に見せたくない。だからわずか1分後に出かけたんだ。(普通はパソコンをシャットダウンするだけで1分はかかるだろう。すぐに出かけたということはウィルス感染を発見した時点で、すぐにシャットダウン作業にかかっていたということを示している。そうなるとパソコンはシャットダウン中。ネットワークがきちんとウィルスを駆除してくれているかどうか実は保証の限りではないはず。それともダウンロード先はネットワークドライブだったのか?あんたの行動を見ているとその辺をしっかり認識しているとはとても思えない。)
 もし、すぐに出かける予定なのであれば、どうして出発一分前に娘にゲームをダウンロードさせるんだ。つまり、5:06に出かけたのは、直前に予定を変更したことを示している。
 確かに平謝りしているところを娘に見せるのはかっこわるい。気持ちはよく分かる。しかし、逆に考えるとしっかりと責任をとることを教えるいい機会じゃないかい。娘が責任をしっかりと認識できる人間に育ってほしいとの思いを込めて、ここは謝っているところを娘に見せた方がいいんじゃないか。
 しかも、今回の責任は「管理責任」なのだ。これを実地で教えられる機会はそうそうあるもんじゃない。しかも父親(と思う)が自分(娘)の管理責任をとってくれているのだ。つまり自分も当事者だ。この機会の貴重さがわからんということは、少なくともこの人、リーダーではないな。

 ここで、四行目の表現に戻る。「ネットワークが」という無生物主語。日本語にはない表現。つまりこの広告文は、原語(多分英語)から日本語に直訳されたということを意味している。
 私は日本人だし、セキュリティを扱う仕事もしているので、この広告文をあまりにひどいと思ったが、アメリカ人にとっては当然のことかもしれない。アメリカってなんて無責任で情報リテラシーの低い国なんだ。国産ウィルスはそんなに量がないのに、アメリカ産ウィルスがやたら多く作られている理由が分かったわ、そういうところなのだ。(注:私はUSAを通常「合衆国」と表記するが今回はアメリカとした理由は、「国」というより「文化圏」というニュアンスをこめたかったから。)

 まあこのウィルスに対する意識の低さが、ウィルス対策ツールの売上げを支えているわけだから、そのままでいてくれた方がその手のベンダーには都合がいいのだろうが、そんな文化を日本に持ち込まないでくれ。どうしてもというなら、責任とって1面数千万といわれる広告費のせめて1回分を充当してウィルス対策プログラムを配ってくれ。CD-ROM一枚10円として数百万枚作れる。配達費用?なあにパソコンショップに電話すれば大喜びで取りに来るよ。

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