弾く|録る|聴く、では始まらない

 Gibsonが、ONKYOと、続いてTEACと提携(実質買収)したが、いまのところ何も出てきていない。
 が、三社合同ショールームはオープンした。

 メインギターが、自称「世界一音のいい」レスポール・スタンダード。
 子供の演奏を録音するのはTEACのハンディレコーダーで、
 最初に揃えたステレオはスピーカーとアンプがONKYO、
という私としてはおだやかじゃない。
 ちょっと無理して初日に寄ってみました。

 オープン初日ということで、いろいろあるだろうと思ったら、突っ込みどころだらけでしたわ。
 まずは、おいてあるパソコンが「Lenovo」。あのー、ONKYOはSOTECを買収してからパソコンメーカーでもあるんですが。
 ミキサーにさしている測定用マイクが、安物の代名詞「ベリンガー」。TEACのラボに余ったマイクはないのだろうか。

 ギブソンのショールームのはずなのに、展示品のバリエーションが少ない。具体的には「レギュラーライン」しか置いていない。
 つまり高級機種であるカスタムショップブランドなんてのはなっしんぐ。いろんな製品に会いたいなら、悪いことは言わん、神田小川町のG-Clubにゆくことを薦める。
 ただし東京駅から近いので、電車やバスの発車時刻まで中途半端に間があきます、ってとき寄るのはいいかもしれない。コーヒーも出してくれるし。もっともCloseが18:00というのは厳しい。

 LPJって生産中止になってなかったんだ。触らせてもらったけど、言うほどひどくないね。まあショールームだから出来のよいのを置いてるだろうね。というわけでLPJを検討している皆さん。ここで弾かせてもらって、んでもって「これと同等以上ならアタリ」という基準を作ってから楽器店巡りをするのもいいかもしれません。東京駅に近いから着いたらまずはここ。ただし出てから御茶ノ水直通の中央線ホームまで650メートル歩くことになりますが。

 このショールーム、7月2日(水)という中途半端な日にオープン。普通は金曜日とか週末や月初にするでしょ。さらにはプレスリリースがその前日。正直いきなりで決めちゃいました感はぬぐえない。
 Guitar magazine、Bass magazine、Sound&Recording magazineと3つもスタンド花を用意した(しかもスタイルを変えていた)リットーミュージックはよくやったと褒めて遣わすが、もっと早く声をかければGibson愛用有名ミュージシャンが喜んで名前を貸してくれたに違いない。
 J-45を弾いているサイン入り写真を添えたmiwaからの花かごがあれば、それだけで華やかになる。
 「オープンおめでとうございます。がんばれギー太。平沢唯」かきふらいも色紙1枚くらい書いてくれただろうに。

 だから最初に突っ込んだ「ONKYOのショールームでもあるのにおいてあるパソコンがLenovo」というのも、当事者であるONKYOがパソコンを用意できないほどのドタバタで決まった、ってことの顕われかもしれない。

 3社の棲み分けがはっきりしているから、各自それぞれのことをしていればいきなりオープンでも問題がないと思ったのかな。
 Gibsonを演奏して音を出し、TEACで録音し、ONKYOで再生する。バランスとれているように感じる。でも違ったのだな。

 なわけで、私は「ハイレゾは音がいい」ことを説明するパネルの前で、DSD録音した演奏を試聴するという居心地の悪い経験をすることになりました。TEACは録音/再生フォーマットとして将来性の大きいDSDを推している。ONKYOはリスナーへの配付フォーマットとして機器を揃えやすいハイレゾを推している。実はベクトルがずれていたんです。

 ここで若い説明員の方に意地悪質問。「このハイレゾってオーバーサンプリングディジタルフィルターとどう違うの?」いや、違うのは知ってんだけどね。パネルには「サンプリング周波数が高いと階段が細かくなる」ことしか書いてなかったのよ。これだと見かけ上オーバーサンプリングと変わらない。(オーバーサンプリングは量子化ノイズを高域に持っていってローパスフィルタによる音質低下を押さえるためと当方理解しております。)
 ところで1985年の時点でディザ信号を混入させて自然なD/A変換を実現するCDプレーヤーを発売していたTEACの誇りを彼らは多少なりとも受け継いでいるのでしょうか。

 ついでに例のフレーズを
「ここで対比させるなら、CDフォーマットとハイレゾではなくて、PCMとDSDでしょ。PCMがAM放送とするなら、DSDはFM放送です、って言えばぐっとくるでしょ、ぐっと。ラジオで音楽聞いて録音してきた経験のある人へのアピールが違うでしょ。」
とgoodにお説教してしまいました。(ONKYOの名札下げてる人でしたが。)だから今後ONKYO、TEACから「PCMをAM方式とするなら、DSDはFM方式といえるでしょう」という広告文言が出てきたら、たぶんそれは私の影響です。
 ここで「goodにお説教」という妙なフレーズを出したのを一応解説。goodにはよく知られた「良い」という意味のほかに「たっぷり」って意味もあります。なのでgive 人 a good scoldingで「さんざんしかる」。でも「良い」って意味は残っているから、「goodにお説教」で「さんざん文句を言う」と「ためになる文句を言う」の2つの意味をかけれるかなと思ったわけよ。ついでに前段の「ぐっとくるでしょ、ぐっと」と音を合わせている。これだけでも私がいかに気合を入れて話していたかわかるでしょ。日米合弁を踏まえた洒落でございます。え、面白くないデスカ?
 とりあえず説明員の方、DSDが信号の粗密で音を記録していることは理解していた。

 この人に限らず私につかまった人はことごとく気分を害しただろうな。そのくらいの自覚はある。でもね、10分もたたないうちに寄せ集め感を見抜かれてどうすんのよ。それは私は楽器についてギブソンの係の人より詳しいかもしれず、録音についてTEACの人より勘がいい可能性もあり、オーディオのキャリアについては言うまでもない。でもさ、ハードを並べただけなら、演奏する/録音する/再生するで棲み分けできるけど、それをつなごうとした途端、何らかのネットワークなり、ソフトウエア。換言すれば使いこなしの提案がいるわけだ。それが全くない、というか必要性すら感じている様子がない。GibsonもTEACもONKYOもハード屋さんなんで、そこから先が見えないのだろう。ここが問題なんだ。

 並べるからには繋がないと。ショールームのことを昨日言われたとしても一晩あれば案くらいできるだろうに。なるほど、この辺を意識しないから、つまり相乗効果を考えないから、3社が提携しても全然ワクワクするものが生まれてこないわけか。せっかくONKYOにはお手紙を書いて、Gibson印の足で操作できる楽譜用電子ブックリーダーを提案してあげたのに。(電話かけて担当聞いて、切手貼って送ったのに無視。)

 ソフト開発でトラブルが起こると「全体が見える人がいない」という問題点が指摘される。私はこの言い方が嫌いだ。というのは、そんな言い方をすると、あたかも全体が見える人が存在可能であるかのように思えるではないか。実在しない解決策が取れなかったことを問題点とされても、それは無茶だということだ。
 しかし、このショールームを見る限りでは「提携後を全体感を持って見渡せる人がいない」と文句を言ってもいいかもしれない。ひょっとしたら、Gibsonはとても幸運だったのよ。この3社の守備範囲を全て並み以上に把握できる私を初日に迎えることができたのだからね。
 というわけで帰りの電車の中で考えた案でも実験してみますか。結果の写真くらい提供するよ。コーヒーのお礼だ。

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