フィンガリングのバタつきを直す

 自分が普通にできることに関しては、誰でもできて当然、とつい思ってしまうものだ。
 最初どんなに苦労したか、なんてのはだいたい忘れてしまっている。
 わかりやすい例として思いついたのが「自転車に乗る」。乗れる人には乗れて当然。が、よく考えるととっても不自然な現象。そういえば確かに最初は苦労したなあ。
 理屈ははっきりしないが、今では当然出来る。でも苦労した記憶は残っている、という万人に共通した稀有な例。各人がその時体得したことを思い出して、分析/解説することは可能なはずだ。さてなんと答えます?「倒れそうになったらそちらにハンドルを切って・・・」、いや君が聞いたことじゃなくて、君自身が体得したことが聞きたいんだ。「倒れまいと思っていたらいつの間にか出来るようになっていて」・・・きっとそうだと思う。実はよくわからないのだ。苦労を自覚していることでさえそうである。特に苦労してないとすれば、説明は困難を極めるだろう・・・誰でも出来て当然じゃないの?

 2012年末にギター講座を書いた。自分でもいい出来だと思うが、何故書けたかというと、自分ができないからである。天性のものは何もない。そんなわけで、ピッキング一つでさえも、徹底的に考えないとろくに出来なかったのである。だから感覚や常識に逃げず、愚直なまでに一歩づつ書いていくことができた。
 といいながら、ギターを弾くとき自分ができてしまうがゆえに、書けなかったことがあるのを自覚している。音色の変化だ。これは意識しなくても指が勝手に音色を変えている。どうやっているかわからない。どうやらここはスカした方がいい雰囲気になる、と潜在意識が制御しているのだろう。
 だから「音を良くする」ことは書けたが音色をどう変えるかは説明できない。ジョージの指グセはこうじゃないかと言ったり、ベックはピッキングの瞬間、ピックを捻っているのではないかと指摘するくらいである。もっともそれらの弾き方、気がつくとそうしていたわけで、特段意識して工夫したというのではない。

 当方、才能があるとするとこれだけだと思っていたが、実はもう一つ恵まれたところがあった。気づいてみれば単純。手が大きい(らしい)のだ。ハイフレットになると小指が6弦を余裕を持って押さえきれないので、これでも1センチ足りないと思っているのだが、一度「ドラえもんのうた」の一番キツいストレッチをやっている時の写真をとって、エッシャーの絵を見ているかのような気分に囚われた。確かに1フレットずつ間を開けて押さえているよなあ、なのにネックの上から親指が突き出るのは何?
 だから、指が長いというよりも、指がよく開く。もっといえば指の間を広げる筋肉が強い、ということが優れていることのようだ。

 どこかで書いたと思うけど、フレットハンドの指の動きを最小限にするには、目的の押弦場所まで指先が直線で動くことが望ましい。ところが指の「関節」は回転運動しかできない。従って複数の回転運動を組み合わせて指先を直線で動かすためには、回転の合力で指の間隔を制御し続けなければならず、必然的に指の間を広げてキープする筋力がいる、と分析した。

 ところが、もう少し単純なことがあった。指を曲げた時と伸ばした時の指の開きやすさの違い、である。
 指のストレッチ&独立性の運動として、まずは人差指と中指の間を広げ、次いで中指と薬指の・・・というのがある。それなりに効果がありそうに見えるが、実はたいしたものではない。というのはこの体操、指を伸ばしたまま行なっているからだ。実際にギターを弾くときフレットハンドの指はかなり急角度で曲がっているのだ。従って開く練習をするなら軽く握りこぶしを作った状態でやらねば効果は薄い。ところが普通の人間は拳の状態では指の間を広げることすらままならないはずだ。開かない以上、ネックを握った状態では大して指が開くわけがなく、少なくとも指を指板に引っ掛けることなく空中で待機させることができない。でもプレイヤーとしては指を開いておきたいよね。ではどうなるか。指の間を広げても負担がないように、指を伸ばしてしまうのである。
 つまり指板を押さえていない状態の指は伸びてしまっているから、押さえるときに改めて曲げないといけない。奏者の一連の動きを想像してくれ。これは「指がばたついている」という状態になる。
 バタつく、というのは単に指の動きが大きい状態を指すのではない。極端に大きな指の動きであっても、改めて指の曲げ伸ばしを行うのでなければばたついているようには見えないんのだ。それをなお、バタついていると主張するならピアニストは救いようがない。指の振り幅がそのまま音量に繋がるからフォルテシモは指のバタつき大会である。

 ではバタつかせないためにはどうするか、はじめから指を伸ばせば良い。伸ばした指の腹で弦を押さえる。こういう流儀も確かにある。問題点は「演奏ノイズが出やすい」「ビブラート&チョーキングがやりずらい」「手首を曲げると苦しいので、立って弾こうとするととたんに苦しくなる」である。でも、そうするしかないって人も多いんだろうな。確かに指のバタつきはなくなるので、何となく速く弾ける。ちょっとうらやましい。

 というわけで「フィンガリングのバタつきをなくす」方法、原因を究明し、きれいに解決してみせましたぞ。ん?そう?実は解決してません。結局は指を曲げたまま指を広げる筋肉を付けないといけないのです。つけ方?分かりません。いつの間にかついてました。
 これでも最初にこのことに気がついたときは「自分もそれなりに努力してたんだなあ」とそれなりにいい気持ちだったんですよ。ところがだな、あっさりと開いた奴がいて。。。結局、人間は生まれつきが大事らしい。

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