経済を拡大させずにどう食おう

 おかしなデータ・ブックに複利の劇的な効果が示されていた。キリストが西暦元年に1ドルを預金して、年利4%で増えていたとするならば、今や元利合計は地球と同じ大きさの黄金の玉80個が買える額になっているというのである。すごい。

 残念ながら私の先祖は1ドルを預金しておいてはくれなかったが、人類全体でいえばちゃんと預金してくれたのと同じ効果が見られたはずである。少なくとも年4%の利益を上げてきてくれていたはずである。預金の利子は貸出利息の中から支払われる。貸出利息は、そのお金で、例えば機械を買って動かして、得た利益から払われる。
 すなわち、年4%の利子が支払われるということは、年4%以上の利益が生みだされているからに他ならない。社会全体で年4%の利益が生み出されているということは、経済成長率が年4%あるというだ。

 そんなわけで我々はものすごく豊かになっているはずである。豊かなんだろうな。でも年4%複利が約束してくれるように地球ほどの黄金球80個を所有しているわけではない。
 ではどこが間違っているのだろうか。年利回り4%が非現実的?あるいはインフレが進んでいるから年4%で回っても実質利回りは低い?いずれにせよインフレ調整後の実質利回りは4%行っていないということだ。

 さすがにキリストの時代まで遡るのは無理だから、金の価値を参考に第二次世界大戦以降のことを考えてみよう。1ドル=360円。金1オンス=35ドルの時代である。
 当時金の理論価格は1オンス12600円。1オンスは貴金属の場合トロイオンスという単位だそうだから31.1035グラム。1グラム405.099円。今は1グラム1300円程度。
 1ドル=360円のブレトンウッズ体制が崩れたのが、1971年だから、まあ30年で金価格がこうなったことを考えると、20年で30%になったとして、金価格を基準とした円の切り下げ率は年、えーと、どうやって計算するんだっけ。とりあえず、見事なまでに年利4%弱になることは判明した。
 そうかあ、豊かになっていないのは金価格が上昇したからなんだ。

 かくして、経済というのは実質的には成長しておらず、インフレのおかげで見かけ上成長しているにすぎないという大胆な仮説を立ててみた。頭の中が金本位制度になっているのは、まあ勘弁してくれ。少なくとも、年4%という通常であれば決して大きすぎない成長率を実現しているのではないということは認めてもらえるだろう。
 そうなると、小泉総理大臣の構造改革の目指すべきものが、はっきりしてくる。

 従来は、経済成長率とインフレ率が大体同じであったため、実質経済成長率はゼロでも、名目上拡大再生産が行われていた。帳簿上利益が出るので何とかなっていたということだ。
 ところが、デフレとなると、経済成長率もその分マイナスとなる。実質的には何も変わっていないはずだが、ようするに帳簿上利益が出なくなったことが問題なのだ。

 かくして小泉総理大臣は「帳簿上利益が出ずとも、なんとか経済が回ってゆく」ように構造改革を行わねばならない。
 最初に影響が出るのは金融セクターである。例え実質金利がマイナスでも、インフレの影響で名目金利が出ていれば、預金金利/貸出金利の差で利ざやが取れたわけだが、デフレとなると実質金利がプラスでも名目金利はマイナスとなるため、利ざやが取れない。おお、金融危機の本質はここにあったのか。
 資本が名目的にも利益を生み出せなくなるとマルクス経済学的な解釈だと資本主義自体が成り立たない。(利益を生まないものを資本と呼べるだろうか。)マルクスは完全に間違っているので、なんとかなるのだろうが、さあ、資本主義の根本って資本が利潤をうむことじゃなかったかしら。
 かくして、小泉総理大臣の構造改革は資本主義そのものの成立要件を変えてゆかねばならないことと判明した。構造改革をせずにデフレを克服する手法は、これまでに確立はしている。
 1つの方法は、デフレ基調の中一部の商品についてのみ、インフレとすること。バブル景気といわれるものは、土地と株式という特殊な商品についてインフレとしたものであった。
 2つめの方法は、資本主義外の経済を資本主義に取り込むもの。

 小泉改革が大変なのは分かった。なんといっても資本主義を否定しようとしているのだ。ロシア革命にも匹敵する難事業だ。では、どういう経済構造をうち立てるつもりなのだろう、あの人は。

(要約)資本主義は、実質的な経済成長を達成せずにインフレによって維持されてきた。インフレの期待できない現在の危機を乗り切るには、人為的にインフレを起こさないとすれば、資本主義そのものの枠組みを変化させるしかない。しかしながら、そのようなビジョンは提示されていない。


 銀行に公的資金導入なんぞせずとも、金融危機を救う方法は3つほどあるので、ついでにそれを紹介。
1.ダイエーやゼネコンに公的資金を導入する。
 銀行迂回で公的資金導入なんぞやるから、政治家の責任問題がどうのといわれるのである。直接お金が無くなったところに出してあげればいいではないか。クライスラーはこの手で再建されたんだぞ。もっともこの手法欠点があって、銀行への公的資金導入ならば、お金は返ってくるが(公的資金導入、という言い方が使われているが、政府が銀行にお金を貸与しているのであり、贈与しているのではない)、ゼネコンからに投入してもお金は返って来るであろうか。

2.政府の銀行として日銀を使うのをやめ、市中金融機関を使う。
 政府は日銀に国庫金を預けているが、地方自治体のように民間金融機関に預けるようにする。日銀は銀行券の発券銀行でもあるから、国庫金を預けると「その国庫金は現金ではなくなる」という大問題があるのでこれを避けることにもつながる。

3.かつて銀行が国家の赤字補填として供出した分のお金を銀行に返却する。
 昭和5〜60年代に、政府は銀行に国債を市中金利よりはるかに安く買ってもらっていたことがある。銀行はこれを市中で(もちろん市場価格で)売却。損失を出した。(当時株主代表訴訟という制度はなかったと推測される。)このとき政府から銀行に振り替えられた損失を、政府が銀行に返せば丸く収まるのでは無かろうか。

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