平和愛好家宣言

 私は平和愛好家である。
 平和主義者ではない。

 平和主義者は主義を貫くために場合によっては戦争も辞さないし、
 そこまでいかずともデモくらいはやる。場合によってはクーデターを起こすことすらある。(レーニンは「平和の対概念は内乱である」と言っていたそうな。確かに戦争を行おうという勢力に対抗するには、何らかの力がいるわな。)

 これに対して平和愛好家は、単純に平和が好きなので平和を守るために何かするという意識は極めて少ない。争うのがいやなので声を荒げることすらしたくない。従ってデモに参加することさえしない。
 外観上はノンポリの無関心層と変わりはないが、争いたくないので兵役にゆく代わりに病院の下働きを選択するくらいの覚悟はある。

 こういった平和愛好家が歴史の表舞台に出てくることは稀である。ガンジーくらいではないかな。抵抗することなく、ただ一つ「(植民地支配者の)いうことを聞くな」とだけ指示を出し、インドの独立を勝ち取った。

 合衆国が「大量破壊兵器をイラクが持っているはずだから、戦争する」という「平和のための戦争」論理を持ち出しているのが、どうしても気になるのだ。
 もちろん合衆国の間違っているところは、イラクが大量破壊兵器を持っていないことの証明責任をイラクに押し付けているところにある。国連が査察団を派遣しているにもかかわらずである。本来なら証明責任は査察団にあるはずであり、合衆国はまず査察団を厳しく弾劾すべきなのだ。

 疑われた側に疑念を晴らす証明責任があるのであれば、例えば合衆国はエリア51を開放し、宇宙人とコンタクトをとっていないことを示さなければならない。
 そもそも大量破壊兵器を一番持っている合衆国になぜ国連査察団が入らないのだ、という感情的な反発もある。少なくとも原潜の管理はずさんだぞ。民間人に操作を任せ、洋上に何があるかを確認せずに緊急再浮上ごっこを楽しむくらいだからなあ。(えひめ丸のことを根に持っているのはいうまでもない。)

 日本としても、前回の湾岸戦争のように戦費だけ分担させられるという状況を予防するためにも、ここは開戦反対の立場を押し出しておいたほうが得だと思うのだがどうだろう。それは査察の継続にはお金がかかるけど、日本は国連分担金をちゃんと払っているわけだし。(合衆国は払っているのだろうか。)

 平和のための開戦を唱える合衆国と大英帝国が一つだけ気にとめておかねばならないことがある。開戦してしまうと、それ以後、たとえビックベンに旅客機が突っ込もうが、ニューヨークの地下鉄が放火されようが、イラク関係者が行う限り、それはテロという犯罪ではなく、戦争という認められた(むしろ米英が進んで認めた)行為として取り扱わなければならないということだ。
 「テロ許すまじ」と怒るわけにはいけないのだ。まずは「戦争なんだもん、あたりまえよ」と受け止めねばならない。

 先の大戦までは普通の人が国境を越えて移動するということが一般的でなかったがゆえに、戦闘員を送り込むには艦隊や戦車軍団を用意して進撃する必要があったが、現在ではたまたま合衆国内にイラク人がいても不思議ではないし、イラク人の数も多い。イラク人であるというだけで強制収容所に入れるのも世論が許さない。(太平洋戦争の時は在米邦人が日本人であるという理由で強制収容所に入れられたりもしたのですが)
 本来、戦闘員でなければ戦争行為をしてはいけないはずだが、民間人が爆撃によってあたりまえのように殺される以上、民間人が戦闘員に即時に転化しても、それを防ぐことはできまい。
 実際、合衆国は太平洋戦争中に日本の民間の漁船を多数撃沈した。漁船は軍艦ではないから攻撃するのは国際法違反と抗議したときの回答は「漁船といえど、合衆国側の艦隊を発見すれば無電を打つではないか。これは戦闘行為であり、撃沈に値する」だったそうな。
 従って、漁船も軍艦なんだそうだ。つまりは漁船が戦闘行為を行うことを合衆国は認めているということだ。同様に民間人がいつ破壊行為を行っても、それは戦争に基づいた行為であると合衆国は認める用意があるということだ。(戦争をとりまく環境が変化すると、このような反撃もありうる。)

 もっとも、ここでイラク側の兵器として細菌や毒ガスが使われると話は別だ。「それみろ、大量破壊兵器を持っていたじゃないか」と指摘することができるので、米英の開戦は結果的に正当化される。
 かくしてもし、イラクがどうしても大量破壊兵器を使いたいのであれば、核兵器を盗んでくるしかない。できれば合衆国から。どうしてもだめなら大英帝国から。
 間違ってもイスラエルから盗んできてはいけません。パレスチナ問題が激化します。第一、盗みは犯罪です。

 しかし、どうしてイスラエルには「大量破壊兵器所有の疑念あり」ということで国連査察団が入らないのだろう。(どうしてイラクはそれを指摘しないのだろう)


 前回の湾岸戦争時、合衆国は結局フセインの政権を残した、と批判されたが、それは今の一連の動きから考えて「多国籍軍」でなく「米軍」でイラクを制圧する口実が改めて必要になるときがくるからだと、解釈すべきだろう。
 第二次大戦後、国境地域の帰属をめぐってトルコ・イラクが対立したとき、合衆国・英国・オランダがイラクに肩入れして、イラク側に帰属させる代わりに三国合弁の石油会社に採掘を認めさせたんだっけ。
 で、その地域をトルコの信託委任統治とするからイラク攻撃のために基地を使用させろ、ということにしたのかねえ。で、NATOに守ってもらおうとする。

 いろいろと邪推の余地はあります。

 核兵器の拡散を「既に持ってる国はいいけど、新しく持つのは駄目よ」という不平等条約で縛るのがそもそもまずいかな。合衆国得意の知的所有権で縛るとか。つまり、核兵器について特許を認め、特例で有効期限を無期限とする(その代わり特許使用料を無料にする)。で、合衆国は常任理事国のみに特許の使用を認め、それ以外の国には認めない、とする。
 自国の利益のために、知的所有権の枠組みを勝手に変えるのは合衆国のお得意でしょ。で、一つ知りたいのですがミッキーマウスの著作権が土壇場で20年延長された際に、エリック=サティの著作権は遡って20年延長されたのでしょうか。

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