さて、こういう自由研究の文章である。普通は中一風情の発想には見えない。が、そのポテンシャルに気がついたとしたら、先生はなんらかの「研究発表」をうちのガキにさせると想像したわけだ。あるいは、親にやってもらうと「説明して」と求められたときに冷や汗をかく、と、まあさらし者にされるかもしれないと思ったわけだ。社会問題ネタ、目次へうちのガキに恥はかかせられない。またポテンシャルに気がついたのなら「そうだよ」と説明したい。というわけで、皆さんの前で読み上げられるものを作った。コンピュータの有効性についても若干触れてある。なに?ホームページにあげたところで恥をかかせているだろうって?かもね、でも晒し者にはしていない。
自由研究のテーマを考えるときに意図したのは、みなさんも同じだと思いますが「いかに楽に仕上げるか」です。理想は座ったまま半日くらいで終わってしまうもの。そして、ある程度見栄えがするもの、です。自由研究の例はインターネットのサイトを探すといくつか見つかりますが、できればオリジナリティのあるタイムリーなものがいいなと思いました。途中で父親がやってきて、あと寝てしまうところなど、中々である。「ここからここまでは手伝ってもらったけど、後は寝てしまったから自力です」などとさりげなくアピールしている。途中逆に考えて納得してしまうところなど、結構リアリティにこだわったつもりだ。そんなわがままなことを考えながらネットをうろうろとしていると、Yahooのトップページに「東京電力エリアでんき予報」があるのに今更ながら気がつきました。春の計画停電の時には夏は大変だとさんざん言われましたが、どうやら特に問題もなく終わったみたいです。去年に比べてクーラー余りつけなかったし、やっぱりその辺が効いているのかなあ、などと考えながら関連するサイトをうろうろしておりました。
すると、東京電力のホームーページに今日の電力消費量のグラフが載っているのを見つけました。残念、これを毎日印刷しておけば自由研究っぽくなったのに。ちょっとがっかりしていたところ、同じページに「過去の電力使用実績データのダウンロード」というのがありました。あ、使えるかも、と思ってクリックすると、日付と時刻と使用電力実績がずらっと並んだだけの殺風景なデータでした。少し期待はずれです。でもマイクロソフト・エクセルに読み込んでやれば表になるかな?しかし1月1日からってのは余りにも多すぎます。そこで夏休みの自由研究だということで夏休み期間中のデータに限定してマイクロソフト・エクセルに貼り付けました。しかし、いざ始めると「枚数は稼げるかもしれないけど毎日のグラフを作っても考察のしようが無い」と思い「とりあえず、分かりやすいように毎日の最高電力消費量だけを抜き出してみようかな」と作業を始めました。
「あー、大変だ」とブツブツ言っていると父が「うるさい」と割り込んできました。
「そんなのマクロ組めば何とかなるだろう」「何それ?」「ああ、今はVBAって言わないといけないのか」「何それ?」「いや簡単なプログラムなんだけど、それで日毎の最高電力消費量の行だけに印つけて、あとはフィルタリングで・・・。」
長くなりそうだったので魔法の言葉を使いました。「お・ね・が・い。」「お前が静かになるならいいよ」。それから30分ほど、私よりはるかにうるさい声でブツブツ言ってましたが、やがて「出来たよ」という声が聞こえました。
「データの抽出はソートするかフィルタリングするかで出来るけど、ところでこの資料で何するの?」「グラフ作って自由研究にしようか、と」「じゃあ、その日の最高気温もしらべて、気温の高い日はクーラー使っているから消費電力も大きい、なんてのをつけたほうが面白くないか?」「気温ってどこで調べられるの?」「気象庁が出してるよ。」
気象庁のサイトを探して、気温のデータも見つけました。ただしこれはダウンロードできないので1件ずつ手でマイクロソフト・エクセルシートに写していきました。さらにグラフウィザートを立ち上げて、横軸を気温・縦軸を消費電力としたグラフを作ろうとしていると、また横槍が入りました。「おい、それで折れ線グラフ作っても仕方ないだろ。全体の相関を見るときは散布図ってのを使う。あと相関係数でも求めておけば、最高気温と最大消費電力がだいたい比例しているって分かったようなことが言える」こう言って寝てしまいました。相関係数ってなんだろう、と調べました。どうやら得点で「偏差値」がどう変わるか、の度合いみたなもののようです。模擬試験でみんなの得点が似たり寄ったりのとき、このときは得点が少し高いとどーんと偏差値が上がりますが、これが「相関が強い」ということのようで、ことのき「相関係数が高くなる」ようです。逆に点数がばらけていて得点が上がっても偏差値があまり上がらないときが「相関係数が低い」ということみたいです。
グラフを作って、表に罫線を入れて、いい感じに仕上がってきました。
しかし「確かに気温が上がると消費電力も上がるけど、そんなにはっきりしてないんじゃないか」ということに気がつきました。これでは考察らしい考察がかけないぞ、と悩んでいると「あ、データは平日も休日も混ぜこぜだから、これを分ければいいんだ」とひらめきました。表を作り直すと、気温と消費電力の関係がよりはっきりします。相関係数0.906というのは何か良い数字のように思えました。でも、相関係数0.9というのはホントに高いのだろうか、どうすれば高いと証明できるんだろう、と考えました。今度はすぐに気がつきました。原発事故以前の、去年と比較すればいいんです。また東京電力のサイトから同じように去年のデータをダウンロードして、マイクロソフト・エクセルに読み込ませ、気象庁のサイトで最高気温を調べました。この時、なぜ父がさっき30分もかけてプログラムを作ったかわかりました。30分あれば手で作業したので終わるのに何やっているんだろうと正直思ったのです。なるほど、プログラム書いておけば去年のデータもすぐに処理できるんだ。
去年のデータも平日と休日に分けました。すると相関係数は今年よりも低く0.8台。なるほど、今年は十分相関が強いんだ、と分かりました。これで一区切りついたのですが、せっかくだからもう少し見てみることにしました。たしかニュースで工場を土日に動かしてというのを思い出しました。土日にはあまり工場を動かさないから、休日の方が平日よりも電力消費量が落ちるんだけど、今年は土日も動いている工場があるから、去年ほどガクンとは落ちないだろうと仮説を立てて比較します。
去年の日別最大消費電力の平均、平日は5,506.9万kW休日は4,812.8万kW、引き算すると694.1万kW。今年は414.3万kW。差が小さくなっています。つまり工場が土日に稼動しているか差が小さいんだろうとの仮説が検証されたので、ちょっとうれしくなりました。
そこで調子に乗って先ほど相関係数を調べているときに見つけたマイクロソフト・エクセルの「近似曲線の追加」機能などを使ってグラフをかっこよく見せる方法をいろいろ試してみました。が、そのうちに気がつきました。
「今年の相関が強いというのは分かった。でも去年より強くていいのか?私たちは暑くてもクーラーを我慢したはずだ。確かに去年ほどつけた記憶は無い。しかしもし、我慢しているのであれば、暑くなっても電気をそんなには使わないはずだから、逆に相関は去年より弱くなっていなければおかしい。」
ということは、実際にはみんなそんなに我慢したわけではなかったのかもしれない。何かそれを裏付けるデータはないだろうか?何度もグラフを見比べました。もう半日で終わる自由研究ではなくなり、当初の意図とは違ったものになりましたがそんなことは言ってられません。行き詰ってしまったので、消費電力はどう構成されるかを単純化して考えました。なんか「テストの花道」みたいです。
<消費電力の構成>=<気温に影響される部分>+<気温に影響されない部分>
気温に影響される部分は、それこそ「クーラー」です。逆に影響されない部分は、工場の動力や、店や家庭の照明や、水道のポンプや、電車のモーターでしょう。気温と消費電力の相関が高いということは<気温に影響されない部分>の割合が少ないから、<気温に影響されない部分>の変動があまり表に出なくて、<気温に影響される部分>の影響が大きくなるということだと考えました。だとすると<気温に影響されない部分>の割合が相対的に低くなる休日のデータと平日のデータを比較すれば何か分かるはずです。出ました。予想通り休日の方が相関が強いです。しかし、去年と今年を比べると、去年の平日と休日の相関計数の増加割合よりも、今年の平日と休日の相関係数の増加割合の方が高いことが分かります。つまり、<気温に影響される部分>は今年の方が、影響がはっきり出ているのです。ということは、やはり「私たちはクーラーを我慢しているのではなかった。」<気温に影響されない部分>が全体の電力消費を抑えていたのです。
自由研究を半日で終わらせるという当初の目標が達成できなくなったのみならず、当初の仮説すら否定されたことになります。正直どうしようと思いました。しかしもっと大変な人がいます。クーラーを我慢して倒れてしまった人です。ニュースでは「熱中症で運び込まれた人が多い」から「適度な冷房を」と今更のように言っています。最初から言ってあげれば、助かった人もいるかもしれないのに。
だから、自由研究の考察で結論は「暑くなったらクーラーつけてもいいんですよ。電力消費は別のところで十分押さえられています」と書くことにしました。では消費電力はどこで減ったのか?その理由も考えて付け加えなければなりません。
こまめな消灯。要するにこれだったようです。でもこれでは資料をまとめたから何か分かったとは言えない。残念です。そこで最後にもう一度表を見直して、とても、とても単純なことに気がつきました。最高気温の平均が30.5度と去年の32.9度から2.4度も低くなっている。「冷房の設定温度を2度あげよう」という掛け声がありましたが、どうやら地球の方が実行してくれていたということです。はっきり言って、本当にこの考察でいいのか?とは今でも思っています。家庭と例えば商店・工場の消費電力の内訳や、各企業や家庭で行った節電施策の内容と効果も考えに入れる必要はあると思います。
あるいは去年は1日しかなかった最高気温が30度を下回る日が影響したのかもしれません。でも私としては、インターネットで生の統計資料を集めて、パソコンで見やすく整理すると、意外な結果が導き出せたというところが、仮説と違う残念な結果ではありましたが、面白かったです。父親が言うには「昔、パソコンは100万円近くした。ソフトウェアは1本10万円近くした。インターネットも無かったんだよ。それでも、パソコンを買おうという人がいたんだ。それは表計算ソフトが使いたかったからなんだ。表計算ソフトというのはそれくらい衝撃的だったんだ。ちなみに僕がマイクロソフト・エクセルと発音するのは、エクセルというのは合衆国の銀行のソフトの名前で、マイクロソフトは、絶対エクセル、の前にマイクロソフトをつけるからという条件で使わせてもらったからだよ」だそうです。私たちの世代は生まれたときからパソコンが当たり前のようにありました。中学校に入って自分のパソコンを持ち、表や文章をきれいに作ったり、プレゼンテーションをするために使うようになりました。しかし、コンピュータは本来、科学技術計算やデータ処理に使うものだそうです。今回の自由研究では、インターネットでデータを集めることを目的にパソコンを使い始めたのですが、殆どの時間データを分析して、見えなかったものを見えるようにする機械として使っていたのだということに、少々感心しました。グラフを書くだけなら、紙と鉛筆でなんとか出来たでしょう。しかし、殺風景な数値の羅列から「クーラーを無理に我慢しないで健康に留意して」という結論は決して出なかったでしょう。今後はそういったデータ処理の用途にも目を向けて、コンピュータを使いこなせるようになりたいと思います。