森保はオシムにはなれない、しかし

 タイトルはオシム監督が巻をワールドカップに送り出したときの言葉
「巻はジダンにはなれない。しかしジダンにはないものを持っている」
のもじりである。

 にわかサッカーファンが増えに増えたワールドカップカタール大会。ニワカと言い切るのはPK負けをそれほど重要視してなさそうだからだ。
 前回大会の決勝トーナメントで延長戦3試合。うち2試合をPK戦で勝ったクロアチア相手であれば、PKに、いや延長に持ち込まれれば負ける、と覚悟するのがニワカでないファンである。それでもかすかな望みを持っていた。ドイツ、スペインに見事な逆転を果たした森保監督が逆転の策を持っていないだろうか。

 PK戦は結構心理的要因が大きい。J1王者マリノスに挑んで2−2のままPK戦に持ち込んだ市立船橋高校はすでにカラ元気を出す余力すら使い果たしていたようだった。逆に2011年のワールドカップで優勝した日本は、おそらくは「姉さんはさっき1点決めたから」という佐々木監督の言葉に呼応して「澤さんはあのギリギリで1点とってくれた。最後は私達だけで決めるよ!」と盛り上がっていたに違いない。

 PK戦に強い国というと、例えばドイツがある。パネンカキックで敗れて以来、よほど悔しかったのだろう、国際試合のPK戦で只の一度も負けてない。(遠藤のコロコロPKというのもあるが、元祖は「パネンカキック」である。)
 しかしながら今大会で世界一強いのはクロアチア、になったと言えるだろう。
 自分が抜かれたら手を上げてアピールするだけ
 あんなのドイツ代表じゃない!
 せめて足音でプレッシャーを与え、相手の思う通りにはさせないぞ、とできることを全力でやり尽くすのがドイツ魂。(だから足を高く上げて走っていたのは非難するほうがお門違い。ボールに触りにいけないよう牽制したまっとうなプレイである。)

 だから日本戦でゲッツェが途中出場したのは本当に怖かった。
 かつて「予選リーグだからこのままでもいいか」と選手たちが思い始めたとき、途中出場・ファーストタッチで得点したドイツ魂の継承者クローゼ。
 そのクローゼが決勝戦で「決めてこい、お前には特別な力がある」と背中を叩いて送り出し、アルゼンチンから優勝ゴールを奪ったゲッツェ。やられるとしたらこいつにだろう。

 かといって日本代表を下手とは言えない。あの重圧の中立っていられるだけでも大したものだと思う。ただそこで、止められれば非難轟々のコロコロPKを打つ遠藤や、迷ったら真ん中行くしかないでしょ、と開き直った本田のような精神力がなかっただけだ。

 その本田だから、クロアチア戦の解説で「よし、PKだ、いくぞ!と思える日本の選手が何人いるか」と疑問を呈していたのには説得力がある。事実、誰がPKを蹴るか、と立候補制にしたとき、手を上げたのは2人、だったとか。

 確かジェフユナイテッドが唯一タイトルを取った大会だったと思うが、当時率いていたオシム監督が「誰が蹴る?」と問うた時、ジェフは全員が手を上げた。

 森保はオシムになれなかった。ではオシムにはない何を?

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