美少女剣士ミルフィー、美少女魔法士アリッサム、美少女司祭見習いローズマリー、そしてローズマリーの使い魔のデブ猫ノアは、王都カノーズ・プールを目指して旅をしています。そしてその3人と1匹を、謎の集団が追っていました。
何故かノアの命を狙うその集団は、金でやとわれたチンピラの集まりで、依頼主が何の目的があって猫の命を狙っているのか知りません。ミルフィー達も、誰が何故ノアの命を狙っているのか、さっぱりわかりません。
「アリッサム〜〜〜ッ! ローズマリー〜〜〜ッ!」
ミルフィーの声は、霧に閉ざされた深い森の中に溶けて、2人からの返事は返ってきません。ミルフィーはぐしょぐしょに塗れた服を脱ぎ、水分を絞りながら、はぁ、とため息をつきました。
「森を突っ切ろうとしたのは間違いだったかなぁ」
追っ手を撒くため、迷いの森と呼ばれるこの森を通り抜けようと提案したのはミルフィーです。この森は年中霧に覆われていて、毎年何人もの冒険者が行方不明になっていると聞きます。しかし、この森の中を南北に流れている大河沿いに進めば、迷う事なく王都の近くまで行けるはずでした。
「いや、そもそもの原因はローズマリーだわ。ローズマリーが」
木の根に躓いて倒れそうになり、ミルフィーを河に突き落としてしまったのです。ミルフィーは急流に流されながらもなんとか岸に上がったのですが、すっかりはぐれてしまいました。
「はぁ、、、」
もう一度ため息。ローズマリーと一緒に旅をするようになってから、ため息をついてばかりのような気がします。
がさがさがさ・・・
草木をかき分ける音が近付いてきます。ミルフィーは剣を構え、薮の中に目をこらしました。ずざっ! 薮を突き抜けて数本の触手が襲い掛かってくるのを、剣ではらいのけます。モンスターは短い悲鳴を上げ、薮を飛び越えてミルフィーに覆いかぶさるように襲い掛かってきました。後方に転がるようにしてそれを避け、ふたたび襲いかかる触手を剣で払いながら、さらに後方に逃げ下がります。
しかし、
そこにはもう1匹、モンスターが潜んでいたのです。ミルフィーは2匹のモンスターの触手に絡めとられ、身動き出来なくなってしまいました。
「いやっ、・・やだ、ちょっと・・・、いやぁぁんっ」
服のすそから潜り込んだ触手の、素肌の上をにゅるにゅると這い回る感触に、ミルフィーは悲鳴をあげました。
「こら〜、おイタしちゃダメでしょぉっ。そのお姉さんから離れなさい!」
場違いな、子供のような声がしました。その声に従うように、モンスタ−達はびくっと体をふるわせて触手をひっこめ、ミルフィーから離れていきました。
解放されたミルフィーは声の主を探してきょろきょろと辺りを見回しました。誰もいません。いえ、いました。身長十数センチのちいさなコビトが、ミルフィーの足下にかけよってきました。
「ごめんなさい、この子達、私のペットなの。許してあげて」
そのコビトは、エミナと名乗りました。
エミナはミルフィーが仲間とはぐれた事を聞くと、モンスタ−達に探してくるよう命令しました。しばらくして、アリッサム、ローズマリー、そして猫のノアが、モンスタ−達に触手でぐるぐる巻きにされて運ばれてきました。その格好に、ミルフィーは思わず笑い出しました。
「一体どうなってるんだ、ミルフィー」
「この子達は大丈夫よ。このコビトさんのペットなんだって」
エミナは、森の外までの道案内もしてくれました。でもその間中、ちらちらとノアのほうを見ては、何か考え込んでいるようでした。ようやく外に出たところで、エミナは言いました。
「そちらの猫さん、人間ですよね? どうして猫の姿をしているんですか?」
「人間!? ノアが?」
ミルフィ−たちは驚きの声をあげ、ノアを見ました。しかしノアはきょとんとした顔をしています。
『何言ってるの。僕は猫だよ』
「いえ、人間ですわ。魔法がかかってるのが私には見えますもの」
『え〜〜〜? でも僕が人間だなんて、聞いた事もないよ〜〜〜』
ノアは困惑してぶんぶんと首をふっています。しかしミルフィーには、エミナがでたらめを言っているようには見えませんでした。思い当たる節もあります。
「ローズマリー、ノアの飼い主だった魔女に魔法をかけられて猫にされた事あるよね?」
「はい。あの時は聖女エイリーンの泉の水を飲んで人間に戻れたんです」
ノアがもとは人間・・・?
『知らないよぉ〜〜〜』
ノアだけがエミナの言う事を信じていない様子でした。
終わり