小説
●プランバーゴ

第11話

 ラドクリフ城下のとある宿屋。美少女密偵リネットは、雇っている複数の情報屋の集めた資料を検討しながら、ため息をついていました。
 地方領主マード・ラドクリフには、領土内で奴隷商人の活動を黙認して見返りとして資金を得ているという疑惑があります。そして、集めた資金で謀反を起こそうとしているらしく、頻繁に隣国の領主達と連絡を取っているらしいのです。
「情報は山ほどあるのに、ひとつも証拠が見つけられない・・」
 疑惑の発端となった、王国騎士団が捕まえた奴隷商人の証言についても、裏付けとなる具体的な証拠はありません。だからこそリネットが調査に来たのですが、
「これじゃあまるで・・・」
 ふとひとつの考えに思い当たりました。
「誰かが偽の情報を流して、無実の領主を陥れようとしている?」

 王都へ向っていたミルフィ−達は、ある事を確かめるため、ラドクリフ領へ戻ってきました。迷いの森で出会ったこびとの少女が言うには、ローズマリーの使い魔のでぶ猫のノアが、実は呪いをかけられた人間だというのです。ノア自身は人間だった記憶はなく半信半疑ですが、ラドクリフの町の公園には呪いを解く事の出来る聖女エイリーンの泉があり、とにかくその水を飲ませてみようという事になりました。
 しかし、公園にやってきたミルフィー達の前に、10人ほどの騎士を従えた、精悍な顔つきの男性が立ちふさがりました。男はローズマリーの腕に抱かれているノアを指差し、
「私はマード・ラドクリフ、この地域の領主だ。魔女のもとにいた猫とはソレの事だな? その猫をこちらに渡してもらおう」
 突然の領主の登場にキョトンとした表情を浮かべたローズマリーは、少ししてからはっと顔をこわばらせ、めずらしく声を張り上げてマードに詰め寄りました。
「ノアの命を狙ってたのは貴方なの!? 地方領主ともあろうお方がこんな可愛い猫を虐めるなんて、いったい‥‥」
「おおっ、ローズマリーが怒ってる‥‥」
 ミルフィーとアリッサムが声を揃えて驚き、成りゆきを見守ります。ローズマリーはキッと険しい表情でマードを睨みつけています。
 ひょい
 マードはローズマリーの腕に抱かれていたノアを摘みあげました。
「あああ〜〜っ ノアを返して〜〜〜」
「‥‥‥何やってんだか」
 ローズマリーはピョコピョコと飛び跳ねますが、マードはノアを高くかかげて、軽く身をかわします。少し眉をひそめて後ろを振り返りました。
「命を狙うとは何の事だ?」
 マードが睨んだのは、両腕を包帯でぐるぐるまきにした騎士でした。騎士は気まずそうな表情を浮かべて頭をさげました。
「この猫は行方不明になった我が兄、ノア・ラドクリフが呪いをかけられた姿だ。ゆえに当方で預かる。殺したりはせんから安心するがよい」
「領主の兄〜〜〜〜?」
 ミルフィーとアリッサム、それからノアも、声をあわせて驚きました。ローズマリーは聞こえていないのか、まだぴょこぴょこしています。
 ノアとロ−ズマリ−達の間に、騎士達が立ちふさがりました。アリッサムはふうとため息をつき、ローズマリーの襟首を掴んで後ろに引っ張り戻しました。
「領主マード・ラドクリフ様。ノア様にかけられた呪いを解く方法がひとつございます。試させていただけませんか?」
「呪いが解けるというのなら喜ばしい事だが?」
 アリッサムはマードからノアを受け取ると、公園の中央の泉に向いました。
 ひょいっ
 どっぽ〜〜ん
「投げ入れるな〜〜〜っっ」
 怒鳴り声をあげて、ノアが泉の中で立ち上がりました。そう、人間の姿で‥‥‥

 ノアはうまく立てないのか倒れそうになり、ローズマリーがかけよって支えました。
「ノア‥‥‥?」
 ノアは不思議そうに、人間になった自分の体を見ています。胸のふくらみを持ち上げて、それから股間をじ〜っと見て、
「あれ? 僕、女?」
 ミルフィー、アリッサム、それからマード・ラドクリフや騎士達は、唖然とした表情で、湖のほとりに立っていました。

終わり


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