似た人

 それはいつものように、いつもの場所でいつもの日常をそれなりに楽しんでいた日のことだった。
 フェイはサマーベッドの上で優雅に昼寝をしていたし、ジェットは洗濯物を干し、エドはそれを手伝いながらジェットの「お話」を聞いていた。
 スパイクは今夜のおかずを釣っていた。
 アインはそれぞれの人間の様子をじっと眺めていたがやがてうとうととし始めた。

そろそろスパイクが釣りに飽きてきて、竿をもつ手に力が入らなくなったとき、それを見透かしたように宅配会社のホバーがやってきた。
「ちわー。お届け物でーす。サインくださーい。」
ジェットがサインをしている間にスパイクはびりびりと包みを破った。フェイとエドも興味津々で覗き込んでいる。
「おい、勝手に開けるなよ。」
「何だ、ビデオテープとか言うのじゃない、それ。誰が頼んだのよ、そんなもの。」
「はーい。エドでーす。うんとね、スパイクが出てたから。地球の誰かからもらったんだよ。VHSのーデッキもあったでしょ?」
「誰かって誰だよ。」
「えーと。ビデオ好きすきーの、べんしょーしろーの人のお友達。」
「ビデオって、大昔のもんだろ、俺が出てるわけあるか。フェイじゃねーのか。」
フェイは思いっきりスパイクを張り倒した。
ジェットはそれを見ながら(こいつに避けられないわけないのに何でいつも殴られているんだ?)と思ったが口には出さなかった。
「良いじゃねーか見て見よーぜ。面白そうだしな。」
ジェットはスパイクの手からビデオテープを取り上げるとすたすたといってしまった。
慌てて、エドが追いかけていく。スパイクもしぶしぶ立ち上がった。

 みんなそろって、古いテレビの前で、エドの作業が終わるのを待った。ジェットはいつのまにかつまみを用意し、ビールがテーブルの上に並んだ。
「できたよー。つけるねー。」

画面には確かにスパイクによく似たもじゃもじゃ頭の背の高い男が映っていた。
「俺じゃねえぞ。」
「ちがうな。」
「あー。何だろ、見覚えが在るようなないような・・・。」
「スパイクじゃないの?似てるねー。アインもそう思うよねー。」
いつしか、みんな画面にくぎ付けになっていた。

しばらくビバップ号はそのビデオテープに夢中になっていた。
しまいにはエドが真似をはじめ、スパイクは少し迷惑していた。

ジェットはビデオマニアのところへ行き、そのもじゃもじゃ頭の正体を調べてきた。
「わかったぞ。そいつは日本とか言う、小さな島国で偉く人気のあった俳優らしいな。早死にしたということだ。このビデオはその俳優の代表作らしいな。」
スパイクはなぜ、ジェットがそんなことをわざわざ調べたのか聞く気にもなれず、画面の中で、機嫌悪そうにタバコを吸う「そいつ」を眺めた。自分が今同じようにタバコをくわえていることなど、気にもとめずに・・・。

  END

作/猫宮よしき

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