大切なものあるいは・・・

 ある日突然、エドが妙なことを言い出した。
みんなの大切なものって何というのがしばらく俺たち、いや、俺を悩ませた。
「お金に決まってるじゃない」
フェイはたぶん本気でそう言ったのだろう。軽くあしらっていた。
ジェットは
「盆栽」
と言った。
俺は、しばらく考えた。即答できなかった。何故なのか、自分にはわかりすぎているような気がした。
「さあな。」
とりあえずそう言って自分のベッドにもぐりこんだ。
その日の夢は最悪だった。昔の忌まわしくて、忘れられないことを何度も繰り返し繰り返し・・・。次の日の朝、俺はひどく疲れていたし、エドの同じ問いにもうんざりしていた。
だからといって、俺はエドを怒鳴りつけることなんてしなかったが。ジェットは俺の不機嫌さに気がついていたから、言葉巧みにエドを遠ざけてくれる。

俺の大切なものはずっと昔になくしたままだ。
今、ここにいる俺は、いったい誰だ・・・。
いつまでも終わらない天国への階段を上りつづけ・・・その先に大切なものがあると言うなら俺は上りつづけるだろうか?
何故、俺はフェイもジェットも答えられたことに答えられないのか。
エドはそれを聞いてどうすると言うのか。妙な苛立ちに俺は暗闇の中で身体を動かしつづけた。
 どうすればいい?エドを満足させるだけの答えは俺にはない・・・。
「ソードフィッシュかエドだとでも言えばエドは納得するさ・・・。」
ジェットはわかっているさと言うように呟いた。

「俺の大切なものは・・・今の日常だな。」
エドはキョンとした顔をしていたが突然、にっと笑った。
「エドはねぇ、エドはみぃーんなたいせつぅ。」

結局エドが何故そんなことを言い出したのかわからないまま、俺が大切だと言った日常が繰り返され、それなりに満足していた。
今でも時折、悪夢を見るがそれも大切なものなのだろうかと思い始めた。
俺が生きている証として。俺がここに居る確かな証拠として・・・。

「また歌ってくれないか・・・。ジュリア・・・。」
俺の大切な・・・・思い出・・・。

  end

作/猫宮

<-back <all> next->