some day


その日は偶然、ジェットもフェイも出払っていた。
べつに二人が仲良く協力して賞金首を捕まえようとしている訳ではなく、スパイクのソードフィッシュUがいつも以上に
そのオンボロ振りを発揮した、まぁ故障したのだった。
という事でビバップにはスパイクと、エドと、アインの二人と一匹しか居なかった。

影を持つ男と純真無垢過ぎる子供。
世界が幾ら広くても、出会うことは無いであろう人種が空間を共にしているのだ。はっきり言って異様だった。

そんな訳だから会話というのは全然かわされていないのだ。
だが重苦しい沈黙は無く、もともと言葉なんて言う概念が
無いような感じがした。
スパイクがタバコを吸う、エドがパソコンをいじる、スパイクが本を読む、エドが眠りだす、アインが耳の後ろを掻く。
こんな感じで時間が過ぎていった。

そのうちスパイクがソードフィッシュUの掃除をしようと表に出て行った。
軽いメンテぐらいなら出来るのだが、今度ばかりはそうも行かなかった。だから掃除ぐらいが彼に出来ることだった。

外に出てみるとなかなか天気が良かった。
その時スパイクはちょっとしたフラッシュバックに見舞われた。昔の、普通なら二度と思い起こす筈の無い、くだらない想い出。

「こんな天気のいい日ぐらい、外に行きましょうよ。」

部屋でただボーっと、何の気もなく過ごしていたある日、あいつがいった一言。
あの時も、こんな天気だっただろうか。
人の想い出ほど不確かなものは無い、そう考えているというのに。
珍しく感傷的になってしまっていた。

そういえば昼だった。
スパイクはその想い出を引きずっていたのだろうか、外で食事をしようとしていた。外食ではない、元の意味で、だ。
つまり甲板での食事、フェイなんかが居たら、即効で笑い飛ばされているだろう。
「なに気取ってんのよ、ばかじゃない?」
という具合に。
はっきり言って自分でも笑ってしまう。自分はそんなタチだったのか?
でももう、テーブルを置いて、しかも白い布を掛けたりしている。ここで戻すのもばつが悪い。後は椅子とメシぐらいだ。
まあいいか。という感じにメシを漁りに部屋へ向かった。

たしかいい酒があった、一本あけなけりゃジェットのやつも怒るまい。一杯ひっかけるか。
と思いドアを開けると予想外の出来事に見舞われた。
多分あいつは目を醒まし、腹を膨らませようと自分と同じ様にメシを漁ったのだろう。
そうしたら偶然見つけてしまったのだ。アレを。

目の前に酒瓶が転がっていて、目をそらすと酒臭いガキ、
エドがこれまた転がっていた。

心の中で充分舌打ちしたあと、深い深いため息をひとつ洩らし、エドを足で小突いて話し掛けた。
「起きろ、コラ、このクソガキ!」
とりあえず怒鳴り酒の仇をとってみた。
すると次の瞬間ちょっとした恐怖が襲ってきた。

「あ、おはようございます。」

・・・・・・・・なんだ? コレ。
辺りが沈黙に包まれた。長い長い、宇宙のひとときが。
そして沈黙が破られた。アインだった。その異様に気付き、けたたましく吠え出した。多分アインも恐怖を感じているだろう。
「どうかしたんですか?スパイクさん?」
『ドウカシタンデスカ?スパイクサン?』?・・・・・・それはお前だよ。と小さく呟いた。

大体状況が読めた。
エドが酒を飲んだ。でもエドはガキだ。ガキは酔いが速い。それはガキという生き物が未発達だからだ。
だから酔う。しかしエドは変わっている。ガキ自体変わった存在なのだが、エドは大体それを平気で上回る。
なので酔い方も変わっている。酒乱ではなく、酔って賢くなった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

様ざまな紆余曲折をかましつつ、又紆余曲折した結論へと辿り着いた。
薄汚れた酒場でたまたま座った席の隣の酔いつぶれた男の持論の哲学より馬鹿らしい話。
粗末なパルプ・フィクションよりもくだらないオチだったが、
エドはくどい様だが変わっている。なので仕方がないのだった。

「お腹空きましたね。どうしますか?」
酔ったエドはなかなか積極的に話しかけてくる。仕方がないので
「用意してある。」
などとぶっきらぼうに答えてしまった。
それで急遽一人で食うはずが二人の食事になってしまった。
まともなメシは二人とも作れないので、粗末なものになった。失敗した不味い料理よりはマシだろう、という事で。
大きめのパンに切れ目を入れて、ハムやらチーズやら卵を挟んで調味料を加えた、料理というより素材の集合体だった。

エドは気を利かせ、皿と紙ナプキンを用意していた。
そのうちアインもエサを求めたので、二人と一匹の食事となった。

外は穏やかな風が吹いていて、外でとる食事としては最高だった。
二人で向かい合い、メシに手をつけ始めた。横にはアインがいて、同じくメシを食っていた。

そうだった。あの日もこうしていたのだった。

半ば強制的に外に連れ出され、近くのオープンカフェで遅い朝食をとったのだった。
不貞腐れていると勝手に食い物と酒を注文して、食事にありついていて・・・・・・・・・・・・
そして落ち着くとこう笑いかけてた。

「外に出るのも いいものでしょう」

また思い出してしまった。今日はどうも感傷的になる、元を正せばこの天気のせいだ。
だから照れ隠しで、ついエドに話しかけてしまった。
「どうだ?」 なんて。
すると嬉しかったのか、返してきた。

「外に出るのも いいものですよね。」

心でも読んだのか? 一瞬固まってしまった。そしてまた話しかけようとしていた。

  ジュリア。

馬鹿なことをしようとしたもんだ、
事もあろうにあいつとエドを重ねようとは。 普通なら絶対しないことだ。
やはりこの天気のせいだ。

しかし幸運な事に、その行為は寸前のとこで阻止された。
何故かというと当のエドが弧を描いて後ろの方へとブッ倒れてしまったからだった。今になって酔いがピークに達したと言ったとこだろう。
スパイクはそれを呆然と眺めた。

そして少し笑い、外を見ていた。

「悪くないな これも・・・・・」

暫くして、レッドテイルが戻ってきた。
そしてフェイが降りてきて、その光景を眺めた。その反応は意外と淡白だった。
「何してんの、あんたら。」
そりゃそうだろう。帰ってみれば、此は如何に。
アルコール臭いガキブッ倒れていて、鬱陶しい頭の男がマイペースに食事をしている。
犬はガキの周りをキャンキャン吠えながらぐるぐる回っている。浦島太郎も仰天しそうな光景だ。
だからフェイも思いがけず素の反応をしてしまうのだ。

スパイクは当然の如く答えた。
「ランチ。」
それを聞くとフェイはまた固まり、間を置いて
「ふぅん」
と普通に言うと続けた。
「これ、食わないでしょ。」と言い手のついていないメシをかっさらっていった。

ハンマーヘッドが戻り、ジェットが降りると普通にジェットらしい反応を見せた。
「なんなんだ、こいつぁよぉ!!」
スパイクが事のあらましを言うと、エッチラエドを担いでいった。
過保護だ、と言うとお前が雑なんだ。と返してひっこんだ。

一人になり、空が赤く染まってきた。
時が経てば二度と思い起こす事のない日を、今日過ごした。

作/マペット

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