コスモ・セントラル・ファイナンス。略してCCF。
金に困った事がある奴だったら皆知っている名前だ。
宇宙に広がっていく大企業の中で一番タチの悪い会社、金貸しの大手企業。
その実力たるやすごいものだ。
どんな貧乏人でも幾らでも貸し付け、かなりの利子を付けて回収するという悪評。
おかげで回収率はほぼ100%だそうだ。
本当にあった話で、自己破産をしようとした自営業の男が手続きに出向いたら、わざわざ
そこで待ち構えていた。というのがあるとか。
仕事のつても持っているらしいが、殆ど命に関わる怪しい事業だそうだ。
ジェットは受け取った名刺を眺めながらスパイクに呟いていた。
あの女も運の尽きという事だ。思えばあいつもいい奴だったろうか。
想い出と言うのは何でも美化させるところが悪い。
だから今思えば別にいい奴だった、とは思わずにすむのだ。
ジェットはそんな事をつらつら考えた。
で、当の回収屋だが目の前に居るのだ。何をしているかというと・・・・・
「私は今日の日までね、彼女の足取りをたどって・・・五万。来たんですよ、
彼女は69年5月・・・三万。24日に我社から18,000,000ウーロンを
借・・四万七千。りているのですよ。ま、しかしですねえ恥ずかしながら、その
踏み倒されてしまって・・・二千。ですからね、こうやってやっと居場所を
掴んだんですよ。・・・・あー六万。」
「そりゃ苦労したなあ・・・・」
職業が職業だけに、なかなかすごい事をやってのける。
フェイの部屋から引っ張り出してきたものを鑑定して頭の中で銭勘定をしている。
しかも話しながら。回収するだけでなく金の換算までするのだ。余計なところに
気が回る教育をしているらしい。
そしてフェイの持ち物のすごいこと、殆ど有名ブランド物である。今はだいだい小物を
見ているが、これが靴、バッグ、衣服になると桁が変わって来るだろう。まったく、
とてつもない額の借金をしている女とは到底考えられない。これが世間の女ならば
自己破産か最悪自殺の道を行くだろうに。
「ええそれはもう。まあ足跡を残してくれたからよかったんですがね。
ほらあの、モノマシン。あれ・・・十八万。が一番高い買い物でしたから。
持ち主を探す・・・二十三万。の結構簡単なんですよ。アレ。」
今日び珍しい根性のある借金取りである。
しかも(見た目は別として)物腰からしていいポストに着いているのではないだろうか。
本人自ら、しかも一人で来るのだからこの職業でなければ仕事熱心な男だったかも
しれない。
「これこれどおーー」
エドは面白半分に手伝っていた。しかし持ってきたのが
「はあー、こりゃまあ、・・・・・・・・・・・ベリィセクシィでございますなあ。」
「馬鹿かてめえは。」
よりによってランジェリーを持ち出してしまった。
「出すとこ出して十六万ってとこですかね、写真付で。」
呆れて物も言えない。
「で・・・どうすするんですか、あなた方。」
「・・・何だって。」
いきなり話題が自分達に向いたので驚いた。
「あなた方、彼女が居ないと・・・・何て言えばいいのでしょうかねぇ・・」
「阿呆かてめえは!!」
「何寝惚けたこといってんだよ!!」
スパイクとジェットは同時に叫んだ。
ティムの言わんとしている事を察し、そういう風に見られていた事に
腹が立った。
「むしろ有難いくらいだよ、せいせいするってんだ!!」
「あいつから転がり込んできたんだ、それこそあいつの勝手だよ!!」
迂闊な事を口にして思わぬ強襲を喰らい、ティムは目を白黒させた。
しかし次の瞬間、その目つきがガラリと変わった。
冷たく、狂気と殺意と、謎の恐怖を放つあの目。
こいつが叫んだとき一瞬だけ見せたあの目。
不意に見せたのでスパイクたちは口を閉ざしてしまった。
「・・・・・・何かあんのか?」
恐る恐るジェットが尋ねる。
「来ましたね。」
耳を澄ますと、モノマシンの音が聞こえた。
「イヤーまいったまいったっと。」
フェイがドアを開けて入ってきた。
手には目当ての品を持っていた。
「おかえりぃ。」
「よう。」
「待ってたぜ。」
皆はにやついた顔でフェイを出迎えた。
「・・・・・・何、もう無いからね!使ったモンは返せないのよ!!」
フェイは何か察して包みを後ろに隠した。
この反応は絶対何かある。勘がそう言っているような気がした。
「いやあ、別に何でもねえぜ。なあ?」
「ああ。いやしかしなんだなあ。実際お前も苦労してんだよなぁ。
これ位のこたぁ、お前の苦労に比べりゃぁな。どうってことないんだよな。ホント。」
怪しい!!何だコレは!!まさか賞金が又懸かったとか?
あたし何かしたっけ・・・
「ナニ?何なの!?ちょっと、裏があんでしょ!!」
「イヤなに、何て言うんだぁ、スパイク」
「そうだなあ・・・」
二人は顔を見合わせて笑っている。
「『お疲れさん』ってとこかぁ!」
「成る程ねぇ。じゃ、『お疲れさん』。」
「おつかれさまさまー」
「???????・・・はあ?」
その時フェイの肩越しに声が掛けられた。そしてあのときの殺意も。
「ハァイ ダーリン。元気してたぁ?」
「うげっ!!」
見覚えのある顔、聞き覚えのある声。長身で黒いコート。
なによりこのギラつく目・・・・・・・。
「ナニよあんたら!!グルだったわけぇ!?」
「借りたものは返すモンだぞ。」
「いやぁ、いいコトいいますなぁ。」
スパイクとジェットが二人がけのイスに座り、テーブルを挟んだ
むかいのイスには、フェイとティムが無理矢理一人がけに二人で掛けている。
「ちょっと、はなれなさいよ!!」
「だって逃げちゃうでしょうが。」
こういう事に慣れてたのか、ティムは手錠を用意していた。
それでフェイと自分の右腕をつないでいるのだ。
流石プロというか、女でもフェイのような奴がいるのを心得ている。
「でも安心して下さい、ミスフェイ。貴方の借金は20,940,000ウーロン
に減りましたよ。これは大きな進歩ですよ!すばらしい!!」
目を輝かせてティムは言った。
「ナニ・・・・・・あんたまさか・・・・」
「イヤリング、バッグ、ドレスに靴。どれも有名ブランド!!
しかものべつまくなし集めただけではなく、抜群のコーディネイト!!」
「売ったのね!!アンタ!・・・サイアク、ナニ考えてんのよ!!」
「貴方が借金を全額返済し、より良い生活を送る事を
親身になって考えておりますよ。」
こういう言葉に律儀に答えるのも珍しい。
「仕事も紹介してくれるってよ。」
スパイクがにやけて言った。
「・・・・何・・・」
「すぐ返せますよ、何せ我社がその一端をになっている一大プロジェクト!!
新たな小惑星を開発する事業ですよ!!」
「フザケンじゃないわよ!!!」
「いいねえ、いやぁオレもこの仕事してなかったら、やりてぇんだがなぁ。
つてが無ぇからなぁ、ホントラッキーだなお前はよ。」
「紹介状書きましょうか?」
「いらん!」
「でもさあ、でもよ!人が生活するのに最低限必要な物って言うのはさあ!取り上げられないんじゃないのぉ!」
かなり往生際が悪いと見える。
フェイは『根負けしないところ』が長所であり、短所でもあった。
「ブランド品が生活に必要で?」
ティムも応戦する。
「うっ!!」
「・・・・・でも衣服はぁ・・・・」
「私が尾行した結果貴方いつも同じ服ですが?」
「ううっ!!」
「・・・・・・・・・銃は!!銃は護身のために必要よ!」
「あなた・・・・・・素手でも充分強いですよ。」
そう言うとティムは紅いサングラスを外し、スパイクの方を向いて見せた。
「げっ!」
目の辺りにうっすら殴られた跡が残っている。
紅はそういうことだったのだ。
「ここに来る前にね、直接会ったんですけどね・・・・・・・」
「アロー。ミスフェイ・バレンタイン。」
「あんた・・・・・・・・!!!!」
「お久しぶりですね、いやはや。」
「ハァイ・・・・・・」
「探しましたよ。」
「そうだったの。」
「・・・・・・・・・・・御同行願えますか。」
「・・・わーかった。・・・もういいわ。」
「では、」
「荷物、持ってくれない?」
「おまかせください。」
ティムはそう言うと、両手を明け渡した。
「はいっ」
するとフェイは荷物を投げ渡し振りかぶっていた。
「ややっ」
ティムは焦り両手を出してかがんだ。そしてフェイは・・・・
バキィッ・・・・・・・・・
「お前って女は、呆れてモノも言えねぇな!」
スパイクが言う。
「でもこうして又巡り会えたんですから、いいでしょう。」
「いやーしかし、なんだかんだいっても大円満だな、おい。」
ジェットが明るく言うとティムもそれに答える。
「誠にその通りですねえ。」
「にゃははは。」
エドはとりあえず笑っていた。
しかしいつの間にか、辺りを沈黙が覆っていた。
フェイが黙っている。
「あー・・・フェイ」
「・・・・ミス」
「何も言わないで!!」
「・・・・・・・・・ミスフェイ。」
「そうよね、私って押しかけの居候だったのよね・・・・・・
なのに、調子に乗って・・・・・馬鹿みたい。・・・ホント。」
「おいおい、どうせいつもの手だろうがよぉ・・・・」
ジェットがその場を盛り上げようと大声で言ったが・・・
ティムは何も言わずハンカチをフェイに勧めた。
辺りが静寂と化す。
「ねぇ・・・・ティム。・・・・・・これ、少しの間だけ外してくんない?私たちだけで・・・・
その・・話がしたいの・・・・・見えるところからで良いから・・・・・はずしてくれる・・・」
フェイが涙声で話している。
「O・K・・・いいでしょう・・」
そういい、ティムは手錠の鍵を外した。
フェイは手首を軽く回してため息をついた。
「あー痛かったぁ・・・・・・」
そう言い振りかぶると・・・・・・・
ドゴッ・・・・・・・・
ティムが床にへばりついた。その瞬間フェイは疾風の如く
ありったけの荷物をまとめ、疾風の如く上がっていった。そしてドアが閉まる瞬間
「あんたら、私の有り難味をわかりなさいよォ!!」
といいレッドテイルに乗り込み飛び立った。
「・・・・・どォすんだよォ・・こいつ」
ジェットが鬱陶しそうに言った
「知るか・・・・」
スパイクもかなり迷惑そうに答えた。
するとティムは起上り小法師の様にピョンと起き上がり、
「ミスフェイは何処へ!」
と叫んだ。サングラスにヒビが入っている。
「いっちまったぞ・・・・」
「はあ・・・しかたがない。・・・・・」
諦めたようだった。
「又来るか・・・・」
ジェットは慰め半分に尋ねた。
「いえ!!」
「・・・・・なに・・」
ジェットが顔をしかめるとティムは話を続けた。
「あなた方は、当社に対して二人合わせて総額560,000ウーロン
を借りておりますね!!!」
スパイクとジェットは顔を見合わせた。
・・・・・・・・・・・・・・・まさか!!!!!
「今すぐ!御返済!していただきましょうかァ!」
言葉が尻上がりに大きくなって言った。
「・・・・・・・・あの女ァ!!!!!!!!!」
スパイクとジェットも大きな声で叫んだ。
END
作/マペット