ティル・オイレンシュピーゲル
第10話 ヘネップとゼネップ
その後すぐ、ティルはお城の城主の元で、小姓として働き始めた。主人のお供をして国中を馬で回る道中、麻が生えているのを見つけた。ティルの生まれたザクセンでは「ヘネップ」と呼ばれている。城主は槍をもってついてくるティルに向かって、「ここにある草が見えるか?ヘネップと言うんだ」と言った。「よく見えます」「この草のそばを通るときは、たっぷりと糞をたれていくんだぞ。この草で、強盗や、召使いも無しに荒稼ぎをする連中が縛り上げられてしまうんだ。この草で編んだ縄でな」「はい、そうします。」ティルは答えた。
主人、つまり城主は、あちこちいくつもの街を馬で回り、略奪、強盗をいつもやっている通りにした。
ある日、ティルと城主は城の中にいた。軽食の時間になり、ティルは厨房へ向かった。コックはティルに向かって「小僧、地下室に行くと瀬戸物の壺があるんだが、その中のゼネップ持ってきてくれ!」といい、ティルは「はい」と答えたものの、生まれてこのかた、ゼネップ、からしというものを見たことが無かった。ティルは壺に入ったからしを見つけると、「あのコックはこれを何に使うんだろ?これで俺を縛り上げる気かな?」そして、「ご主人様はこんな風な草を見たら糞をたれろって言ったっけ」と、壺の上にしゃがんでたっぷりとやり、かき回してそのままコックのところへ持っていった。
さて、どうなっただろう。コックはそれをそのまま急いで小皿に添えてテーブルに出した。城主と客達は、からしをつけて食べたのだが、嫌な味がした。コックは呼びだされて、からしに何をしたのか聞かれた。そこで、コックもからしを食べてみたが、すぐに吐き出して、「これは、まるでこの中ででかいのをやったような味ですなあ」と言った。ティルはげらげら笑い始めた。城主が、「なんだ、その馬鹿にしたような!私たちにはこの味が分からんとでも言いたいのか!嘘だと思うならここへ来て食ってみろ!」と怒鳴ると、「僕は食べませんよ。道端の草のことで、お言いつけになったのをお忘れで?こんな草を見たら、この中にうんこをしろと。強盗を縛り上げて捕まえないように。このコックがゼネップを持ってこい、と言ったので、お言いつけにしたがってやったんです」「畜生め、このくそガキ、地獄に落ちちまえ!私がお前に見せたのはヘネップ、麻で、コックが持ってこさせたのはゼネップ、からしだよ。全く、何をしやがるんだ!」そして、城主は棍棒でティルに殴りかかってきたが、素早く逃げて、二度と戻らなかった。