ティル・オイレンシュピーゲル

第1話 ティルの誕生 三度の洗礼と名親の物語

 ザクセン州のクナイトリンゲンという村のエルムの森のそばで、オイレンシュピーゲルは生まれた。父親の名をクラウス・オイレンシュピーゲル、母親の名をアン・ヴィプケンといった。両親は、生まれた子供を洗礼のためにアンプレーベンという村にやり、ティル・オイレンシュピーゲルと名付けた。アンプレーベンの城主、ティル・フォン・ユッツェンが、彼の名親である。(アンプレーベンというのは、50年ほど前、マクデブルク人達が街を救うために悪として滅ぼした城である。それに伴い今では、教会と村は偉大な大修道院長、聖アルノルフ・プファッフェンマイアーのものである)
 さて、オイレンシュピーゲルが洗礼を受け、両親が子供を連れてクナイディンゲンに行く途中、そこで子供を抱いていた代母が、クナイディンゲンとアンプレーベンの間の小川にかかる橋を急いで渡ろうとした。また大人たちは、洗礼の儀のあと沢山のビールを飲んでいた。(なぜって、子供を洗礼のあとビール小屋に連れていき、そこで食べたり飲んだりをする習慣があったからだ。そこで浪費した金は子供の父親が払うようだ)それだから、橋の上の代母は川に落ち、子供は可愛そうなことにほとんど窒息してしまいそうである。そこに、水浴びをしていた女性が子供を助け、自分の家に連れ行って温かいお湯できれいに洗ってやった。
 それで、オイレンシュピーゲルは1日に三度もの洗礼を受けた。1度目は儀式で、2度目は汚い川で、そして最後は温かいお湯の中で。

第2話 幼いオイレンシュピーゲルへの農民の訴え、ケツ出し事件

 さて、オイレンシュピーゲルはうんと大きくなり、歩くことができるようになると、他の子供たちと一緒にたくさん遊んだ。彼はとても元気な子だった。猿のように、ベッドの上や野原をはしゃぎ回るのは、3歳まで続いた。そして、そのいたずらな性格を直すようにと、父親と一緒に近所の人たちに怒られていた。ティルは、とんでもないいたずらっ子だったのだ。父親は、ティルにこういった。「どうして、おまえはいつもこんな風に、近くの人にバカなんて言われるんだい?」ティルは答えた。「お父さん、僕はだれにも、何もしてないんだよ。今からそれを証明するよ。あっちにいって、お父さんの馬に乗ってよ。そしたら、僕が後ろに乗って路地を走ろう。それでも、近所の人たちは嘘をついて言いたいことを言うんだ。それに惑わされないでね!」父親は、ティルの言う通り馬の後ろに乗っけてやった。そこで、ティルはお尻を上げて周りの人に見せてやり、また座った。人々はティルを指さして言った。「恥を知りなさい!全く、本物のバカがここにいるぞ!」そこでティルは言った。「聞いて、お父さん。僕が誰にも何もしていないのを見たでしょう。なのに、みんなは僕のことをバカだって。」
 さあ、ここで父親は愛すべき一人息子、ティルを前に座らせた。ティルは静かにおとなしく座っていたが、口を大きく開け、農夫達に向かってにやにやしながら舌を出した。彼らはなおも言った。「見ろ!何とバカな子供だろうか!」そこで父親が言った。「おまえは本当に不幸な時代に生まれたな。おまえは大人しく座っていたし、誰にも何もしていない。でも周りの人は皆、おまえのことをバカと言うんだな。」

第3話 引っ越しと、ティルのロープ遊び

 その後、ティルの父親は、家族とともにマクデブルクのダネンから、ザーレ川(エルベ川の支流)のそばに引っ越した。ティルの母親はここの出身である。しかしその後まもなくして、父親、クラウス・オイレンシュピーゲルが死んでしまった。母親は子供と村の中に残され、すっかり憔悴してしまった。そうして、家計は苦しくなった。ティルはもう16になるのに、仕事に就こうともせず、相変わらず元気で、数々のだましの術を学んでいた。
 ティルの母親は、農園が広間に面している家に住んでいた。そこで、ティルはロープ遊びを始めた。まず、お母さんの前ではやりたくないことがあるので、家の屋根裏部屋へ。これにより、母親はティルのロープの上でのいたずらの被害に遭い、ティルを殴るようなことにならないのである。以前、母親はティルをロープで縛りつけ、大きな棍棒で殴ろうとしたことがあった。そのときティルは窓から外へなんとか逃れ、ここまでは追ってこないだろうと屋根の上に駆け登ってそこに座ったのだった。
 そう言ったいたずらはティルがもう少し大人になるまで何度も続いた。そして、それがまた始まった。ロープ遊びである。それを家の裏にいる母親の上に持ってきた。と、人々がそのロープに気がついたので、ティルは逃げようとした。彼らはこちらに来、続いてティルが走っていくのを見た。人々は気になって仕方がなかった。なんのためにあの奇妙な遊びを始めたのか、どんな奇妙なことをするつもりだったのか。
 ティル最高のロープ遊びの時だった。ティルは母親に気づいた。でも、どうせ気付きはしまい。だが、母親はこっそり屋根裏部屋のロープがつながれているところにやって来て、そのロープを切り刻んでしまった。そして、ティルは落下して盛大に広間に突っ込んだ。農夫達はさもおかしそうに笑い、子供たちもティルに向かって大声で叫んだ。「お大事に!ずーっとお風呂に入りたかったんだね!」
 このことでティルは本当に不愉快な気分になった。しかし、ティルはそんなあざけりや嘲笑にはお構いなしだった。どうやって仕返しをしてやろうか、じっくり考えた。それから、できるだけの後始末をした。

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