ティル・オイレンシュピーゲル
第4話 靴のいたずらと喧嘩
すぐに、ティルはあのお風呂の事件の復讐をしようと、ザーレ川のむこうの別の家からロープを持ってきて、もう一度ロープ遊びをするのを人々に知らせた。老若男女、そこにすぐ集まってきた。ティルは少年たちに言った。左の靴を脱いで渡してくれたら、そのかわいい靴をロープに付けて見せてあげる、と。少年たちは、ティルの言うことは本当だと信じきっていた。大人たちもである。少年たちは靴を脱ぎ、ティルに差し出した。靴は全部で2ショック、60足近くになった。靴の半分はティルに与えられた。そこでティルは靴をヒモに通して、ロープの上に上った。ティルがロープの上にいるのを見て、多くの人は彼が楽しいことをしようとしている、と考えた。しかし、一部の子供たちは悲しんだ。靴を返してもらいたかったからだ。
ティルはロープの上に座ると、もう一度観衆に呼びかけた。「もう一度注意して靴を探してみてください」と同時に、ヒモを断ち切って、靴を全てロープの上から地面に投げた。靴は観衆の上に落っこちた。ある人はこちらの方で、またある人はあちらで靴をつかまえた。ある人が行った。「僕の靴だ!」と、別の人が、「違う、私のだ!」二人は喧嘩になり、殴り合いを始めた。二人は床に倒れ込み、観衆は叫んだり泣いたり笑ったり。この喧嘩はとても長く、大人のびんたが入って仲直りするまで続いた。
その間、ティルはロープの上に座りながら、笑って叫んでいた。「さあ、靴を探して!この間僕が後始末をさせられたお返しだ!」そうして、みんなに靴のことで喧嘩をさせた。
その後、ティルは何週間も人々の前に現れることが許されなかった。そのため、母親と、修繕した靴と、ずっと家にいた。そのことに母親はとても喜び、こう思った。全てうまくいっているのかもしれないと。しかし、彼女はこの靴の事件も知らないし、ティルがいたずらをしないように家にいるということも、知らない。
第5話 母の説教
ティルの母親は、息子がとても大人しくしていることを喜んでいた。だが、ティルが一向に仕事を学ぼうとしないので、叱った。ティルは黙っていたが、母親はやめなかった。すると、ティルはついに口を開いた。「お母さん、ひとつのことに専念する人は、人生満ちているというじゃないか。」そこで母親は言った。「おまえねぇ...かれこれ4週間、私はこの家でパンの1つも食べてないのよ。」だがティルは、「僕の言葉の答えにはなってないけど、どこかの、貧しくて何も食べるものが無い男は、いつも聖ニコラスの祝日(断食をする)みたいなものだろ。そして何か食べものを貰えば、その人にとっては聖マルティヌスの祝日(聖ニコラスの祝日に向けて蓄える日)になるんだ。僕たちもそうやって食べていけばいいんだよ。」
第6話 パン泥棒
「神様、お助けください。お母さんを安心させるにはどうすればよいでしょう。どこでお母さんのためのパンを、手に入れればよいでしょうか。」ティルは祈った。そして、母親の住む村から、シュタースフルトという町へ出かけ、そこで立派なパン屋を見つけた。そこに入っていくと、ティルは「ご主人様に10シリング(昔のヨーロッパの通貨単位)分のライ麦パン(重くて硬いパン。好まれている)と白パン(白くて柔らかめのパン)を送るのだ。」と言い、その主人の名前と出身地、なんのためにシュタースフルトにいるか、そして泊まっている宿の名前も告げた。さらに、一人の男の子と一緒に宿に戻り、そこで少年にお金を渡すつもりだ、ということもパン屋に伝えた。パン屋は了解した。そこで、ティルは持ってきた、目立たないような穴の空いている袋にパンを入れさせ、パン屋は少年を一人、お金を受け取るためにティルと一緒に行かせた。ティルは、パン屋から離れたところで、石弓の音の真似をして、白パンを穴から地面に落とした。ティルは袋を下に置くと、少年に言った。「ああ、汚れたパンをご主人様にお持ちするわけにはいかないなあ。早く戻って、違うパンを取ってきなさい!ここで待っているから。」少年は走っていって、別のパンを持ってきた。その間に、ティルは町外れにある民家まで歩いていき、そこでティルの村から連れてきた荷馬車に袋を載せて、いってしまった。そして、母親のいる我が家へ戻った。
少年が戻ってきたとき、ティルはそこにいなかった。少年は急いで戻って、そのことをパン屋の主人に伝えた。主人は、ティルが告げた宿屋に飛んでいったのだが、そこには誰もいない。まんまとしてやられてしまった。
ティルは母親にパンを届けて、言った。「ほら、食べなよ。パンがあるんだから。それで、無くなったらまた聖ニコラスの祝日だよ。」