『ラジオのページ』番外 『ジャンクカメラ修復』

2006年 大人の夏休み自由研究


 約20年続くことになるコニカのC35シリーズ最初のモデルです。発売後1年たった高校1年生の時購入しました。その後,高校・大学・社会人と使い続けました。大阪万博だった高校の修学旅行や色々な学校行事,友人との旅行,みんなこのカメラが一緒でした。このカメラを手にすると高校時代がよみがえってきます。思い出の多いカメラです。当時は(今もそうですが)カメラの知識などほとんど無く,カメラ店のショーケースで見かけてほとんど迷うことなく購入した記憶があります。理由は,値段が予算の範囲内であった,デザインがシンプルでごてごてしたところが無かった,軽くコンパクトで学生服のポケットにも入った,ニコンやキャノンに比べてマニアックな高級な感じはしなかったがどこにでも構えることなく持って行けそうであった,などです。当時友人の中には一眼レフに各種交換レンズを持ったマニアックな人もいましたがこのカメラにして成功だったと思ってます。もっぱらスナップ写真だけでしたが,操作が簡単で失敗がほとんどなく,ねらったところを逃さないよく写るカメラでした。その後長く続くC35シリーズの最初のモデルで,シリーズ全体ではかなりの数が出たと思われます。多くの人に受け入れられる基本構造やデザインの良さがあったのだと思います。高校生の時は写真部でもないのに学校の暗室を貸してもらい自分で現像もしました。結婚したころオリンパスのXAに換えましたが,私の手を離れてからは実家の母が大切に使い続けました。その母も80歳近くになりますが,フラッシュ付のオートフォーカスカメラ,最近購入のデジカメと変遷し,タンスの奥にしまわれていました。私もカメラはデジカメだけになりました。子どもも大きくなってほとんどプリントすることもなくなり,撮影するのはウェッブページ用の記録が主です。最近多くのカメラメーカーがフィルムカメラの製造から撤退するという話を聞いたのを機会に,お盆をはさんだ夏休みに壊れたKonicaC35の修復に挑戦しました。カメラについて特別な知識があるわけではありません。ネジ1本はずすところからの試行錯誤です。以下,『大人の夏休み自由研究』の記録です。 

 

Konica C35
1968年(昭和43年)発売,14700円,112×70×51mm,370g
35mmレンズシャッター式EEカメラ,自動露出メーター内蔵,一眼二重像合致式連動距離計付
レンズ : ヘキサノン f=38mm,F2.8,3群4枚構成,
シャッター速度 :  B・1/30〜1/650秒
露出調節 : CdS使用のEE(エレクトリック・アイ)機構による自動露出調節
EE連動範囲 : ASA100フィルムで F2.8 1/30秒 〜 F14.3 1/650秒
電源 : 1.35V水銀電池MR−44

露出計の針が振れない
 考えられる原因は,各端子の腐食や接触不良,回路の断線,メーターの故障,受光素子(C35はCdS)の故障等です。慎重に分解していきます。後で復元できるように,パーツごとに整理し,必要ならメモやデジカメで記録もしておきます。工具も特別なものは持っていません。小さなドライバーのセット,小型のラジオペンチ,コンパス,ピンセットなどです。楊枝と竹串が重宝します。竹串を必要な形に削って工具の代わりにしました。適当に硬く,金属も傷つけません。
   
 
 分解して調べてみると断線のようです。電池ボックスの端子と配線の半田が取れています。半田し直せばと思ったのですが,被覆をはがしてみると黒のリード線は中の芯線が腐食してぼろぼろです。電池の液漏れが伝わったのでしょうか。たどって行くとどこまでもこの状態が続いています。結局受光素子であるCdSの手前の半田付け部分まで来てしまい,ここから新しいリード線に交換することにしました。赤のリード線は大丈夫なようですが,分解中に切断して短くなったので途中で継ぎ足しました。赤リード線のプラス極がシャーシアースとなっています。
   
 
 仮配線をして電池につないでみるとメーターが振れます。メーターも受光素子も生きていたようです。
   
 
 電池ボックス周りの配線は要注意です。マイナス端子側はよほど細い線で少量の半田でないとシャーシに触れてしまします。危ないので左写真のように薄い透明プラスチック板で被い,絶縁版としました。電池ボックスを2本のネジでシャーシに固定する時も要注意です。右写真にドラバー示した弾み車のような円盤とリード線が触れてはいけません。シャッターの羽の動きが正常でなくなります。この弾み車のようなものでシャッターの動きが力学的に一定の速さにコントロールされていると思われます。
   
 
遮光材の黒いスポンジが融けている
 遮光材につかわれた黒いスポンジのようなものが融けてべとついたような感じになっています。ラジオでもこの時代のものは電池押さえのスポンジは同じような状態になっていました。メーカーは分っていたと思うのですが,どうしてこういう素材を使い続けたのでしょうか。「シール落とし」を少量たらし,楊枝で擦り取って最後にティッシュペーパーでふき取りました。ほぼきれいに落とすことができます。
   

 黒色の手芸用フェルトで代用することにしました。両面テープを貼り付け,カッターナイフで溝に合わせて切り取ります。溝に貼り付ける時も楊枝が活躍しました。
   

二重合致式距離計の調整
 
この部分の仕組みは次のようになっているようです。左写真の楊枝で示したレンズ部分から出た金属製のピンがレンズの動きに連動して出たり入ったりします。それが右写真ファインダーボックスのレバーを押し,てこのように向かい合ったもう1つのピンを押してボックス内にレンズの動きの情報を伝えています。
   
 
 どこかの位置でレンズの距離計の目盛りと物体の距離が2重合致像で一致するように校正しなくてはいけないわけですが,このカメラの場合,無限遠で合致していないことから調整が必要でした。私が使用していた時はこんなことは無かったので,なぜ狂ったのか原因が分りません。調整は左写真のドライバーで示したネジで行います。てこのようなレバーの構造とファインダーで見た2重合致像のずれからどちらに回したらよいかはすぐ見当がつきます。しかし,実際の調整は少しやっかいです。調整ネジを少し回してはファインダーボックスを本体に仮止めし,ファインダーで合致像を確認します。確認距離は無限大で行いました。これを試行錯誤的に何度か繰り返すしかありません。きっと値段の高い高級機は外部から調整できるようになっているのだろうと想像します。右写真はファインダーボックス内の様子です。
   

水銀電池が存在しない
 使用電池は1.35V水銀電池(JIS H−C型,MR−44)ですが,水銀電池は現在生産されていません。
(水銀電池には電池重量自体の20%にも相当する多量の水銀が使われるため,環境保全の見地から乾電池工業会は1995年末をもって水銀電池の製造を中止しました。)
入手できるのは同じ大きさのアルカリ電池(LR44)か酸化銀電池(SR44)ですが,電圧がすこし違います。アルカリ電池は1.5V,酸化銀電池は1.55Vの起電力です。設計は1.35Vを想定しているので,この違いはメーターの振れに影響するはずです。1.5V電池を使用すれば,実際の明るさより大きめに明るさが測定されてしまい,それにあわせて絞り値とシャッタースピードが設定されるわけですから,光の量が足りず,少し暗めの写りになると思われます。1.3Vに対する0.2Vは大きいですが,CdS受光素子の電圧特性がどうであるか,また流す電流による電池の内部抵抗の変化はどうなっているのか?,アルカリ電池と酸化銀電池でのそれらの値の違いは?,等の問題も関係してきます。このカメラの露出計の調整がどこまで正確になされて出荷されているのかの疑問もあります。どうしても露出の調整が必要ということになれば,このカメラの場合はフィルムの感度を実際に入れるフィルムの感度より下げるという手があると思います。たとえば,ASA(今はISO)400のフィルム使用なら,ASA320かASA200に設定するということです。しかし,私が撮るのはスナップ写真です。あまり難しく考えず,安いアルカリ電池で代用することにしました。フィルム感度もそのままで実家のお盆の様子を撮ってみました。少し暗めで光が足りないかなという感じの写りもありましたが,写真の構図の関係で原因が特定できません。おおむねこのままでも良いかなという感じです。次回はフィルム感度の設定を変えて試してみるつもりです。


EE(エレクトリック・アイ)機構による自動露出調節とプログラム自動シャッターについて
 要するに電子の目で明るさを判断し,絞り値とシャッタースピードをプログラムにより自動的に最適値にしてくれるというものです。明るさの測定については高校生であった当時も何か光センサーがついているのだろうと思っていましたが,絞り値とシャッタースピードの決定については複雑な電子回路(今でいえばマイクロコンピュータのようなもの)がついていているのだろうと考えていました。あまり興味もなかったのでそれ以後考えることもありませんでしたが,今回の分解・組立でその仕組みが意外と単純なものなのだろうと今にして見当がついたような気がします。絞りとシャッターはきっと別々のものなのではなく,1つの構造物で一体のものなのですね。シャッターの羽の形で絞りも実現しているものと思われます。シャッターの実際の動きの速度はきっと一定なのです。一定のシャッター速度で明るさに応じて羽の開き具合を変化させているだけなのでしょう。(もう一歩分解を進めればはっきりしますが,元に戻せなくといけないので今回はここまでにしておきました。)電池が付いているのに電源スイッチもなく,電池と単純にCdS素子が直列に繋がれていて電子回路らしき物も存在しないのを見てそう感じました。恐るべきアナログ技術です。電子回路についてはアマチュアの目から見ても,中学・高校・大学と,真空管・トランジスタ・IC・ワンボードマイコンと順に体験でき,良い時代に遭遇したと思っていたのですが,こういう機械のメカニズムも興味があったらまだなんとか理解可能な等身大のものだったのでしょう。いまの子どもたちはゲーム機にしてもパソコンにしてもその構造は大変複雑で,まったくブラックボックスです。そういう意味では少し不幸な時代です。身の周りの機器にメカニックな興味のある子にとってはその年齢で得られる知識とギャップがありすぎます。そいうことを解説した子ども向け科学雑誌が激減したのも残念です。


  

*写真背景のラジオRF-858やICF-500はこのカメラと同じ年に発売されたものです。
カメラの構造について特に詳しく調べたわけではないので,思い込みによる間違いがあるかも知れません。
 もしありましたらご指摘ください。