ここでは、日本語はもちろん、英語もほとんど通じない。BeerもWaterも通じない。少しでもスペイン語を話せた方がいいと思って、こっちで専門の家庭教師についてもらって勉強をしている。毎日1時間。部屋の中は暑いので、風通しの良いアパートの階段で教わっている(写真:真剣にお勉強)。宿題も出たりするので、結構ハードだ。でも、おかげで、ちょっとずつ覚えてきた。
突然話は変わるが、最近、金井さんは宇宙人ではないかと疑っている。
金井さんは、近所で殺人とか銀行強盗とかがあっても全然動じない。村を歩きまわるとき、オレは水をガブガブ飲んでいるのに、金井さんは1滴も飲まない。そういえば、この前の夜、天の川が見えることに感動していたら、金井さんは「天の川って、ほんまにあるの?」と言っていた。天の川を知らないということは、銀河系以外の星から来た宇宙人に違いない。
でも、そんな金井さんの弱点を発見した。
今日、蒸したトウモロコシを食べていたら、金井さんが「ギャー」とボロ布を引き裂くような悲鳴を上げて100mぐらい逃げていった。「トウモロコシに大きな虫がいるー」と叫んでいた。スペイン語で。
オレが、おそるおそるトウモロコシの皮をむいてみると、1cmぐらいの虫がコロンと出てきた。蒸してあるのでもちろん死んでいる。オレはてっきりスペイン語の単語を間違って覚えていたのかと思って「Grande(大きい)」を辞書で引き直してしまったが、間違いはなかった。
金井さんは、虫が苦手らしい。宇宙人のくせに。
虫が苦手なのによく熱帯に住んでいられるなあと思う。今、ノートパソコンで文章を打っていると、画面の上を小さい虫が横切ったりする。アリがキーボードの隙間に入り込んだりもする。ここは、そんな場所である。
ちなみに、トウモロコシについていた虫を取り除いてあげると、金井さんはそのトウモロコシをおいしそうに食べた。虫のいたあたりの部分は、切り取ってオレにくれた(おい!)。虫さえいなければ無敵らしい。本当に不思議な人だ。いや宇宙人だ。
オレは、虫より銃の方が怖い。