日本語版 OS/2 Warp4.52 を ThinkPad-T61 にねじ込む


■目次

 

■はじめに

 OS/2 に限らず、古い OS を新しい PC にインストールしようとすると、対応していないハードウェアや、高すぎるスペックが原因で頓挫する事がままあります。
 本稿のテーマである OS/2 Warp4.52 を ThinkPad-T61 にインストールしようとした場合にしても、多すぎるメモリ、シリアル ATA の HDD、ISA 接続の FDD が無いなど(OS/2 的には)厳しいハードルがてんこ盛りです。
(因みに、ThinkPad-T61 のハードウェア構成はこちら

 以下のインストール手順は、全て OS/2 Warp4.52 を ThinkPad-T61 (7662-B3I) へインストールする事を前提にしています。 他の PC へのインストールや、更に古いバージョンの OS/2 のインストールにおいても、差し替えるべきファイルが多少増えるだけで、同様の手段が通用するかも知れません。
(ただし、少なくとも CD でブート可能な Warp4 以降に限られると思われます)

 本題に入る前にお断りしておきますが、後述の段取りで使用するソフトの大半は、有志の方々が善意で公開されている代物です。
(このページもそう)

各ソフトの御使用、およびインストール作業については、全て自己責任で行って下さい。
また各ソフトの公開者、および IBM 社、Lenovo 社などに対して、このページの件で問い合わせを行わないで下さい。


 

■なぜインストールできないか

 主な原因は2つ。
 1つは、OS/2 は大量のメモリ(512MByte 以上)を搭載している PC ではブートできない事 (CPU の種類によっては問題無い事もあるようですが、とりあえず ThinkPad-T61 はダメ)、 もう1つは、OS/2 がシリアル ATA の HDD をサポートしていない事です。 何れの原因についても、対策用のシステムファイルは存在しますが、それらの適用は、OS/2 のインストールを一旦済ませた後で行うのが普通です。

 一方、OS/2 のインストール方法は、CD からブートしてインストールする方法と、FD からブートしてインストールする方法の2つがあります。
 前者の方法は、CD の中にあらかじめ用意されているファイルしか使えず、 当然 CD 作成時点で想定されていたデバイスにしか対応していないので、ThinkPad-T61 においては、インストール CD はブートすらできません。
 後者の方法は、FD の中のファイルを差し替えたりドライバを追加したりできるので、今回のケースのような、 デフォルトではサポートされていないハードウェア構成の PC にもある程度対応できる手段…なのですが、ISA 接続の FDD が必須です(USB のはダメ)。 比較的新しい PC には FDD が付いておらず、必要なら USB 接続の FDD を別途購入…というケースが多く、ThinkPad-T61 も例に漏れず。よってこちらの手段も使えません。

 ならば、カーネルやドライバのファイルを最新の物に差し替えた CD を作り直せばインストールできるんじゃないか?…というのが本ページの主題です。:-)

 


■用意する物

.OS/2 の各種最新システムファイル

 日本語版 OS/2 の公式な最終バージョンは、Warp4.52 + XRJC004 ですが、その後も非公式ながら細々とアップデートが行われておりました。 これにより、公式リリース時には想定していなかったようなハイスペック PC(例えば数 GByte の物理メモリなど)にも、ある程度対応できます。 下記の場所からダウンロードできます。

直リンク
http://www.serina.org/anon-ftp/pub/os2/warp45pak/W45_PACK.exe
 なお、この自己解凍アーカイブは OS/2 用の実行ファイルなので、解凍には OS/2 の実行環境が必要です。

.Daniela さん謹製ドライバ各種

 SATA のドライブを OS/2 に認識させるために必須です。下記の場所からダウンロードできます。

DANIS506.ADD
http://hobbes.nmsu.edu/h-search.php?key=danis506r185.zip

DANIDASD.DMD
http://hobbes.nmsu.edu/h-search.php?key=danidasd144.zip

DANIATAPI.FLT
http://hobbes.nmsu.edu/h-search.php?key=daniatapi040.zip

.特定のファイルを指定してブータブル CD を作成できる環境

 OS/2 に限らず CD から直接インストールできる OS の多くは、CD 内の特定のファイルを仮想的に FD に見立ててブートします。 OS/2 のインストール CD の場合、それは bootimgs\disk_0_1.img です。 このファイルは 2.88M FD が元になっているので、このファイルを編集(詳細は後述)した後で、このファイルをブートイメージに指定して CD を作成できる環境が必要です。
 筆者は、CD 作成は Microsoft Windows XP Service Pack 3 環境(以下単に Windows と記述)で行いました。具体的な作業は、イメージ作成と書き込みの2段階に分かれ、それぞれ別のソフトを用いました。
 イメージ作成には、mkisofs.exe というソフトを使いました。下記の場所からダウンロードできます。

CDRtools のフロントエンド
http://mouneru.web.fc2.com/cdrecord_fe/cdr_fe.htm

直リンク(CDRtools バイナリ)
http://atohanonda.hp.infoseek.co.jp/files/cdrtools-binary.zip

 書き込みは、普段使用している B's Recorder GOLD 5 で行いました。
 上記のリンクからダウンロードできるファイル群で、CD 書き込みも行えるらしいのですが、何故かうまく使えなかったので。(^^;ゞ

.2.88M FD イメージを編集できる環境

 前記の通り、OS/2 のインストール CD のブートイメージ(bootimgs\disk_0_1.img)は 2.88M FD のイメージです。
 具体的な編集の段取りは、下記のようになります。

  1. 上記のイメージファイルを 2.88M FD へ展開。
  2. 必要な編集を施す。
  3. 編集後の 2.88M FD のイメージファイルを作成。
 2.88M FD のイメージ展開&作成には、下記のソフトを用いました。
NFCP
http://www.vector.co.jp/soft/dos/util/se004902.html
 しかし、2.88M 対応の FDD を持っている方は、そう多くないと思います。そう言う私も持っていませんし。 そこで、DOS で使える RAM ディスクドライバを用いて仮想 2.88M FDD を作成する事にしました。下記の場所からダウンロードできます。
XMSDISK
http://www.vector.co.jp/soft/dos/hardware/se009171.html
 XMSDISK はデバイスドライバなので、CONFIG.SYS に下記の例のような内容を追記して使用します。
CONFIG.SYS
================================
DEVICEHIGH=C:\XMSDISK.EXE /2.88M
================================
 なお、上記のソフトは何れも DOS 用なので、当然作業も DOS 環境で行います。しかも、OS/2 や Windows の DOS 窓ではダメです。
 Microsoft Virtual PC(以下単に VirtualPC と記述…なお VirtualPC のダウンロードはこちらから)で構築した仮想 DOS マシンならばOKです。

 余談ですが、この作業を行うにあたって、前述の「CD を作成する環境」との間で、FD のイメージファイル(2.88M)をやり取りする必要があります。 当然、普通の FD 1枚には入りきらないので、ファイルを分割する等の手段を考える必要があります。
 そこで VirtualPC の仮想 DOS マシンであれば、ホスト PC の任意のディレクトリを、仮想マシンのドライブに見立てられるので、大きなファイルのやり取りに便利です。 ただし、VirtualPC 2007 以降では、この機能のインストールはサポート外になってしまった模様です。
(機能のための追加ファイルは残っているものの、インストーラが無い…因みに、インストール方法についてのヘルプの記載は、昔のまま残っている)
 自力でインストールする場合は、VirtualPC のインストール先にある、バーチャルマシン機能追加 CD のイメージ(VMAdditions.iso)の中の DOS ディレクトリの中身を取り出して仮想 DOS マシンに(FD などを経由させて)コピーし、 CONFIG.SYS 及び AUTOEXEC.BAT に下記の例のような内容を追記します。

CONFIG.SYS(注:ファイルの先頭に追加すること)
================================
DEVICE=C:\VMADD\VMADD386.SYS
LASTDRIVE=Z

================================

AUTOEXEC.BAT
================================
LH C:\VMADD\FSHARE.EXE
================================

 上記の作業は、筆者は VirtualPC の仮想マシンに PC-DOS 2000 をインストールして行いました。
 「今更 DOS のインストールディスクなんて持ってないよ!」という方は、 フリーの DOS(DR-DOS とか)を試してみては如何でしょうか。

.ThinkPad-T61 固有のドライバ

 下記のリンク先を参考にしてドライバを検索しました。

EComStation and OS2 on Lenovo Thinkpad T61
http://www.os2world.com/wiki/index.php/EComStation_and_OS2_on_Lenovo_Thinkpad_T61
 具体的には、ディスプレイドライバ、ネットワークドライバ、オーディオドライバ、USB ドライバの存在が確認されています。 ただし、全てのドライバの動作が筆者の手元で確認できたワケではありませんし、今となっては入手困難なドライバもあります(詳細は後述)。 各ファイルの所在は、後述の「作業手順」の「16」を参照して下さい。
 

■作業手順

 OS/2 の各種最新システムファイルのアーカイブ W45_PACK.exe を実行すると、 W4_PACKSMPPACK という2つのディレクトリが作成されます。 必須なのは、W4_PACK\FILES ディレクトリ下の下記のファイルです。

================================
OS2KRNL
OS2LDR
OS2CDROM.DMD

================================

 Daniela さん謹製ドライバのアーカイブを解凍し、IBM 謹製の同機能のドライバのファイル名に改名します。

================================
DANIS506.ADD IBM1S506.ADD
DANIDASD.DMD OS2DASD.DMD
DANIATAPI.FLT IBMATAPI.FLT

================================
 これらのファイルは何度か使用するので、前述のシステムファイル共々、いつでも取り出せるようにひとまとめにしておきましょう。

 OS/2 インストール CD の bootimgs\disk_0_1.img を、DOS 環境にコピーし、NFCP を使って 2.88M FD に復元します。
 具体的には、下記のようなコマンドを実行します。

対象ドライブが D: の場合
================================
NFCP.EXE D: -ODISK_0_1.IMG
================================

 前述の各種最新システムファイルのうち OS2KRNLOS2LDR の2つ、および Daniela さん謹製ドライバ3つ(改名済み)を、2.88M FD にコピーします。

 2.88M FD の内容を、NFCP を使ってイメージ化します。
 具体的には、下記のようなコマンドを実行します。

対象ドライブが D: の場合
================================
NFCP.EXE D: -BDISK_0_1.NEW
================================

 ブータブル CD を作成する側の環境に適当なディレクトリを作成し、そこに OS/2 のインストール CD の2枚目(「CD-ROM」と銘打たれている)の中身を全部コピーします。
(以下、C:\WARP_4_CP2 というディレクトリにコピーしたとする)

 OS/2 のインストール CD の1枚目(「インストール」と銘打たれている)の中の bootimgs\c.fil を、 C:\WARP_4_CP2\bootimgs ディレクトリにコピーします。

 「」で作成した OS/2 ブートイメージを、 C:\WARP_4_CP2\bootimgs ディレクトリに、元の名前(disk_0_1.img)でコピーします。 ただし、宛先には既に同名のファイルが存在する筈なので、事前に削除しておくこと。
(CD からコピーしたので、READONLY 属性を引き付いでいる可能性があり、その場合は上書きできない)
 あと、ファイル名は必ず小文字でコピーします。大文字だと正しくインストーラが動作しないようです。

 前述の各種最新システムファイルおよび Daniela さん謹製ドライバ3つ(改名済み)を、C:\WARP_4_CP2\os2image ディレクトリの下の同名のファイルが存在する場所にコピーします。
 「」と同様に、コピー先の同名のファイルを事前に削除しておく事。

 ThinkPad-T61 へのインストールに必須なファイル差し替えは以上ですが、他に必要なファイルがあれば適宜差し替え、 あとインストール後に追加したいドライバ(ディスプレイドライバ、USB ドライバ等)、 あれば便利なユーティリティソフト(コマンドラインで使えるアーカイバ、ファイラ、テキストエディタ等)もついでに混ぜ込んでおくと良いでしょう。
(インストール完了直後は、CD ドライブ以外のリムーバブルメディアが全く使えない状態なので、ファイルの受け渡し手段がコレしか無い)

10

 CD イメージを作成します。
 下記例では、C:\WARP_4_CP2.ISO というファイル名で作成しています。

================================
mkisofs -iso-level 1 -allow-lowercase -D -relaxed-filenames -b "bootimgs/disk_0_1.img" -V "WARP_4_CP2" -o "C:\WARP_4_CP2.ISO" "C:\WARP_4_CP2"
================================
注意:上記コマンドは1行です。ブラウザの都合で複数行に見える場合も、1行に直して実行して下さい。
11

 「10」で作成した CD イメージを、ライティングソフトで CD 化します。

 なお、実際に CD に焼いてしまう前に、前述の VirtualPC を用いて、その CD イメージで正しくインストールが行えるか、テストすることをお勧めします。
(CD を焼いた後で編集ミスのせいでインストールできないのが判明、では目も当てられません)
 具体的には、適当な仮想マシン(Memory 64MBype、HDD 500MByte 程度で十分)を作成して起動し、 仮想マシンのウィンドウが表示されたら、プルダウンメニューの「CD → ISOイメージのキャプチャ」を選んで、 「10」で作成した CD イメージを指定します。
 あとは実機と同じように、インストールを進めていくだけです。 ただし、この CD(のイメージ)を用いたインストールの進め方については、後述の注意点を確認しておいて下さい。 CD の取り出しが必要な場面では、同じくプルダウンメニューの「CD → [ISOイメージファイル名] の解放」で行います。

 余談ですが、VirtualPC 上の仮想マシンにて(OS/2 のような)マウスを用いるシステムを動作させると、 マウス制御が仮想マシンに占有されてしまい、通常の Windows での作業が行えなくなります。 マウス制御を Windows に取り戻したい場合は、右の Shift キーを5回連続で押します。

12

 インストール前に、インストール先 PC(ThinkPad-T61)の BIOS 設定画面を呼び出し、下記の設定を行います。

================================
Config → Serial ATA → SATA Controller Mode Option = 「Compatibility」
================================
13

 いよいよ ThinkPad-T61 に対して、作成した CD でインストールを開始します。通常のインストール時と違い、途中で CD を入れ替える必要はありませんが、特殊な出し入れが必要になります。
(詳細は後述)
 「ようこそ!」の青画面までたどり着ければ、ひとまず第一関門突破です。
(OS/2 が正常にブートし、且つ HDD と CD が見えている証拠)

 インストールの過程で念頭に入れておかなければならない事が2つあります。
 1つは、インストールするパーティションを所望するファイルシステムで許されたサイズにする事。 普通は HPFS を選ぶでしょうから、64GByte 未満でなければなりません。
 もう1つは、拡張電源管理(APM)のサポートを必ずオフにする事です。デフォルトではオンなのですが、 オンのままインストールを続行すると、TRAP D が発生します。
(最新システムファイル群の APM.SYS 等に差し替えてもダメでした)

14

 あとは、普通にインストール作業を進めていけるハズです。ただし、その過程で何度かリブートしますが、その都度インストール CD を取り出す必要があります。
(さもないと、その CD からブート → またイチからインストール作業が始まってしまう)
 具体的には、BIOS の起動ロゴが表示されたら CD を取り出し、OS/2 の起動ロゴが見えたら挿入します。 もし誤って CD から起動してしまったら、「ようこそ!」の青画面が表示されてから CD を取り出し、Ctrl+Alt+Delete 操作でリブートします。
(HDD からのブートを確認したら、CD を入れ直すのを忘れないように!)

 尤も、これ以降は差し替えたシステムファイルが必要になる場面は無いので、リブート時に、 本来のインストール CD の2枚目(「CD-ROM」と銘打たれている)に入れ替えてしまうのがお勧めです。
(この CD はブータブルではないので、入れっ放しでも HDD からブートできる)

15

 余談ですが、インストーラのバグだか仕様だかで、シリアルポートのサポートを「インストールしない」を選択しても、 デバイスドライバ COM.SYS および VCOM.SYS の記述が CONFIG.SYS に追記されてしまいます。 ThinkPad-T61 の BIOS はデフォルトではシリアルポートを無効にしてあるので、OS/2 ブート時に毎回エラーが表示されます。
(ブート自体は可能)
 インストール完了後に、COM.SYS および VCOM.SYS の行を、手作業で削除する必要があります。

16

 OS/2 の基本システムのインストールが完了したら、ThinkPad-T61 固有のドライバを インストールしていきます。

 

■結論

 どうにかこうにか、OS/2 をインストールするのには成功しましたが、まともに使えるデバイスが予想以上に少なく、少々残念な結果と言わざるを得ません。 主な特長は、高速な CPU(Core2DUO)、大容量 HDD(160G)、広い画面(1440×900)でして、それらを生かせるような用途でないと、常用には厳しいと思いました。

 あと、大きな区画(約 60GByte)を HPFS フォーマットでブートドライブにしたせいで、 ブートがかなり遅いです(デスクトップが表示されるまでに3分以上要する)。これは JFS をブートドライブのフォーマットに指定できる eComStation なら解決できる問題なのでしょう(たぶん)。
 遅いと言えば、画面の描画もかなり重い。まぁコレは 1440×900 の 16M カラーで使っているせいもあるのでしょうけど(色数を 256 カラーに下げると大分マシになる)。 SNAP ドライバのインストール時に「サポートしていないビデオチップだよ」と警告が表示されていた事を思えば、LCD の最大スペックで表示できるだけ有り難い、と考えるべきでしょうか。

 以上のレポートは、2010 年 8 月現在のネット上で、ライセンス等の縛り無しで入手可能なドライバだけでの動作確認なので、 もっと高級な手段(eComStation を購入するとか)で入手できるドライバまで手を広げれば、 多少は改善できるのかも知れません。
(日本語版が正式リリースされた暁には、買って試してみたいと思います)


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