vol.10


Lars Von Trier

DANCER in the DARK

ロングランを続けたヒット映画。おくらばせながら先週になって見ました。周りの人間の評価があまりにも高い映画だったので、覚悟して見にいったんですけど、ハッキリ言って期待を遙かに越える凄い映画でした。というか、映画で感動して泣いたのはここ数年来無かったんですけど、これは泣きましたよ。

この映画で重要なのは、主演が本来ミュージシャンのはずのビョークであるということです。私はこの人が主演でなければ映画館には行かなかったと思います。ビョークは洋楽を聞く人なら知らない人はまずいないと言う有名人で、傑作を数多く出しています。ちょっと前にでたアルバム"Homogenic"では、元LFOのマーク・ベルを共同プロデューサーに迎えて、ストリングスと打ち込みを組み合わせた大迫力の楽曲を作ってます。以前、富士ロックで来日してた時もストリングス隊とマーク・ベルを引き連れて、感動的なライブを見せてくれました。(というか、私はマーク・ベルの音が聞けるというだけで感動してました。)"Homogenic"の中では、特に”PLUTO”という曲が好きです。曲名のまま、壮絶なビョークの歌とマーク・ベルの打ち込みが暴力的に畳みかけるのが最高でした。
映画を見る前に、既にサントラは聞いてました。この映画のサントラもマーク・ベルが関わっていて、"Homogenic"の延長にあるといった感じです。映画を見る前は、「ううむ、やっぱり良い曲作るな…」という印象しかなかったんですけどね。レディオヘッドのトム=ヨークも参加してるし。

映画のお話について。
舞台はちょっと昔(60年代)のアメリカの田舎。そこでビョーク扮するセルマが息子と二人で暮らしています。しかし、セルマは遺伝性の目の病に侵されていて、視力を失いつつあります。しかも、息子にもこれが遺伝してしまうため、いずれは息子も失明してしまうことに。そこでセルマは息子の手術代を稼ぐために必死に努力するのですが、自らの視力低下に起因して様々な不幸が訪れます。勤めていた工場の職を失い、タンス預金していた手術代を大家に盗まれ、そして…。
という、端的に言えば社会の弱者が世の中になぶり物にされる様を延々と描いている話です。まあ、どんな社会でもたいてい弱者は酷い目に遭うのだから、リアルな話ではあるんですけどね。
ただ、この映画が凄いのはそんな酷い現実の中でも、常にセルマが歌を忘れないという所でしょう。一応この映画はミュージカル映画という構成を取っていて、セルマが現実を逃避した妄想の世界で歌い、踊る時に場面が転換されます。(映画的にはこの「現実」と「妄想」の切り替えも割とうまく使ってるんですが、まあ小難しい話なんでやめます)そこで歌われるセルマ=ビョークの歌が本当に素晴らしい。

この映画には音楽以外にも弱肉強食の社会システムへの批判とか、後の世代に引き継がれる原罪とそれに対する贖罪とか、掘り返せば色々考えさせられるテーマが多いです。でも、なんといっても音楽でしょう。