第一章 「満州国」建国前夜の中国東北部におけるケシ政策の様子


第一章 「満州国」建国前夜の中国東北部におけるケシ政策の様子

 「満州国」は建国にあたってアヘンがもたらす利益を当て込んで専売制度を確立ようとした。専売をするためには、まず国内のアヘンを統制する必要がある。そのためにケシの栽培地域を制限し、アヘンの収買、煙膏の製造、売り下げを政府が一貫して行なおうとした。しかしながらアヘンを財源にするといっても、もちろん日本が突然ケシの栽培を満州に持ち込んだわけでも、アヘンの吸飲の習慣を中国にもたらしたわけでもない。もともとアヘンによって財源を確保しようという流れが中国東北部にあった。
 アヘン戦争の前から、中国は流入し続けるアヘンに苦慮し、あっという間に全国に広がったアヘンによって様々な苦難を味わった。この広がりは東北三省をはじめ、熱河、承徳地方にも及び、これらの地域でもアヘンの生産や消費が盛んであった。満州は全体的に肥沃な土地に恵まれ、農業の条件としては適していた。満州は北京や天津という国際市場と大消費地が近いという立地条件がある。それが、ケシの栽培を進める原因になった。それだけではなく、日本や帝政ロシアの影響によっても農業生産が発達した。さらに満州内部では、軍閥や馬賊はアヘンを重要な財源とみなして栽培を奨励し、農民は財産をなす手段として重要視したため、政府の目を逃れて密栽培がなされてきた。
 満州では満州事変の前までにケシの栽培が拡大している。熱河などでは特に栽培の拡大が顕著である。そこには満州特有のアヘン事情が見えてくる。本章では後に日本が「満州国」を打ち立てる前夜ともいえる時代の満州の情勢を検証する。

■一章 「満州国」建国前夜の中国東北部におけるケシ政策の様子
 1節 満州社会に浸透するケシ栽培とアヘン
  1 「(〜1930)満州の農業事情」
  2 「(〜1930)アヘンの流通を受け入れる満州社会」
  3 「(〜1930)中国東北地方各地のケシ栽培の様子」
 2節 満州に蔓延するケシ栽培
  1 「馬賊とアヘン」
  2 「ケシ栽培が支える軍閥の財政」
  3 「熱河の湯玉麟 −ある軍閥のケシ栽培拡大政策−」

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