5.ダンジョンについて

5-1.ダンジョンの由来

 ダンジョン*[dungeon]を英和辞書で調べると『dungeon:(中世の城内にあった)土牢、地下牢』となっています。これが、現在ゲームなどで「地下迷宮」という意味で使われるようになったのは、Dungeons & Dragons®(D&D*)の影響によると思われます。
 D&Dとは、ゲイリー・ガイギャックスとデイブ・アーンスンによって作られた世界初のロールプレイングゲーム(RPG/日本ではTRPG*と呼ばれているもの)のことです。元々、中世の騎士同士が闘うシミュレーションゲーム(グレートキングダム:ボードゲームの一種)を元に、J.R.R.トールキンのファンタジー小説『指輪物語*』の世界をゲームにできないか?、というところから作られたゲームであると言われています。こうして作られたD&Dの初期のシナリオが、城の地下での冒険だったところから、ダンジョン=地下迷宮となったとされています。

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5-2.ダンジョンの定義

 では、実際には「ダンジョン」とはどのような場所を指すのでしょうか?。ダンジョンは「迷宮」とも言われるように、複雑な構造によって、侵入者が迷うような空間であると言えます。また、迷宮の「宮」の字が示すように、一定の範囲を持った閉鎖された空間でもあると言えます。
 全く迷うことの無い閉鎖された空間、例えば巨大な倉庫のようなものでは、ダンジョンとは言えません。同時に、閉鎖されていなければ、どこにでも行けることになるので、やはりダンジョンとは呼べないでしょう。複数の開口部を持つダンジョンもありますが、一方の開口部から他方へ抜けることを主として造られている場合、それは「通路」や「トンネル」と呼ぶべきでしょう(途中に何らかの障害が生じていればダンジョンとして成り立ちますが)。
 また、これらの他に、ゲームにおけるダンジョンには「冒険の舞台になる」という条件もつきます。冒険は「危険を冒す」と書くように、危険な場所で無ければなりません。つまり、上記のような条件を満たした場所であっても、全く危険が無ければ「生活するのに不便な空間」というだけであり、ダンジョンとは呼べません。同時に、危険を冒してでも入る意味がある場所で無ければなりません。冒険者にとって入る価値(目的)が無ければ、近寄る必要の無い危険な場所、というだけになってしまいます。

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5-3.ゲームにおけるダンジョン

 実際にシナリオ中にダンジョンを設定する場合、注意しなければならないのは、そのダンジョンは誰が、何のために造ったのかということです。これを設定しなければ、ダンジョンがシナリオのために存在することになってしまいます。

5-3-1.ダンジョンの外観

自然の構造物
 自然にできた洞窟のようなものである場合、まず、場所が限られているはずです。つまり、鍾乳洞であれば川や湖、浸食性の洞窟であれば海や氷河、火山性洞窟であれば、火山といった具合です。次に、洞窟の奥は真っ暗なはずですから、視覚を頼りとしている生物は存在しません。また、植物が生育できず、食料が不足するため、生息する生物の種類・絶対数は少ないはずです。これは、モンスターとして出現させる生物が制限されることを意味します。なお、洞窟につきもののコウモリですが、コウモリは洞窟の入り口付近を巣としているだけで、食料は洞窟外へ取りに行きます。

要塞・墳墓
 何かを守るための施設であれば、まず、ダンジョン自体が発見し難いようにするべきです。さらに、侵入者は絶対に排除しなければならないため、デストラップが設置されるでしょう。デストラップとは、確実に死をもたらすようなトラップの事です(確実に死ぬため、TRPGで使うことはほとんど無いでしょう)。ちなみに、最も簡単なデストラップは、一方通行の扉と行き止まりの部屋を用意するだけで済みます(これなら現実に作れます)。扉や壁を破壊する(簡単に壊れないように造るでしょうが)か、テレポートの魔法*でも使えない限り、入ったら出られない部屋の中で餓死します。複雑な機構を持つものは長い年月とともに故障する可能性があるため、シンプルなトラップの方が良い訳です。デストラップの最終兵器は、ダンジョンそのものの崩壊ですが、一回しか使えません(壊すくらいなら、最初からダンジョンなど作るべきではないのでは?)。

一般建築物
 普通の住居である場合もあり得ます。つまり、ダンジョンを家として生活している場合です。強大な力を持った魔法使いなどが、自分の建てた塔に住んでいるなどと言うパターンもこれに当たります(魔法使いの塔が何の仕掛けも無い塔と言うこともないでしょうが)。
 また、遺跡・廃虚・幽霊屋敷のような場合もあります。これらは現在使用されていないものの、以前は普通の建物であったため、トラップの類いは少ないはずです(床や天井が崩れることは考えられます)。また、何らかの生物が、住処として生息している場合もあります(幽霊屋敷はアンデッドばかりでしょう)。


 市街地の町並みそのものをダンジョンとして扱うこともできます。この場合、建築物自体に侵入することはあまり想定しません。街路そのものが舞台となります。
 ここからさらに、建築物や地下施設へ侵入することで、ストーリーを分岐させることもできます。

地下施設
 下水施設や地下街、さらには地下墓地(カタコンベ)などです。これらの特徴は、地上への開口部が複数存在することです。そのため、ダンジョンの奥へ奥へと進んでいく突破型のシナリオには向かないかも知れません。

鉱山
 鉱物資源採掘のために掘られた穴です。金属、宝石、化石燃料などが目的となります。通路は鉱脈に沿って伸びていくため、複雑な形状になります。採掘途中の鉱山より、閉山した廃坑の方がダンジョンとしては向いているでしょう(採掘途中の鉱山で採掘者を敵とすることもできます)。ただし、安全管理が行われなくなっている廃坑は極めて危険です。また、採掘し残した鉱物が得られるかもしれません。

造られたダンジョン
 前述とは全く異なる理由で造られたダンジョンもあります。侵入者を想定し、最初から「ダンジョン」として造られている場合です。他と区別するために『造られたダンジョン』と呼ぶことにします。
 造られたダンジョンは、ダンジョンが突破されることも想定されていることが他と大きく異なる所です。これは、ダンジョンが、侵入者への試練の場所として造られているためです。同時に、試練の場である以上、突破が不可能では無いにしろ、極めて困難な構造になっています。このタイプのダンジョンは、内部が管理されているため、モンスターにも制限はありませんし、保守点検も可能なことから、複雑なトラップも設置可能です。
 このタイプのダンジョンで難しいのは「誰が造ったのか?」と言うことです。よほどの力が無いとダンジョンなど造れませんし、それだけの力があれば、大抵の事は自分で解決できるはずです。何かを他人に託す必要がある、と言うことになるでしょう。

その他
 前項5-2の定義に従ってれば、ダンジョンが地下にある必要はありません。場合によっては、天井や壁がなくてもダンジョンとして機能します。たとえば、密林の中にわずかでも道があれば、人はそこを通るでしょうし、あまり道から外れようとはしないはずです。この場合、木が壁の役割を持ってくれます。結局、ダンジョンの通路は、侵入可能であるかどうかだけで造ることができる訳です。つまり、狭い山道、沼、川等もダンジョンとして使用できます。また、壁が存在しないことによって先が見えてしまうという問題に対しては、暗闇(夜)や霧を使うと言う手段もあります。

5-3-2.目的

財宝
 最も良くあるパターンですが、実際にはどうでしょう?。隠すのなら、深い穴でも掘って、直接埋めた方が発見され難いはずです。そのため、前述5-3-1の分類でいうところの「造られたダンジョン」のタイプが相応しいかもしれません。つまり、財宝の所持者が突破困難なダンジョンを設置し、突破できた者に財宝を与える、と言う訳です。
 同様にして、特殊なアイテムが置かれている場合もあります。こちらは、アイテムを所持するに相応しいかを、ダンジョンを突破できるか、と言うことで判定することになります。ただし、強力な魔法のアイテムのような場合には、このようなダンジョンは必要ありません。資格を持った特定の者のみが使用可能な設定にしておけば済みます(アーサーが岩から引き抜いた「王者の剣」がそうです)。

情報
 これも比較的多いパターンかもしれません。現代でも遺跡や墳墓の発掘は、過去の情報を得るために行うものですし、ダンジョンに住んでいる人に情報を聞きに行くという理由でダンジョンに入ることもあり得ます。

モンスター退治
 ダンジョンを住処にしているモンスターを退治する訳ですが、弱いモンスター(オークやゴブリン等)が対象である場合、複雑なダンジョンではないでしょう。また、単にモンスターがいると言うだけで退治するのでは、ただの殺戮者にすぎません。そのモンスターには退治されなければならない理由があるはずです。

移動
 ダンジョンに複数の開口部が存在すれば、移動目的の通路として利用することもできます。ただし、元からその目的で作られている場合は「トンネル」となってしまいます。形状が単純であるトンネルは、あまりダンジョンには向いていません。

脱出
 何らかの理由で、強制的にダンジョンに入れられた場合、ダンジョンから出ること自体が目的となります。
 魔法でどこかのダンジョンに強制的に送り込まれた、何らかの理由で牢獄に入れられた、ダンジョンや建築物探索中に別なダンジョンに侵入してしまった(元の場所には戻れない)、と言った状況が考えられます。
 この場合、PC達にはある程度のタイムリミットが生じます。つまり、水や食料が補給できない場合、それらが尽きるまでに脱出しなければなりません。そのため、探索は非常に緊迫したものとなるでしょう(バランスの調整は難しくなりますが)。

5-3-3.ダンジョンの内部

モンスター
 前述5-2で「ダンジョンは危険な場所でなければならない」としましたが、その危険要素の大きな部分を占めるのがモンスターです。
 出現するモンスターはダンジョンのタイプによります。つまり、5-3-1で述べたように、自然にできたダンジョンと造られたダンジョンでは、モンスターの出現の仕方が全く異なるということです。
 造られたダンジョンでは、ダンジョンの管理者の自由になりますが(無人で自動管理されている場合もあるでしょうが)、自然構造物の場合はそうはいきません。モンスター達はダンジョンに配置されているのではなく、そこに生息しているわけです。もし、モンスター達がダンジョン外へ出ることがないのならば、ダンジョン内だけで完全な生態系*が形成されているはずです。場合によっては、PC達の侵入によって生態系が崩れることもあり得ます。

トラップ
 必ずと言っても良いくらいダンジョンにはトラップ(罠)が仕掛けられています。そのタイプも、ピット(落とし穴)やスネア(対象を転ばせるために、草の先を結んで輪にしたり、低くロープを張ったりしたもの)の様な単純な物から、ローリングストーン(巨大な石球が転がってくる)の様な大掛かりな物や、テレポーター(別な場所へ瞬間移動する転移空間)の様に魔法的な物まで様々です。ただし、これらのほとんどは造られたダンジョン内にしか存在しません。また、ガーゴイル*やゴーレム*等はモンスターであると同時にトラップとして使うこともできます。
 特殊なトラップとして、ダンジョンの構造自体を利用した物もあります。ダンジョンの通路が文字の形になっている場合等です。この場合、通路の見取り図を記録(マッピング)しておかないと謎が解けないといったことにもなります。
 これらの、物理的なトラップの他に、ダンジョン内で得られる情報もトラップとして機能します。造られたダンジョンの場合、ダンジョンの壁や立て札等に文字が書いてあることが良くありますが、ここに偽の情報や謎かけ(リドル)が書かれている場合、PCの侵入の妨げとなります。
 造られたダンジョン以外では、大きな穴、底なし沼、落盤、落石、急流、等がトラップとして機能します。

アイテム
 ダンジョン内で手に入るアイテムにもいくつかのタイプがあります。
 まず、金銭的価値のある物品です。これは、貨幣や宝石等から、装飾された武具、調度品まで様々です。また、これらがダンジョン突破の最終目的である場合もあります。
 次に、ダンジョンを突破するために使用するキーアイテムです。文字通りに鍵である場合が多いですが、閉ざされた通路を開くための物であればどのような形の物でも考えられます。壁の穴に入れる石盤や、扉にかけれた魔法を解くためのスクロール(巻き物)等から、重量感知式スイッチを作動させるための砂袋のような物まで様々です。また、物ではありませんが、扉を開くための合言葉の場合もあるかもしれません。
 装備品が手に入る場合もあります。こちらも、一般的な物から魔法のかかった物まで様々です。また、呪いのかけられたアイテムである場合は、一種のトラップとなります。

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