ここでいう「背景世界」とはゲーム世界を構成する全てのもの(構成物質、物理法則、歴史、社会や文化等)を指します。
場合によってはゲームシステムよりも重要なのが背景世界を構築、設定することです。ゲームシステムはゲーム世界での出来事を表現するためのものであり、シナリオはゲーム世界でおこる出来事にすぎません。まずは表現すべき世界を設定することのほうが重要であると言えます。
背景世界が厳密に設定されていないと、薄っぺらいリアリティの無いものになってしまいます。
まず最初に、設定するゲーム世界はどこに存在し、どのようにして生じたのでしょうか?。
現実の我々が住んでいる世界は地球であり、地球は太陽系と呼ばれる恒星系の惑星の1つです。また、太陽系は天の川銀河(銀河系)の中にあり、天の川銀河は他の無数の銀河の中の1つとして宇宙の中に存在しています。
ゲーム世界を地球上に設定しなかった場合、新しく全く別の土地を創らなければなりません。
ゲーム世界を、宇宙の中の惑星の1つであると設定した場合、生命体が存在する以上、基本的には地球と変わらない環境になるはずです。ただし、この場合には魔法*や神*に関する設定が難しくなります。
逆にゲーム世界を全くの架空の世界として設定する場合、実質上何でもありなので、魔法でも神や生物でも自由に設定することができます。しかし、その世界にも物理法則が存在するはずで、それらを0から創るのは極めて大変です。そのため、地球とほぼ同じ環境でありながら超自然的な物(神や魔法)も存在する世界という設定が多くの場合用いられます。しかし、多くのゲームでは超自然的存在についての説明がなされることはほとんどありません。
設定されたゲーム世界にはどのような生物が存在するのでしょうか?。
前項2-1で述べたように、地球型の環境を持った世界が設定されることが多いとすると、そこに生息する生物も、地球上に存在するものと似た形状になるはずです。もちろん、実在する生物とは違った生物が進化の過程で出現することは有り得ます。しかし、生物種として生き延びているからには、その生物が他の生物と共に生態系*の中に組み込まれていることを意味します。
しかし、ほとんどのゲームでは生態系のことまでは考えられていないようです。特にコンピューターゲームにおいては皆無であると思われます。たとえモンスターと言えども、プレイヤーキャラクター(PC*)達に倒されるために存在している訳ではなく、モンスター達にも、その世界での生活があるはずです。同様に、生態系において人間よりも上位に位置すると思われる生物(ドラゴン等)が存在する以上、人間も生態系の中の一生物に過ぎないと考えるべきではないでしょうか?。
PCとして使用可能な生物としては通常、ヒューマノイド(人間型生物)が設定されることが多いと思われます(スライムの様な全く人間型をしていない種族を選べるゲームもありますが…)。これはプレイヤーである我々が、他の生物の精神構造まで理解してキャラクターを演じることが難しいからだと考えられます。つまり、人間以外の生物が実際に何を考えて行動しているのかは、分かり難いということです。
たとえ、他の生物の行動を理解したつもりになっても、人間の立場から見た解釈であることが多い様です。
<筆者の個人的見解> ペットについてどう思いますか?。 アニマルセラピーなどの様に、癒しの効果があるのは確かな様です。しかし、それは人間側からの見方であって、動物の方はどうなのでしょう?。 動物は、人間を癒そうと思っているわけではないと思いますし、それよりも、人間と同じ社会での生活を強要されている動物達自身を誰が癒すのでしょうか?。人間の役に立つように品種改良され、自然の中では生活できなくなった品種もあります。 「ペット」という呼び方自体が人間中心の、動物を差別した呼び方であるという考えもあり、代替語としてコンパニオンアニマル(伴侶動物)などがあるが、これもやはり人間中心ということで、単にコンパニオンと言ったり、フレンドやプロテクター(保護者)という言葉を用いることもあるといいます。 人間に飼われることが全ての動物にとって幸せなことなのでしょうか…。 |
ゲーム世界は、現実の世界には無い(まだ発見されていない?)現象を扱うことができます。その中でも代表的なものが、魔法と神の存在です。
2-3-1.神
まず神についてですが、現実の世界では「宗教・習俗において、信仰・崇拝・儀礼などの中心となる存在」とされています。ゲーム世界の神も、基本的には同じなのですが、一つ決定的に違うのは、神の力を形のあるものとして具現化できるということです。それは肉体の損傷を修復したり、外敵からの攻撃への防御であったり、時には空腹の信徒のために食料を出現させるといった形で現れます。
また、実際に物質的な肉体を持っている場合もあります。この場合は、神に、肉体の消滅をともなう死が有り得ます。現実世界でも、多神教の場合、過去に神である種族が実際に地上に存在していたが、現在では肉体は無く、その力だけが自然に影響を及ぼしている、という神話は多い様です。
<筆者の個人的見解> 日本に固有の宗教は無いのでしょうか?。 日本には昔から自然崇拝や、アニミズム(霊魂・精霊崇拝)に近いものがあったのではないかと思います。 無生物に対して「可哀想」だと言ったり、古い物でも「もったいない」と言って使用したりするのは、物に対して物質として以上の感情が働くからではないでしょうか。そこには、自然への感謝の気持ちがあったのではないかと思います(最近はそう言う習慣も薄れてきたようですが)。 こうしたことを宗教と呼ぶには、明確な対象も教義も無いので難しいのかもしれませんが、他の宗教が日本に根付かなかったことの一因になったのではないかと思います。 |
2-3-2.魔法
魔法については、ゲーム世界の数だけ魔法原理の解釈があると言っても過言では無いでしょう。しかし、大半は何の説明も無いままに「ファンタジーの世界だから」と言うことで魔法が使えることが多い様です。
魔法の原理を設定しているものとしては、「精神の力」「神や悪魔との契約」「他の惑星(衛星)からの力」「言葉に宿る力(言霊*)」「マナ*」「自然の力」「精霊」等々、を利用するものなどがあります。
最低限、設定しなければならないのは「その世界では魔法が一般的なものか?」と言うことです。
一般的ではない場合、PCといえども、簡単には魔法使いにはなれないはずです。また、NPCの前で魔法を使用した場合、特殊な反応があるはずです。
逆に一般的な場合、その度合いも設定しなければなりません。すなわち「魔法は一般の人にとって珍しくないもの」というレベルなのか「魔法が使えないことの方が珍しい」というレベルなのかと言うことです。後者の場合、生活の一部として魔法が使用されているはずです。なぜなら、その世界にとって魔法は我々の科学技術と同様のものであり、誰もが使い易いように発展しているはずです。つまり、我々がマッチやライターを使うかのごとく、火の魔法を使っていると言うことです。実際、このような設定はマンガやアニメにはありがちですが、大きな問題もあります。それは魔法の力がどこまで及ぶのか?、ということです。
現実の世界に、指を鳴らすだけで何でもできるような魔法使いがいたとしたらどうなるでしょう?。軍事目的で利用されるのは間違いないのではないでしょうか?。また、研究対象として研究施設へ送られる可能性もあります。同じ力を持つものが他にいなければ、容易く世界を支配できるでしょう。何でもできる魔法とはそれだけの力を持っていると言うことです。
たとえ魔法が一般的な世界でも、普通の人が使用できる魔法のレベルは限られるだろうと考えられます。
設定した世界の生物が社会的な生活を行っている場合、程度の高低はあっても、独自の文化・文明が存在するはずです。すなわち、言語、生活様式、技術、宗教などの全てを設定しなければならないということです。さらに、これらは生物の生活圏・生息圏ごとに設定しなければなりません。実際には全てを設定することは不可能に近いので、シナリオに登場する範囲の設定を行うことになります。その場合、設定を行う範囲としては、特定の限定された地域や、さらに狭い範囲で都市・村単位などが適当だと思われます。
コンピュータゲームにおいて、生活様式の設定を厳密に行っているものはほとんど無い様です。例えば、ゲーム上でどこか辺境の村に行った場合、なぜかキャラクターに必要な物を売っていたりします。冒険者に必要な物であっても、村人にとって必要の無い物であれば、よほど冒険者が来る村でもない限り産業として成り立たないはずです。同様な理由で、武器・防具屋などは絶対に在るはずがありません。たとえその村が怪物によく襲われるとしても、武具屋の経営が成り立つためには継続した売り上げがなければなりません。武具は修理が必要になっても買い替えることは少ないはずで、在庫が存在するほどの武具屋は小さな村には存在し得ないと言うことです。その村の主要産業が農業であった場合、鍛冶屋で農機具を作っていることはあっても冒険者が使うような強力な武器・防具は手に入らないはずです。また、シナリオの進行に沿って、訪れた街で手に入る武具のレベルが上がるのも実際にはおかしいはずです。
2-1〜2-4までの記述から言えるのは、架空の世界と言えど、世界を造り出すためには「神」にならなければならないということです。すなわち、宇宙を設定するためには、宇宙論・天文学等の知識が必要であり、それらの世界で起こる現象を説明するためには物理学(素粒子物理学・物性物理学)の知識が必要となります。冒険の舞台となる地図をつくるためには地学・海洋学・気象学等の知識、そこに住む生物については生物学(形態学・生態学・生理学・分類学・遺伝学・発生学・生化学・古生物学・生物地理学)の知識が必要となるでしょう。知的生物の文化・文明の設定には、歴史学・宗教学・経済学・政治学・建築学等が、また、ファンタジー世界なら神秘学等も必要でしょう。
一人で世界設定をするためにはクリエイター自身が全知全能の神とならなければならないと言うことです。多人数で行う場合は多神教のごとく、個々の得意分野の設定を行えば良い訳ですが、それぞれの設定の整合性を取るのが難しくなると思われます。