3.兵器について

3-1.核兵器

核兵器 [nuclear weapon]
 核反応によって、核エネルギーを爆発的に放出するようにした兵器の総称。原子爆弾や水素爆弾、核弾頭を装着したミサイル等。
 核弾頭を搭載し、ロケットで高高度に打ち上げ、目標に落下させるミサイルは弾道ミサイル[ballistic missile;BM]と呼ばれる。
大陸間弾道ミサイル [intercontinental BM;ICBM]
潜水艦発射弾道ミサイル [submarine launched BM;SLBM]
中距離弾道ミサイル [medium range BM;MRBM]
等。

原子爆弾 [atomic bomb]
核分裂*の連鎖反応によって瞬間的に大量のエネルギーを放出させる爆弾。ウラン*235、プルトニウム239を原料とする。複数の臨界*量以下の核分裂性物質を火薬で圧縮して臨界量以上にし、爆発させる。核分裂の際に発生するγ線*・β線*・中性子線等による放射線*障害、熱放射による火災と火傷、衝撃波による破壊等を起こす。

広島型原子爆弾

2つに分けられたウランを火薬で合体させる事で臨界量を突破し、核分裂を起こさせる。

広島型原爆の構造

長崎型原子爆弾

スポンジ上の物質にプルトニウムを吸わせて臨界量以下に分散させておき、その周囲の火薬で爆縮して核分裂を開始させる。長崎型原爆の構造

水素爆弾 [hydrogen bomb]
水素の同位体の核融合*反応を利用した爆弾。起爆剤として原子爆弾を中心に置き、そのまわりを重水素と三重水素または重水素化リチウムで囲み、瞬間的に核融合反応を起こさせる。周囲に天然ウランを置き、その核分裂反応も利用するウラン水素爆弾(3F爆弾)等もある。

中性子爆弾 [neutron bomb]
中性子線の放射を強くして人間・生物の殺傷のみを目的とした、小型の水素爆弾。熱風による破壊範囲の5倍以上の範囲に中性子を浴びせる。初期放射線中の高速中性子成分が多い所から、放射線強化弾頭とも呼ばれる。

<筆者の個人的見解>
 1999年9月に起こった東海村臨界事故で、初めて核物質の「臨界」という言葉を聞いた人も多いのでは無いでしょうか?。たぶん、作業員も知らなかったのだろうと思います。知っていれば、容器に規定以上のウラン溶液を注入する事も無かったでしょう。
 私がここで問題にしたいのは、日本は世界でも唯一の原爆被爆国だと言いながら、原爆についてほとんど何も知らない人が多いと言う事です。基本的な原理は、特殊相対性理論*を含めてもそれほど複雑なものでは無いと思います。

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3-2.生物兵器

生物兵器 [biological weapon;BW]
 細菌*やウイルス*を使った兵器。化学兵器とともに「貧者の核兵器」ともいわれ、生物毒素兵器禁止条約(1975年)で、開発、生産、貯蔵等が禁止されている。
 実用上重要な性質としては、
・外界の環境に抵抗性、安定性がある。
・実体確認が困難。
等があげられる。

【細菌】
植物の分裂菌類に属する単細胞生物。真正細菌、放線菌、糸状菌、スピロヘータ、紅色細菌等に分類される。球状・桿状・螺旋状等を呈し、葉緑体・ミトコンドリア等を持たない。生殖は2分裂で行い、環境によっては胞子*を形成。

破傷風菌(Clostridium tetani)
長さ4〜8μm、幅0.5μm。嫌気性のグラム*陽性桿菌。周鞭毛を有し、胞子により増殖。傷口等からの感染により破傷風を発症する。産生される菌体外毒素(テタヌストキシン)により、外傷性強直性痙攣を引き起こす。ワクチンによる予防が有効。

炭疽菌(Bacillus anthracis)
グラム陽性桿菌。経皮的・経口的に伝染し、感染経路により、皮膚炭疽、肺炭疽、腸炭疽等に分類される。皮膚炭疽では局所に炎症が見られる。肺・腸炭疽の初期症状は風邪に似る。肺炭疽では吐血、呼吸困難等の症状をきたす。いずれも最終的には菌が血液中に入り、敗血症*を起こす。致死率は、皮膚炭疽で数%、腸炭疽50%、肺炭疽80%とも言われる。

コレラ菌(Vibrio cholerae)
長さ1.5〜2μm、幅0.5μm程度のビブリオ属に属するグラム陰性菌。アルカリに抵抗し、酸には弱い。経口感染により、コレラを発症する。産生される外毒素(コレラトキシン)により、激しい下痢と嘔吐による、極度の脱水状態となる。

【リケッチア】
細菌とウイルスの中間に位置する一群の微生物の総称。グラム陰性菌と似た構造を持つが、生細胞でのみ増殖。通常は球状または桿状で、0.3〜0.5μm程度。多くは節足動物が媒介。発疹チフス・紅斑病・ツツガムシ病・Q熱等の病原体はこれに属する。

発疹チフス(Rickettsia prowazekii)
 コロモジラミの媒介により伝染。潜伏期は10〜14日。40度前後の高熱と全身に現れる赤く細かい発疹が特徴。ワクチン予防、抗生物質による治療が有効。戦争チフスとも。

【ウイルス】
核酸成分としてDNA*またはRNA*を持ち、生細胞に寄生して増殖する構造体。宿主細胞に依存した自己複製は行うが、自己代謝機能を持たない。

天然痘ウイルス [Variola virus]
天然痘(痘瘡、疱瘡)を引き起こすウイルス。10〜14日の潜伏期間ののち、高熱を発し、全身の発疹が膿疱化し、瘢痕が残る。空気感染による強い伝染力があるが、種痘*によって予防できる。

エボラウイルス [Ebola virus]
エボラ出血熱を引き起こすウイルス。血液感染し、感染から4〜16日のうちに頭痛、筋痛、発熱、発疹、肝炎、全身の出血を起こす。出血とショックで死に至るが、現在、有効な予防法、治療法は存在しない。

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3-3.化学兵器

化学兵器 [chemical weapon;CW]
 神経性、糜爛(びらん)性、窒息性等の有毒化学薬品を使用する兵器の総称。無差別大量殺傷能力をもつ。化学兵器禁止条約(1997年)で、開発、生産、貯蔵、使用等が禁止されている。また、同条約では遺棄化学兵器の廃棄も義務づけられる。
製造が比較的容易なため「貧者の核兵器」とも呼ばれる。
 実用上重要な性質としては、
・ガスまたは蒸気の比重が空気より重い事。
・残留時間が適当。
・水分・酸・アルカリ・金属に対して安定。
等があげられる。

【神経剤】
筋肉の弛緩に必要な酵素であるコリンエステラーゼの働きを阻害することで、筋肉が収縮したままとなり、全身の痙攣から呼吸困難に陥り、死に至る。

タブン [tabun]
ジメチルホスホラミドシアニド酸エチルエステル(C5H11N2O2P)。微かな果実臭のある無色の液体。半数致死量400mgmin/m3程度。

サリン [sarin]
イソプロポキシメチルホスホリルフルオリド(C4H10O2FP)。無色・無臭の液体。沸点は147℃だが気化し易い。生体に吸収されると神経麻痺を起こし、嘔吐・痙攣・縮瞳等の症状を示し、呼吸停止ののちに死に至る。半数致死量100mgmin/m3程度。(「sarin」は、4人の開発者の頭文字から)。

ソマン [soman]
ピナコールオキシメチルホスホリルフルオリド(C7H16O2FP)。果実臭のある無色の液体。皮膚からも浸透する。半数致死量100mgmin/m3程度。

VX [venom toxic experiment]
無色無臭の液体。揮発性が極めて低く、ほとんど蒸発しない。皮膚や目から浸透し、サリン等と同様に全身の痙攣から呼吸困難に陥り死亡する。

【糜爛剤】
皮膚、目、呼吸器に作用し、接触面を糜爛させる。糜爛剤はいずれも蒸発しにくい液体であるため、長時間にわたって効果を発揮する。

イペリット [yperite]
ジクロロエチルサルファイド( (CH2ClCH2)2S)。からし臭がするところから、マスタードガスとも。純粋な物は無色無臭。水に難溶で、有機溶媒に易溶。名前はベルギーのイープルで初使用されたことから。

ルイサイト [lewisite]
ジクロロアルシン(ClCH=CHAsCl2)。無色または微黄色の液体。水にわずかに溶け、有機溶媒に可溶。液滴や蒸気の付着した部位を糜爛させると同時に、体内に吸収されると、肺水腫*や下痢等を引き起こす。

【血液剤】
組織呼吸のオキシダーゼ*系を侵し、細胞が酸素を消費できなくなる。そのためエネルギー産生ができなくなり、エネルギー消費の大きい中枢神経系が停止する。

青酸 [prussic asid]
シアン化水素(HCN)の水溶液であるシアン化水素酸の俗称。桃の種やアーモンドに似た臭いとも言われる特異臭を持つ無色気体。冷却濃縮することで液化する。可燃性で、空気との混合で爆発性混合気体を生じる。水、アルコール、エーテルに易溶。青梅、桃、杏子等の種子中にアミグダリン等の配糖体として含まれている。致死量0.06g。

【窒息剤】
呼吸器系を刺激し、肺水腫を起こす。

ホスゲン [phosgene]
塩化カルボニル(COCl2)。常温では、干し草のような臭気を持つ無色の気体。臭気を感じた時は許容濃度を超えており、水に溶けにくい事で肺まで到達し、水分によって塩酸と二酸化炭素に分解する。身体内では解毒されず、肺水腫で死亡する。

3-4.その他

劣化ウラン弾 [depleted uranium ammunition]
 弾頭に劣化ウラン*を使用した弾丸。ウランは比重が大きいため貫通力が増す。残った放射能による発癌の可能性が疑われている。

非致死性兵器 [non-lethal weapons;NLW]
 敵を殺傷せずに無力化する兵器の総称。粘着性泡沫や方向感覚を狂わせる音波、送電線をショートさせる炭素繊維散布弾(ブラックアウト爆弾)、閃光音響手榴弾、等。

電子爆弾
 強力な電磁波を放射してコンピュータを無力化する兵器。

指向性エネルギー兵器 [directed energy weapon;DEW]
 高エネルギーのレーザーや粒子ビームで対象を破壊する兵器の総称。

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