「25日、空けておけ」

それはクリスマスの約束だと思っていた。
まさかこうなるとわかっていて、ああ言ったのか…
私は急いで走った、彼の待つ留置所に向かって。
 

[ Mr. Offender ]





「御剣さん…」
「…か」
「あの、何でも言ってください、何でもしますから」
「…」
「そ、そうだ、弁護士は決まりましたか?」
「すべて断られた」
「えぇ!?」
「国選弁護人になるだろうな」
「そんな…。そうだ、成歩堂さんに頼んだらどうですか!彼ならきっと…」
「奴だけはダメだ」
「…え?」
「…お前も、もう私に関わらないことだな…職を失うぞ」
「な、何言ってるんですか…いったい何を隠してるんですか…?」
「言うつもりはない」
「…」
「…悪かったな、アレはこのために言ったのではない、忘れてくれ」
「………また、来ます」

留置所を出た…涙がこみ上げてきて、どうしようもなくて。
今まで何だかんだ言いつつ心を開いてくれてたと思うのに、今日はもう完全に閉じられている…
ただでさえ、留置所にいることがショックだというのに…凄くつらかった…


「あれ…君は…」
「あ…」

ふいに顔をあげると、そこには成歩堂さんがいた。

「成歩堂さん…! もしかして、御剣さんの弁護を!?」
「いや…断れたよ」
「…」
「あきらめるつもりはないけどね」
「え…」
「あいつは絶対人殺しなんでしないよ」
「もちろんです! 成歩堂さん!私にも手伝わせてください!」
「え…というか君は…」
「検事局で主に御剣さんのお手伝いとかしてます、です」
「そうか…さん…よろしくね」
「はい…!」

こうして、私は成歩堂さんを手伝うことにした。
彼が私を相手にしてくれない以上、こんなことしかできない…

そうしているうちに、御剣さんは彼に弁護を決めた。
私は凄く彼に会いたかったけど…手伝ってることを見せ付けるような気もしたし、
また泣いてしまいそうで、そして自分を鼓舞するためにも、御剣さんには留置所の外で会うことを決めた。



<12月26日 法廷後 留置所入り口>



「成歩堂さん、お疲れ様でした」
さん…裁判見てたのかい?向こうで会わなかったからてっきりいないのかと…」
「もちろん見てました…後ろの方で…」
「そうか…なんとか、有罪は凌いだよ」

今日はもう本当にどうなるかと、緊張しすぎてどうにかなりそうだったけど、
相変わらずにどんでん返しを成歩堂さんがやってくれ、なんとか裁判が続くことになった。

そんなことを話しながら、再調査のため公園に向かう途中、前から気になっていたことを聞いてみた。


「どうして…成歩堂さんはそんなに御剣さんを信じられるんですか? 弁護士の魂ってやつですか…?」
「そうだね…正直、御剣はあまり語ってくれないし、普通だったら信じられなかったかもしれない…」
「ええ…」
「でも、アイツと矢張は俺にとって特別なんだ…」


公園を歩きまわりながら、彼らが小学4年のころ同級生で、学級裁判があったことを聞いた。
給食費を盗んだ疑いで裁判にかけられた成歩堂さんを、2人が助けたという話を。


「そうなんですか…」
「小4のくせに、”これだからシロウトは…”なんて、御剣らしいよな」
「そうですね…」


話に聞く御剣少年は、とても純真で…今の彼とはだいぶ違った。
でも、少し気がつき始めていたかもしれない、彼の本当の姿に…
親友の言葉に不安と迷いを感じ、自分のために侮辱罪にされた少女に唇を震わせたその姿に…


「…君は、どうしてこんなに頑張ってるんだい? 警察でもほとんどが彼を見放してるんだろう?」
「ええ…そうですね…私にとっては師匠のような存在で…」
「そうか…僕にとって、千尋さんみたいな存在かな…」
「千尋さん…あの、先日の裁判の被害者の…?」
「うん…」
「…すいません、嫌なこと思い出させちゃって」
「いいや…もうそんなに寂しくないよ…
たまに会えるし
「え?」
「いや、なんでも…


実のところ、御剣さんのことをどう思ってるかは、まだよくわからない。
ただ今はなんといっても、彼が有罪になるかどうかの重要な時期で、
そんなことは考えないようにしていた。
そう、すべては釈放されてから…そう思い、必死で成歩堂さんの手助けをした。




その甲斐あってか、彼は無事無罪となった。
無罪だけではない…自分さえ無罪になることを許せなかった、彼の過去さえも知り、
私はいつしか、彼をとても愛しく思っていることに気が付きはじめていた。


彼が釈放される日は、そんな気持ちと、
久しぶりに会えるという高揚感で、体中がバクバクしてどうしようもなかった。




「御剣さん…!」
…」
「良かった…本当に」
「…成歩堂について手伝っていたそうだな。いい助手だと言っていたぞ」
「私は何も…」
「…
ありがとう
「…え?」
「…なんでもない。…借りができたな」
「そんな…私はそもそも御剣さんに助けてもらったおかげで今ここにいるんですから、
 それを言うなら、借りを返したんです」
「・・・お前もそれか、全く勝手なことを。
俺の方が今までどれだけ助けられたか…
「?? えっと、お前もって…?」
「何でもない。ともかくそんな勝手な話は却下する。帰るぞ」
「え、ええ…」

よくわからないけど、とりあえず局に帰るようなので、後をついていた。
横に並ぶと、彼がこちらを向いた。けどすぐ前を向いてスタスタ歩いていく。

「…悪いが、俺はこの借りを忘れない」
「…え、だからそれは…」
「君が勝手に借りを作ったと思っているのと同じで、俺も勝手にそうさせてもらう」
「そんな…」
「だから…いつでも借りが返せるよう、いつでも傍にいるように」
「………?」
「……」

その言葉の真意がよくわからないのだけれども…
そっぽを向いた彼の顔を見ると、少し赤くなっているように見えた。

「御剣さん…?」
「…異議を唱えるつもりか?」
「え…」

立ち止まり、今度はこちらをじっと見る…顔が一気に熱くなった。

「あ、あの…」
「…いかん」
「…え?」

そう一言いうと、彼はまた前を向いて歩き出した…本当に何がなんだかわからない。
すると首をかしげている私に、言葉が振ってきた。

「1月1日…もう、こんなことを言える口ではないが…空けておけるか」
「…ふふ、また留置所で会うんですか?」
「馬鹿が…神社に決まってるだろう」
「…初詣ですか」
「君が宗教上の問題で来れない等の理由があるなら無理強いはしないが」
「ありませんよ」
「…」
「…楽しみにしてます…今度こそ、期待を裏切らないでくださいね」
「!…ああ…」


そうして、私達は局に向かった…新しい年への一歩をかみ締めるように。





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学級裁判の話のときは、カッコィィ!と言ってしまいましたヨ…てなわけで、盛り込んでみました。