中学に、なんの期待も、なんの考えもしていなかった。
今まででもう十分、嫌がられることには慣れたから、これ以上の苦痛もないだろうし、
何よりやっとU-14になれ、俺の頭の中はサッカーでいっぱいだった。
そしてこれ以上に、俺を占領するものはないと思っていた、中学の入学式。
【8】を背負う男 -1-
「なんか変な名前の奴、いたよな」
「そうそう、なんか言葉遣い変だったよな。朝鮮から亡命でもしてきたんじゃねーの」
笑い声が聞こえた、放課後の教室。
戻るつもりはなかった、ただサッカー部を見に行く途中で担任に捕まって、
日誌を持ってきて欲しいと頼まれた。
居合わせなければ聞こえなかった言葉。生まれなかった思い。
無視すればいい、こんな奴ら。
恵まれた環境を当然として、何の苦労も覚えず’普通’に満足してきた奴らに何がわかる。
そこで思考を停止させ、引き返そうとしたとき、声が聞こえた。
「バーカ、頭の足りねぇテメェらの方が変だっつーの」
思わず、俺は自分の口を押さえていた。
今のは俺が言ったのか…?
――そう思ってしまったぐらい、その言葉は俺の気持ちを代弁したようなものだった。
「んだとぉ? ブス!」
「そいつに教えてもらった方がいいんじゃないの? 日本語」
振り帰ると、一人の少女が夕日を受けて、不敵に笑っていた。
俺は呆気にとられて、しばし彼女を見つめていたら、パッと目が合った――漆黒の色が綺麗だと思った。
「? 何してんの?」
「あ…、日誌、頼まれて…」
そう言って、日誌の置かれた台を指すのが精一杯だった。
彼女は’あっそう’と言って日誌を手に取ると、帰る支度をしこっちにやって来た。
ヒュン、と、日誌をこちらに投げつけて、パシと受け取ると、
「お疲れ」
そう、肩を叩いてすれ違って行く。
視野の端で、さっき話してた奴らが俺の顔を見て慌てて帰っていくのが見えたが、
そんなのはどうでも良くなっていた。
振り返ると、階段を降りかけて、もうほとんど見えなくなっていた後姿。
目に焼きついたあの不敵な笑み。
彼女は俺のことをわかって言ったのか? …いや、そんな風には見えなかった。
あの凛とした瞳は、何者にも犯されざる、孤高の光を灯していたから。
それが彼女――
との出会いだった。
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出会い編、でした。
郭は’策士’なイメージが大きいですが、選抜に入るまでは、結構普通、というか
最初、将達に会ったときの「芝生なんかではしゃいでるぜ」とか「女コーチの気まぐれって奴?」(12巻)
というのを見ると、’エリート君その1’っぽいんですよね(椎名というよりは鳴海系というか)。
ただ、選抜に入ってからどんどん成長した、というか、樋口サンの設定が固まってきた(ぉぃ)というか、
いわゆる’緻密で腹黒そうな’(笑)英士くんが出来上がったわけで、この辺の変化を書いていきたいと思ってます。
ついでにU-14ってたぶん中学から入るんですよね…?(真田の小学生回想時ではJrユースだけっぽかったし…汗)
さらに言い訳ですが、郭の言葉について。
日本生まれの日本育ち、なんで、大して変でもないだろッと思ったんですが、最初に言葉の教師となる親が
日本語を外国語としている人間ならば、’普通’とは違くなるかな…と…思ってやって下さい(汗)。
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