屋上にいる君を、俺がが初めて見つけたんだと思っていた。 ここは君と俺だけの場所だと―― でも君はもうずっと前に、俺の知らない奴と約束を交わしていたんだね… 【8】を背負う男 -6-杉原が去った後、屋上に上がってみた君の顔は、 少し赤かった――夕焼けのせいだと思いたいぐらい、初めて見る表情だった。 それだけじゃない… さっき話していた表情、声、しぐさ…全く別人のようだった…あんなに明るく、朗らかに。 「…お疲れ様、見てたよ」 「…うん」 そういえば、君って俺の名前を呼んだことないよね…さっきは杉原のこと呼んでいたけど。 「…?」 君はまぶしそうに俺の顔をみる。逆光だから、読み取られはしないだろうと思ったけど―― 「ねぇ…大丈夫?」 君はなんだってお見通しだ…俺は君の事、まったく知らないのに。 「約束って…何?」 「…聞いてたんだ」 この際、聞き耳を立ててたとか、どう思われたっていい… 「杉原とは、どういう関係なの?」 今まで踏み込まなかった領域に、今まで抑えてきた衝動に任せて言葉を紡ぐ。 わかってるんだ、俺は1人――誰の聖域にも踏み込むことはできない。 ただ、もう我慢できないんだ…たとえ2度と声を聞けなくなっても、もうこの状態のままで 君の傍にはいられないんだ。 夕日に照らされ、風に髪を自由になびかせている君の姿は、とても美しい。 俺がここで唯一手に入れたカラー…これが最後だから、余計美しいのだと思う。 でも、君は笑った、あの不敵な笑みで。 「開いたね、やっと」 「…え?」 開いた? 何が? 「貴方が」 「…俺が?」 君はずっと笑ってる…優しい目で。 「杉原くんと会ったのは…病院の屋上。お互い虐められっ子でさ、二人でよく屋上に隠れてた…今の私達みたいに」 少し、むっとする。俺は別に―― 「逃げてるわけじゃない、でしょ? 私もそう思ってた」 見透かすように言う君。 「でもね、私、杉原くんと遊んでいるうちに…わかったの」 「…何が?」 「心の開き方」 「…君からそんな言葉を聞くとはね」 「私ね、貴方の心、開くの待ってた。それに確信してた、必ず開くって」 「…どうして?」 「貴方のサッカー、徐々にね、心から楽しんでるのが見てるだけでわかるようになっていったから」 それは―― 「そしてついに、私のずっと近いところまで、来てくれた。初めて、私のことを聞いてくれた」 それは―― 「ぜんぶ、君だよ」 「…え?」 「俺の心に、鮮やかな色をつけてくれたのは、君だ…」 もう、頭の中に言葉はなかった――ただ強く、君を抱きしめていた…ずっと傍にいる君を。 夕日が沈みかけても、俺はただずっと抱きしめていた。 君は全然動かなかったのをいいことに、ずっと抱きしめていた――これがきっと最後だから。 杉原のおかげで、今ここにいる君に、俺は助けられたこと、認めたくもないけど…仕方がない。 俺は後ろ髪を引かれながらも、君の体をゆるゆると放した。 こんな間近で、君の顔を見れるのも、もう最後だと思うと、じっと見ずにはいられなかった。 すると―― 「なんて顔してるの」 その、君の言葉が終わると同時に… 「な…」 俺の唇は奪われていた。 君の事、たぶん今までないくらい驚いた顔で見ている俺に、君は背中を向けて、こういった。 「もう1つの質問にも答えておくね…約束」 正直俺は目の前でおこったことで精一杯だったが、君の声に耳だけ傾ける。 「子供っぽい約束。この世で唯一、大事な人、見つけられなかったら、一緒にいようって」 すこしはなれたところで、振り返り、俺を見る君。 「私、杉原くんに、一緒にいようって言えなかった。…あなたを、見つけたから」 「それって…」 ゆっくりとあけられた間は、俺にすべてを結びつける答えを分からせ始めていた。 「あなたのことを、愛しています」 いつの間にか沈んだ太陽の代わりに浮かんだ月の光。 夜の闇を背にその月光を映す姿は、今までの…どんな君よりも、美しかった。
[ END]
ということで、最後は策士らしく?決めてもらいました。ここまでお付き合いくださって、ありがとうございました<(___)> ドリームメニューに戻る |