「え――――っここも範囲なの!?」
今日、三月十四日は期末試験最終日であったりする。
試験当日しか試験勉強をしない太公望くんがお隣のさん宅に試験範囲を聞きに来たときにこんなことを呟いたのである。
「ふむ、五十七から百九ページか…。ということは、百三十五ページも範囲じゃな」
この一言は一週間前から勉強していたを驚愕させたのであった。
「な、なんで百三十五ページも範囲になるの? 望ちゃん」
「百三十五は丁度試験範囲の練習問題であろう。おおかたここの類似問題とちょっとした応用問題が試験内容だと思うがのう」
教科書に視線を落としたまま太公望が言う。
「あーっ本当だー…!」
問題に目をとおし、は肩をがくっと落とす。
「お主なー早くに勉強しておきながら何故気がつかぬのだ?」
「望ちゃんこそ、なんで今朝教科書みただけで気がつくのよ〜」
は恨めしそうに太公望を見る。
「お主の要領が悪すぎるのじゃ」
あきれた様子で太公望は流花を見返した。
「望ちゃんの要領がよすぎるんだよ〜。もーずるいっずるすぎる!」
「ずるいと言われてものー…それがわしの専売特許だからのぅ」
太公望はニョホホホと笑いながらも教科書から目を離さない。
「望ちゃんばっかずるいよホント」
「まぁまぁ」
「どーしよー…全然やってなよ」
「そうかそうか」
「なんだかんだで望ちゃん私より点数いいもんね」
「まぁまぁ」
「授業もちゃんとしてれば、ぜったい成績も良くなると思うよ?」
「そうかそうか」
「…………望ちゃん聞いてる?」
「まぁまぁ」
太公望はまったく教科書から目を離さず、ぶつぶつと暗唱している。
「もーーーっ!!
私、先に学校行くから!」
「そうかそうか」
「…望ちゃんなんてもう知らない!」
は教材をかばんにつっこみ、だんっと立ち上がると、家を出た。
「…ん?」
一人残された太公望が首を傾けた。
今日、三月十四日は期末試験最終日であるとともに、ホワイトデーであったりもする。例のごとくバレンタインデーのお返しの日であり、もちろん流花は太公望にチョコをあげたので、定石でいけば今日"お返し"をもらうことになる。バレンタインもご近所では恒例行事のひとつのようで、去年までは特に意識せずにあげていたような気もする。だが今年のチョコは…
「…望ちゃんては、今日が何の日かわかってるのかしら!?」
ずんずん歩いていくさんこそ、今日が期末試験最終日だということをわかっているのか…。
こうして、三月十四日は幕を開けたのであった。
「さん!」
教室に向かおうと廊下を歩いていたは、ふいに声をかけられた。
「あ、楊ぜん先生」
足をとめ振り返ると、そこには紙袋をもった変態教師(太公望談)楊ぜんが手を軽くあげていた。
「これ、バレンタインのお返し」
紙袋から包みを一つ取り出すと、に差し出す。
「え、いえ、あれは…クリスマスのお礼ですから」
「…僕は結局手伝ってないよ。トナカイは四不象に代わってもらったしね」
「…そう、ですよね」
「そうさ。だからお返し。もらった子にあげてるものだから」
そう言って、紙袋を見せる。
「…先生、律儀、なんですね…」
「いい男には地道な努力がつきものなんだよ」
妙な説得力のあるセリフをフッと笑ってきめると、楊ぜんは「それじゃテストも頑張ってね」と立ち去った…
「さぁっ今日で期末試験も終わりだ!そしたらもぅ春休み! みんな最後の力を振り絞って頑張れ!!」
道徳先生がシュッと拳を振り上げた。
「試験問題はまわったね! それじゃスタート!」
ビ〜〜〜ッと笛の音がなる。
「(そ、そうよっ、今は試験頑張らないと…なんとか留年だけ…(汗)」
はそう心に誓い、ペンを握った。
一方、太公望君は―――
「(…ふむ、この問題は予想通りじゃな…。…は、来とるな。全くいきなり出て行きおって、いったい何をカリカリしとるのだ、あやつは…)」
女心のわからない太公望君はさておき、最後の期末試験はそつなく終了したのであった。
『っはい♪ ホワイトデーおめでとーこれお返し♪』
碧雲と赤雲が近寄ってくると、綺麗にラッピングされた包みを、二人同時に差し出した。
「あ、ありがとー、私も…、ハイ♪」
かばんの中からも包みを出すと二人に渡すーーたまに見られる女の子どうしのホワイトデーである。普通はバレンタインのチョコ交換で終わるが、諸事情があるとホワイトデーも行われたりするのだ。
『(で、太公望からお返しはもらったの!?)』
「(碧雲ちゃんこそ、楊ぜん先生からもらえたの?)」
「(そうなのよっもらっちゃったわ〜っもぅこれ神棚に飾っとく!)」
狂喜し見せた包みは、朝、がもらったものと同じであるのは秘密である。
「(その様子だと、まだなのね、)」
「う、うん…」
「大丈夫よ。だって二人は誰が見ても相思相愛よ!」
「…そこ、声がでがいぞ」
「きゃっ望ちゃん!?」
自分の背後から聞こえた声に、は思わず飛びのいた。
「…帰らぬのか、」
「う、ううん、帰るよ」
「では行くぞ」
そう言うと、太公望は背を向け歩き出した。
「ちょ、ちょっと待って。碧雲ちゃん、赤雲ちゃん、またね!」
『(がんばってね!)』
ガッツポーズをする二人に後押しされ、は太公望のあとを追った。
しかしながら、碧雲と赤雲が期待するような展開はなく、二人は普段となんら変わらぬまま家にたどり着いた。
「そ、それじゃっまた明日ね、望ちゃん(〜〜もぅ、本当に忘れてるのね)」
「ああ…あ、」
家に入ろうとしたが何気に振り向くと、太公望は口を開いた。
「今朝はすまなかった」
それだけ言って、家に入っていた。
実は太公望の中ではあまり合点していないのだが、朝、が何を話していたのかよく覚えていないし、幼馴染の誼で彼女が怒っているときは素直に謝るがよしと心得ているので、このような行動結果にいたったのであった。
案の定、それだけでは今朝のこともホワイトデーのことも許せる気持ちになっていた。
(そうよ、私はああいう望ちゃんが好きなんだから、お返しを忘れてるぐらい…)
そう考えながら部屋に入った。だがは、机に鞄を置こうとした瞬間、体の動きが止まり、今考えていたことなど頭からすっかり消え去ったのであった。
そこにあったのは、美味しそうに熟れた一つの桃。
「ありがとう」と書かれたノートの上に乗った一つの桃――
【 第六章 : 終 】 [ BACK ]
期末試験&ホワイトデー編でした 分岐で全キャラのEDとか作ってみたいですね
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