「よぉ、」
抱えた洗濯物の先から、昼間に似合わない声がした。
:::見上げる空::::
「…ゲイン?」
この男の声が昼間に合わないと思うのは、たぶん私だからだろう。
男に会うのはいつも夜だ。
出会いも酒肴ただよう夜の酒場だったはずだ。
金を取ってるわけではない。
惚れたから。ただそれだけ。
それから度々躰を重ねたけれど、そんなのは夜に決まっている。
だからドキリとした、その声に、別れの予感。
「洗濯か」
「見たまんまね」
日の当たる路地に張ったロープまで洗濯物を持ってきて、私はタライにそれを下ろした。
ゲインは私がいつも洗濯が終わってから一服する椅子に腰掛けた。
その様子を横目で見て、特に気にせず洗濯物を干す作業を始める。
「…」
背後で黙ったまま、何も言わない。
シャツを掴む手が少し震えた。
いつか来るだろうとわかっていた、躰だけの関係に未来はない。
だが惚れた相手なのだ、今も変わらない。
それを一方的に解消されるのが、怖い、怯えてる。
最近は夜でも怯えていた、だからなおさら、昼間になんて怖すぎる、疑わずにはいられない。
そうこう考えてるうちに、洗濯物を干しきってしまった。
仕方なく振り返ると、ゲインはこちらを見ていた。何か言いかけてやめる仕草。
「何?」
「…いや、似合わねぇなってな」
指で私と空を指して言う。
「ぷ」
噴出してしまった。
「ん?」
怪訝な顔をする彼の膝に腰を下ろす。
胸と背中に、夜とは違う温もりが生まれる。
「…何だよ」
今度は彼が聞いてくる。
「ふふ…」
腰に回った手で遊びながら、甘い笑いがもれる。
「同じこと、考えてたから」
「はっ」
腹で笑ってる振動が伝わる。
一緒に笑いながら、頭を彼の肩に乗せて寄りかかる。
「奥さんいるんだって?」
彼の耳にやっと聞こえるぐらいの小声で囁く。彼の笑声が止まる。
「誰から…」
「みんな知ってるわよ」
視線だけ絡み合って、小時間。
こんな時間がずっと続けばいいと思ってるのは私だけ?
「別に約束したわけじゃ…」
「子供で十分よ」
頭を上げ身体を起こし、彼の前に仁王立ちになる。
「約束がないっていうのは、私達のような関係よ」
「…ガキが出来たら?」
「出来ないもの」
その時の彼の顔ったら、可愛すぎて写真にでも撮っておきたかったぐらい。
「ごめんなさい、黙ってて。
でもこういう関係だから気にならないし、逆に都合がいいと思って」
「…病気か」
「医者は先天性だと言ってたけど…エクソダスすればきっと変わる思って」
人類が自然界を捨てるという環境の変化に、何も犠牲を出さないわけがない。
かごの鳥は、空を飛ぶほどの力は必要ないと進化したんだろう。
人類の出生率は図らずとも先天的に低下させられていた。
「…そうか」
「ええ…」
「なら俺の子を生んでくれよ」
「…は!?」
「可能性にかけてるんだろ?」
「…今までの話の流れで、どーしてそうなっちゃうの?」
「男はいつだってそうさ、自分の子孫を残したがってる」
不敵に笑う。
別に押し倒されてるわけでもないのに、そんな威圧感と高揚感を覚える。
これはもう苦笑するしかない。
「その調子で、あちこちに子孫を残してるのね? さすが請負人様、お世話様ね」
「厳しいねぇ…それが惚れた男に言う台詞か?」
「ふふっ…惚れた男、だからこそ」
間を空く。いつまでも見つめていたいのに、今、自ら終止符を打つ事に。
「同情で抱いてほしくないの。
嘘を白状したのは、最後に貴方の驚いた顔が見たかっただけ。気にしないで」
彼に背を向け、用もないのに干しきった洗濯物に手をのばす…
彼の返事は、ない。
さよならまでも私に言わせようとしているのか…
行き場もなく彼のほうを振り返ると、そこには私の特等席の椅子しかなかった。
「…」
さよならさえも言わせてくれないのか…
胸の苦味を押し殺して、椅子に近づこうとした瞬間
背中から伝わる温もり、
シーツ越しに感じる体温。
でも夜とは違う、風を受ける。
苦味と同じくらい苦しい強い抱擁が、痛みを通り越して気持ちいい。
そんな痛みに酔いしれ、ぼうっとしていると、やっと彼の声が聞こえた。
「何、バカ言ってるんだよ」
「…貴方こそ、なんで来たのよ」
「あ?」
「昼間に会うなんて初めてでしょ? お互い違和感感じるくらいなんだから」
「…そうだな」
彼の手が躰を撫でる、いつもの慣れた手つきでなくて、どこか彷徨うように。
「…アスハムにガキがいるって聞かされたとき、
久しぶりにショックっつーのを受けた、色んな意味でな」
「…無責任」
「そう言うなって。あいつとはそうなってもおかしくなかったから
まぁガキがいたってびびる事じゃねぇが…
俺のガキ第1号はお前に決めてたからなぁ…」
「…調子いぃ」
顎を挙げて上を見上げると、ゲインが笑った…
口とは相反して、不覚にも頬が緩んでしまっていたのだろう。
「あいつも俺のことなんか忘れて、もっとマシな男を見つければいいのにな」
「…惚れた女から言わせてもらうと、
ゲイン・ビジョウよりいい男なんて、この世にいるとは思えませんけど」
上目遣いの先には、肩を揺らして笑う愛しい人。
「だったら出てっていいのか?」
「な…、今貴方がいなくなったらみんなこま…」
否定を紡ぐ私の唇にキスを軽く落とす。
私の視界に彼の首筋がかぶさり、また青空が覗いた。
「…俺の目の前にいるお嬢サンは困らないのか?」
そのときの私の顔といったら、きっとゲインの驚いた顔より間抜けだっただろう。
「困るに決まってるでしょ!」
彼の頭を引き寄せ、今度はこっちからキスをする。
その先には、どこまでも青い空にシーツが揺らいでいた。
エクソダスはまだまだ続くし、いつ攻撃されるかわからないし、
彼は相変わらず女ったらしで、私の病気もまだ治る兆しがないというのに
”俺はお前の傍にいる”
そう囁かれるだけで、どうしてこんなに幸せなのか…
見上げた空は似合うかもしれないと思った、ある晴れた日。
:::END::::
キングゲイナーというWOWOWでやってるサンライズアニメの色男です。
どこにも夢小説が見つけられず、自分で書いてみたんですが…ゲフ、なんなんでしょう、全く。
このノリはいつもどおり続きそうですが、大体読まれた方がいるか怪しい所です(~_~;)。
続きを読んでもいいと言う方、他のゲイナードリームをご存知の方、是非ご一報願います。m(__)m
ご存知でない方にはオススメしたいです、キングゲイナー。OPからノリノリで楽しすぎなロボットものです☆
最後の"俺は〜"はありきたりなんですがEDテーマにある歌詞なんで使っちゃいました(^_^;)。
----------------------------------------------------------------------
カタカナ夢にバック カキコしちゃる!