:::見上げた月::::






「もう行くの…?」

身支度を整えた俺にがベットの中から甘い声をかけてきた。

「あぁ、ちと約束があってな」

以前なら適当に誤魔化していたが、今はそうするつもりはない。
俺としたことが、仕掛けてきた女に本気になっちまった。
ここを離れようかと思ったとき、浮かんだのはこいつの顔。
そう美人でもない(失礼)くせに、俺を縛り支えるのはこいつなのだ。

「…女?」
「男だよ」
「…ゲインってそっちの趣味もあったんだ…」

真剣味をおびた声で言うもんだから、俺はきっぱり否定した、全く…

「お嬢さんはゆっくり寝てな。君の夢路に招待してくれよ」

そう彼女にキスを落として、俺は約束の場所へ向かった。






「男、ねぇ…」

彼の出ていったドアを見ながら、裸体にシーツを巻きつけ起き上がる。
身体はけだるかったが、それ以上に喉が渇いていた。
コップ1杯の水をとり、一気にあおった。
窓の外は、月。
この月光の下で、彼はまた違う女を抱いているのか。
それとも本当に男との約束なのか…。

私達の関係はまだまだ不安定だが、ただ前よりは怖くない。
彼にはまだ別れるつもりがない、それがわかったから。

どこからか吹き付ける冷たい風に振り返ると、ドアが少し開いていた。

「全く…盗むものがないからってちゃんと閉めてってよね…」

ぶつぶつ独り言をつぶやいてドアを閉めようと踏み出したときだった。













「動くな」







首元にナイフが当てられたのはすぐにわかったが、その声が出るまで随分長かった。
男の声…聞き覚えはない。まぁ忘れてるだけかもしれないけど。

「…動くなっても動けないんだけど」

両手を挙げる。すると巻きつけていたシーツがふさぁと床に落ちた。

「なっ裸だと!?」

動揺の声。チャンスとばかりに私はしゃがみエルボーを食らわせようとしたが
なんと男は持っていたナイフを落としやがって、私の太ももに傷を付けた。

「痛ッ」

痛みを感じつつもナイフを拾い上げ相手の方へ振り返る。
すると私の目の前にいたのは、白磁のような肌に金髪を揺らす男だった。
こんな綺麗な男は見たことがない…

「君」

不覚にも見とれてしまった私を呼び起こす。
「な…何よ!」
「怪我をしている、早く手当てを――」
「アンタ誰よ!? 大体これはアンタのせ――」
「うるさい。大人しくしないか、傷が残るぞ」
「は、はぁ!?」

はっきり言ってパニックを起こした私は、これだけが要だと男にナイフを突きつけていた。
太ももから流れるドロっとした液体は、余計私の冷静さを奪うにすぎない。

「…薬はどこだ」
「ないわよッ。うちにそんな高価なもんがあるわけないでしょ!?」
「物資不足だとは思っていたが、傷薬までないのか」
「傷なんてなめときゃ治るわよ! それよりアンタ何!? 怪しすぎるっつーの!!」
「…そうか」

その声と共にパンッとナイフを持っていた手を叩かれ、ナイフがとんだ。
私はあっという間にビタンッと背中を床にねじ伏せられる。
すると男は落ちていたシーツをビリビリと破りだした。

「あ゛―――――!!!!! 何すんのよっ人んちのもんを!!!!!」

私はポコスカ男の頭を叩いた。よく考えれば、目でもつぶせばよかったものの
そのときの私にはそんな余裕がなかった。
男は破りとったシーツを、傷の上の方の太ももにキツく巻き締めた。

「痛いぃ!!」
「止血なのだからいたふへっ…!!」

私が思いっきりやつの頬を伸ばしてやると、間抜けな声がその変形した口から出てきた。

「ぷ」
「(怒)」

失笑と同時に私の手は捕らえられ、結局うしろで縛られることになってしまった…。
が、笑ったことで少し余裕が出てきた。

どうやらこの男は異常者ではないし、躰が目的というわけでもなさそうだ。
…まぁ裸に驚いたぐらいだから、ずいぶんトロい野郎だ。

「…ねぇ、アンタの目的はなんなの?」

さらに破ったシーツで、私の手を縛るのに集中している男に問いかける。
既にしたり落ちた足首あたりの血液が固まってるのがわかった。
これ以上暴れても、血を無駄にするだけだと冷静になった…少々不愉快ではあるが。

「…」

無言で作業を続ける男。金の髪が肩からこぼれ、私の頬をくすぐった。
それを何気ない仕草で肩越しに払いのける。
思わず生唾を飲んでしまった…
窓からこぼれる月光とその影が、目の前の美しい男を照らしている。

「…ふぅ」

男は律儀にも私の胸に触れぬよう作業をしていたせいだろう、
縛り終え身体を起こすときにため息をもらした。

「…で、用件は?」
「あせるな、傷の手当てが先だ」
「いいわよ、もう、止血も済んだし、あとはほっとくだけで」
「だめだ。消毒しなければ化膿する可能性がある」
「…サムッ{(+_+)}」
「わざとではない!!!!」

顔を紅潮させ全面否定する男…可愛い以外の言葉が見つからない(ぷ)。
しかしその鈍くささに私がやられることになろうとは…

「大体消毒って言っても薬はないって――」
「そうだ、だから愚民的ではあるが仕方あるまい」
「ぐみ…」

そう、私は3秒で理解した、彼の言う”愚民的消毒法”を。

「ちょっやだ!! いいからっ大体こーいうのは自分でやるもんなの!!」
「おまえ自身では出来ないから私がやってやると言っているのだ」
「だ―――ッわかんないわよっやってみないと!!」

…自分でも、馬鹿な方向に話を進めてしまったと思う。
私は男が見つめる前で、思いっきり舌を伸ばし身体を曲げて、自分の太ももをなめようとすることになってしまった。

しかも


「(と、届かない…ッ)」

傷はかなり手前でももの内側で、だからこそ”消毒してもらう”なんてごめんなわけなんだが。

ちらりと見上げると、男は高笑いを始めそうなくらいご満悦の表情だった。そして

「さぁっ大人しくするがいい!!(高笑)」

がっと足を押さえつけられたと思うと、生ぬるい熱と刺激が傷から伝わってきた。

「やんッ…」

それはもう、いやらしい声が出てしまった。
慌てて口を押さえたいところだが、手は縛られているので自由にならない。

「〜ッ、もうやめッ…!!」
「力をいれるな、余計出るぞ」
「なに言って…!」

奴がほくそ笑んでるのがわかる。それは女のももをなめてるからではない。
強情な奴を屈服させたことに笑んでいるのだ…
はっきり言って、余計屈辱的である(怒)。
まだ躰目的なら対応しがいがあるが、これではされるがままである。
変な声を出してしまうのが、恥ずかしくてならない。

「もう…ッいい…ッ」
「まだだ…」
「はぁ…」

甘い刺激に耐えながら、私はこてんと頭を床に落とすと、窓の外にぼんやり月が見えた。
今どこかでこの月を見ているのか、ゲインを思う。
朝まで彼がいてくれれば、こんなことにはならなかったろうに…





「…そんなに痛かったか」

男は傷口にシーツを包帯のように巻きつけると、そう私の顔を覗いてきた。
起き上がりこぶしのように一人で起きられない私の背を引き寄せ座らせる。
血染めになった指で目の下を撫でられたとき、自分が泣いていたことに気がついた。

「痛かったってねぇ…」

恨めしく男を見た…
だが私の血で汚れているその顔を見たら、毒気を抜かれてしまった。

「…はぁ、もう。全く、いい男が台無しだわ」
「な、なにをする…!」

私は彼の顔をなめた、自分の血をふき取るために。

「大人しくしてなさいよ…自分じゃなめられないでしょ?(ニヤリ)」
「ぬ〜…っ(ギロリ)」

手が使えず少々手間取ったが、歯をあてることなく私はぬぐうことができた。
ふぅと漏らした息の先数ミリは男の唇で、視線を目にやると、向こうはぼんやりとこちらに視線を向けてた。
たぶんあと数秒見つめあっていたらこちらからキスをしていたかもしれない。




「よぉ、相手が来なくてなぁ、もう少し寝かせて―――」

と、ゲインが戻ってきたのだ。

「ゲイン!?」

金髪の男がはじかれたように振りかえる。

「アスハム…!? 何でテメェが…!!」

金髪が私の前から避けたことで、ゲインに今の私の様子がもろ見えになってしまった。
全裸で手は後ろで縛られ足元には血の跡…
勘違いして下さいと言わんばかりな光景だ。

「てめっアスハム!! 貴様よくもこんな卑怯を!!」
「卑怯とはなんだ! お前と違ってセント・レーガンにそのような言葉、断じて在りえぬ!!」
「人の女やっといて言うことか!!!」
「な…に…?、この女が…」
「とぼけんなよクソ野郎!!」
「ち、違うのよゲイン!(俺の女扱いは嬉しかったけど!←笑)」

今にも殴りかからんとするゲインを止めようという仕草だけした私を
アスハムが小脇に抱えた。

「ぎゃ!! な、何すんのよ!!」
「なるほどそうか! お前の女か!! なるほどお前の匂いがするわけだ!!!」
「気色わりぃこと言ってねーでを放しやがれ!!」
「断固拒否する! この女は私がもらう!!」
「な、なに言って――!?」

私が非難を言い終えぬうちに、私ごと窓をつきやぶって外にでるアスハムという男。
ちょっと待てぇ!! こっちは素っ裸なのよ!?

「待てっアスハム!!!」
「動くなゲイン!! この女がどうなってもいいのか!?」
「もうどうにもなってんじゃねーかよ!!」

夜の街を走りながら響かせる会話(ていうかコント!?)。
しかしアスハムという男、さすがに単身乗り込んできただけあり
ゲインを路地に誘い込むとあっという間にまいてしまった…
この泥棒まがいな奴がセント・レーガンであることが、何よりの驚きだろう…

「はぁ…はぁ…」
「寒いッバカッ下ろしてよ!!」
「静かにしろ! ゲインに見つか――」
「ゲイ――――ッもが!!」

叫び出した私の口を押さえ込むアスハム。私はその手を思いっきり噛んでやった。

「!! 貴様…ッ」
「凍え死にさせる気!? ここはロンドンのドームじゃないのよ!!」
「…」
「大体どんな因縁か知らないけど巻き込まないでよ! どーせゲインだって…本気にはしないわ」
「ふ…奴は来るさ。それに私はお前がおしい」
「な…なんでよ!?」
「…。…お前が、妹に似ているからだ」
「やだッシスコン!?」
「違う!! …ゲインに子供がいると知らないか、罪な男だ」
「知ってるわよっそのくらい!」
「ならば話は早い。生んだのは私の妹だ」




な…




一瞬目の前がくらっとした。
私に囁いた言葉は、すべてその女の代わりにだったというのか。

――――!!!!」
「ちっ執拗な」

路地の先からゲインの声がした。なのに遠く感じる声。

「女、私は再び来よう。それまでによく考えるのだな…お前の居場所を」

そう言って、私を路地に置いて走り去るアスハム。







「わたしの いば しょ…」

そう紡いだ言葉の先には、走ってくるゲインの姿
その先には、今にも沈もうとする月があった―――





:::続…きたくないんだけど続くオチだよこりは(-_-;)::::




キンゲドリその2です。えーもうポコポコネタが降ってきちゃってるので
例え誰に読まれずとも自己満で(最悪☆)残しておくことにしました。
そのせいかウチにしては珍しくアダルティ(え)です。
こんなんでも読んでやるよ!という方がいらっしゃったら泣いて喜びます(-_-;いるか…)
だってまぁアスハムさんにあんなことをさせてしまいました(きゃッ←逝っとけ)。
しかし彼は楽しすぎです…いや楽しいキャラ多すぎなんですがね、ええ。
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カタカナ夢にバック カキコしちゃる!