:::純白の太陽::::






”ねぇ、私は奥さんの代わりなの?”

彼はあれから何も言わなくて、
私はあのアスハムという男の言葉に惑わされてる。

ロンドンに残してきたヒトと子供。
私に向けられる優しさは、私の躰を通してロンドンに向けていたの?
私はそれを勘違いして、
さも貴方の想い人のように笑っていたの?

ため息が止まらない。

とりあえずテープで止めたガラス窓が、カタカタ止まらない。
そこに広がるのは曇り空。
洗濯が出来ない。外に出たくない。もうこのまま死にたい…
こんなまともに子孫を残せない生命体なんて必要ないのだから。

自分でも驚くほどなげやりな自分を、ベットに横たわせたまま…
視界がゆっくりとぼやけて、そして暗くなった。

このまま死ぬのかな。死んだことを誰か気づいてくれるかな。
街の女は消えたところで気にかけられない。

ただ一人、気づいてくれるとしたら貴方――
冷たくなった私を抱き寄せ、貴方は初めて私を見てくれるのかしら…
その可能性に、かけてみてもいいかもね…




---




「…たく、こんな所で寝やがって」

少し息を切らせ、 の家に入ってきたゲインは、 薄着でベッドに横たわる彼女を見つけ舌打した。

正確には、寝ながら泣いていることに気が付いて、だ。

隙間風のとおる、生活感のない家、というか小屋。

「似合ってるって言ったら、俺も同じさ」

そう、彼女の髪をなでた。




---




目が覚めたら、一体どんな世界が広がっているのだろうと思った。
どんよりとした灰色の世界? それとも…

なのに、私の鼻をくすぐるのは、おなかが鳴る匂い。


「お、起きたか? 眠り姫」

匂いはともかく、ゲインの声と姿に安堵する自分がいた。

辺りを見回すと、全く見覚えのない部屋。
私の体の下には、冷たく固いベットではなく、やわらかなソファがあった。

「ま、この食糧不足だ。大したものじゃないが」

そう言って、彼はテーブルの上に湯気の上がる料理をのせた。

「こちらへどうぞ、お嬢さん」

ゲインが大げさに礼をして、テーブルの椅子を引く。
私はつられるがままにそこに腰をかけた。

「・・・・・・」
「大丈夫だ、味の保障はする」

並べられた料理に唖然とする私に、ゲインは食事を促す。
いぶかしみながらも、それを口に運ぶと、温かさが口に広がった。

「・・ご感想は?」
「・・・・・おいしい」

正直まともな食事事態が久しぶりだったので、味がどうなのかはわからない。
ただ温かくて温かくて、おいしいと思った。

「・・ゲインはいいの・・・?」
「あぁ。お前のために作ったんだ、たんと食ってくれ」
「・・・ゲインって何でもできるんだね」
「万能主夫、残念ながらガチコはつけられないが、いつだって婿入りできるぜ」
「…ガチコ、ダメになっちゃったの?」

ガチコと言うのは、土建クレーンにカモフラージュしたゲインのシルエットマシンだ。
請負人の愛機と言える。

「ああ、腕は残ったがな」
「…そっか」
「というか、俺は婿の方に話題を向けたかったんだが」
「…むこ?」
「そうだ。もうお前を一人にしたくないんだ、ムコにしてくれ」
「・・・何故婿・・・」
「別に。嫁にはなりたくなさそうにみえたからさ」
「…ゲインが婿っていうのも激しいと思うけど」
「じゃぁお前が嫁になるのかい?」

「…てかさ、なんで結婚することになってるの?」
「言ったじゃないか、一人にしたくないって」
「そんなの結婚と関係ないわ」
「そうかな? 家族になるんだぜ?」

「…。…もう、貴方のオママゴトにはついていけない」

すばやく立ち上がり、私はドアに向かう。

「待ってくれ。俺は本気だ、いつだって本気だったろう?
それがなんでママゴトになるんだ」
「わざとらしいこと言わないで。そのうち自分に似たガキも連れ込む気でしょ?」
「何言ってるんだ、だから俺の――」
「アスハムに全部聞いたの! 奥さんの代わりなんて嫌なのよ!!」

そう言ってドアを蹴って走り出した。
ここがどこだかわからないけど、とりあえず離れたい、あそこから。




---




「ガウリ!! 女を見なかったか!」
「なんだゲイン、またやっかいな敵か!?」

そう言うガウリの目線は、明らかにアデットに向けられていた。

「ほ〜、ガウリ。いい度胸じゃないかい…」

「…失敬!」
「ぉおいっガウリ!!」

ゲインの引きとめ虚しく、ガウリは忍法逃げ足は脱兎の術(何)で行ってしまった。
残されたゲインに、アデットは探るように話しかけた。

「なんだゲイン、女に逃げられたのかい」
「…ああ、そうなるな」
「はん、図星かい。お前は最後のツメが甘いからねぇ」
「取り戻してみせるさ」

そう言って走り去っるゲインを見送り、アドットは本気かと呟いた。




「はぁっはぁっ…!」

が息を切らせて飛び込んだそこは、大型の倉庫のようだった。
前も見ずに走りこんだので、白い柱のようなものに激突する。

「…たぁ…!」

ズキズキ痛みを負った額に手をあて、そこにしゃがみこむ。

その様子を、上から見ているものがいた。




「? なんですか!?」

上から降ってきた声に顔を上げると、そこには眼鏡をかけた少年がこちらを見下ろしていた。





:::続:::




キンゲドリその3です。ついにゲイナー登場。
ガチコたんは本当に残念っていうか、ガウリが嫌いになりました(ぉぃ)…
----------------------------------------------------------------------
カタカナ夢にバック カキコしちゃる!