第15話


 

「危ないっ鈴花!」
「えっ」

 

それは、池田屋以降、追い詰められた長州勢が、御所を襲うという計画を阻止するため、
新撰組も出動したときだった。

すでに戦は始まっており、町は老若男女問わず、死体がころがっていた。
追い詰められた長州に、余裕はないようだ…。

 

カキンッ

私は、背後から鈴花を襲う相手の太刀をさえぎった。

「あ…、さん、ありがとうございます」
「ううん、間に合ってよかった」
「いやぁほんとだよ」
「近藤さん」

もちろん近藤さんも来ている。
でもさっきから見ているかぎり、どうも周りにもだいぶ気を回しているようで、どうも落ち着かない。
まぁそれだけの腕前があるのは認めるけど、ただでさえ人一倍狙われる身だというのに…おまけにさっき

く〜ん?いい男に目がいっちゃうのはわかるけど、目の前に敵に集中してね」

なんて言うのだ…まったく、人のこと言える立場じゃないくせに…。
まぁ…確かに、さっさと敵を倒せば、この状態も終わるわけだし、はやく倒すことにしよう…。

 

そうして、首謀者の数人を片付け、ひと段落つきそうなときだった。

 

ドンッドンッ

 

花火のような音がした。でもこれは花火なんかじゃなくて…

「みんなっ御所に向かうぞ!!」

そう…大砲の音だ。しかも、御所の方向から…

 

いっせいに走り出し、そして少ししたときだった。

 

「み〜つけた」
「近藤さん?」
「そうだな、くん、ちょっとついてきてくれ。永倉君は、屯所に戻って経過を報告してくれないか」
「わかった」
「じゃ、いこうか」
「…はい(…みつけたって、なにを?)」

みんなと違う方向に、私達は走り出した。

 

 

「近藤さん、みつけたって何を?」
「まぁ、もう少しすればわかるよ…ほら」

彼の視線の先には、1人の男が立っていた。

「桂先生ともあろうお方が、お1人とは無用心ですねぇ」

…桂? そういえば桂小五郎が長州にいるって話をきいて、ああ、桂小五郎は歴史で習ったなぁ
なんて思ってたけど、この人がそうなの?

「いやぁ、逃げ足には自信があってね、部下が追いつけないようだ」
「はっはっは」
「さて、大した用がないのなら、私は失礼してもいいかな?」
「いやそれは…困る。刃向かわなければ切りはしない。おとなしく…」

そのとき、背後から人がきた。

「逃げてくださいっ桂先生!!」
「待て…!」
「ちょっ、くん!」
「ここを通しはしない!!」
「おいおい、1人逃してるのにいいのかな?」
「女ごときに負ける先生ではない!」
「彼女をただの女だと思ったら大間違い、なんだけどなぁ…」

 

私は、気が付くと桂小五郎を追っていた。さきほどの追っては、近藤さんに相手をさせてしまっているようだ…
考えてみれば、私がザコの足止めすべきだったんだろうけど…来てしまったのは仕方ない。
なんとしても捕まえなければ…

 


「…まったく、私の逃げ足についてこれるとは、なかなかの女子ではないか、くん」
「え…」
「その筋では有名だよ、新撰組の隠密に本物の女が入ったってね」
「・・・(本物? 山崎さんは…)いや、そんな話で、また逃げられるわけには」
「君はこの戦、どう思う」
「…だから、そんな話はあとにしてください」
「一言でいい、答えてくれたなら、おとなしく捕まろう」
「え…それは…」
「…出ないだろう。君には戦う信念を感じない」
「! そんなことは」
「あるとすれば、この戦を早く終わらせたい、そうじゃないか」
「な…(図星…かもしれない)」
「べつにそれも構わないが、それならなぜ新撰組にいる。矛盾しているよ」

「桂さんを捕まえさせはしない!!」
くん、すまない、いったぞ!」
「は、はい…!」

カキンッ!!

背後から来た追っ手の太刀をうける。相手の必死な顔が見えた。

「大丈夫か、くん!?」
「だ、大丈夫です、ですが…」

振り返ると、もうそこに桂小五郎の姿はなかった…。


「・・・」
「俺たちの役目は終わったようだ…」

「え…?」

ズサ…

追ってきた長州の侍は、あっけなくその場に倒れた。

「限界を超えてたんだなぁ」
「…気迫、ですか」
「そういうことだ」

…そうだ。戦うというのは、こういうことなんだ…ここまでの気迫、私に出せるんだろうか…

「おーい、くん? どうしちゃったんだい?」
「え、あ、すいません…取り逃がしてしまって」
「いや、それは仕方ないが……もしかして、桂さんに何か言われたのかい?」
「…実は…はい、口車にのせられちゃいましたね」
「はは、なんだいそれは。いやそうか、口説かれたとか?」
「なんで口説かれなきゃ…あ、でもそういうことになるのかな」
「え?」
「さすが、歴史に名を残すだけありますね」
「歴史?」
「あ、いえ、なんでも…。戻りましょうか」
「…ああ、そうだな。永倉くんたちと合流しよう」

 


戦闘の終わった町は、しんと静まり返り、月に照らされた壁には、血しぶきがついていたりした…
こんなに大きな戦いに参加したのは初めてで、今更だがどっと疲れがでてきた…
戦うとはこういうことなんだって、身にしみて感じられてきた。

 

「…やっぱり、君を戦いに出したのは間違いだったかな」
「え…?」

帰り道、近藤さんがぽそりと言った。

「…すいません。彼さえ捕まえれば、だいぶ違かったでしょうに」
「ちがーう」
「? じゃあなんですか? 腑に落ちません」
「まったく…君がそんなに気落ちしてるからに決まってるだろう」
「そ、そんなの近藤さんに関係ないでしょう。そもそもそんな人はいくらでもいます」
「あのねぇ、俺は君みたいな子をほっとけないの」
「自分が戦いに巻き込んだとでも?」
「…まぁ、それもあるけど? 女の子がつらそうなのは応えるんだな〜これが」
「…ど〜せ弱い女の子ですよ〜」
「はいはいごめんなさいねぇ。でもね〜事実君、すごい人気だろ」
「やきもちですか? まぁこんな優男の局長に人気がないのはわかりますが」
「…キミ? 俺をなぶって楽しいかい?」
「まぁ多少の憂さ晴らしには…」
「はぁ…まぁそれないらいいけど。話を戻すと、つまりキミがげんなりしてると、周りの奴らもげんなりしちゃうわけ。
 だからできるなら元気にしててよ。つらそうな顔は俺だけに見せてよね」
「…はぁ」
「それじゃあな、元気だせよっはっはっは」
 

そうして、近藤さんは屯所に消えた。いったいなにが言いたかったのか、結局府に落ちなかった。

 

 

「…勇ちゃんも、苦労するわねぇ」

影で山崎がクスりと笑っていた。

 

 

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本当は15話のつもりですが、このあとに局中法度がでるようなので、交換しました…^_^;
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