第16話


 

「あ〜やだやだ、女の子大好きの色ボケ男なんてねぇ…
 なんで他の隊士の人達は、近藤さんをあんなに慕うんだろ?」

 

 

ぎょっとした、鈴花がこんなこと本人の目の前で言うなんて。

 

 

「そーかそーか、俺はそんなふうに思われたのか」

目の前の朝帰り男はしれっとした顔でそういった――近藤勇、その人が。

「鈴花? あなた思ってることが声にでちゃってない?」
「あ…! す、すいません」
「いや謝ることないけど、事実だし」

くんも手厳しいね〜」

頭に手をやりながら、余裕で笑っている。
ほんとにこの人の女癖にはあきれ返る…奥さんはどれだけ傑物なのか、それとも…

、ちょっとこい!」
「永倉さん? はい、それじゃ…」
 

少しはなれから、永倉さんに呼ばれた。
これといって話し込んでいたわけでもないので、私はあっさりと近藤さんと鈴花のもとをあとにした。

 

「なんでしょう?」
「茶付き合え!」
「はい?」

永倉さんもの傍に行った途端、その一言だった。

「だめか?」
「いえ…いいですけど」
「近藤さんにたった二人の女を1人占めされちゃ〜俺の名も廃るんでね」
「…はぁ(−_−;)」
「なんだぁ? 文句でもあんのか?」
「いえ…何も言いません…」
「わかりゃーいい。それとな」
「はい?」

永倉さんは、視線をそっぽに向けた。彼はたまにこうして、視線をはずすことがある。

「茶のんだら少し寝てろ。おめぇも昨日は夜巡回でまともに寝てねーだろ」
「…だったら永倉さんだって」
「ああ、俺も茶飲んだら寝る。おお、せっかくだからいっしょ―」
「却下します」
「…へぇへぇ…
鈴花の方がまだ可愛いかもな
「何か言いました!?」
「何も言ってませ〜ん」

私の握った拳を、軽くポンポンとたたくと、彼は母屋の方を向いて歩き出した。

「おら!はやくこい!」
「はいはい…」

きっと、彼が視線をはずすのは照れ隠しなのだろう…
そう思うと、彼がなんだか可愛く思えてしまった。

 

そんなわけで、永倉さんの部屋でお茶を飲んだあと、部屋に戻って、横になることにした。

「(…はぁ…床に吸い寄せられる…結構疲れてたんだな…)」

コポコポコポ…

隣の鈴花の部屋から水の音が聞こえた。彼女とは同じ女性ということで、襖1枚でとなりになっている。

「はぁ〜、お茶が美味しい…」
「(お茶か…しかし鈴花ってば1人のときでも声に出しちゃって可愛いな。私ももらおうかな…)」
「俺もいっぱいもらっていいかな?」
「(この声は、源さんかな)」
「そのまんじゅうは?」
「近藤さんにもらったんです」
「はは〜近藤さんらしいな。彼は親しみを感じる人には、ものをあげる癖があるんだよ」
「(…へぇ…)」

つい、自分が何かもらっていたか、思い出してしまった。

「近藤さんは、単純に女の子が好きなんだよ」
「(源さん…その表現は的確ですが本人を知らない人が聞けばえらい遊び人です)」

なんだかこの二人の会話はまったりしてて、ところどころ心の中でつっこんでしまった。

「おっ、また俺の悪口でも言ってるな?」
「きゃっ!?」
「(近藤さんまで来た…なんか悪いな、聞き耳たててるみたいで…でも今更出られないしなぁ)」
「近藤さん、また朝帰りだって?」

そのあとは、なるべく聞かないようにした。聞かないようにしたけど、つい、耳に残ってしまった。

「奥さんのこと、とても愛してるんですね」
「当たり前さ、苦労をともにしてきた相手なんだから。
 俺もこっちで頑張って、あいつや娘が誇りに思えるようになりたいね」
「(・・・・・)」

 

胸が、締め付けられた。

 

「(なんで私、胸が苦しくなってるんだろう…そんな、まさか…)」

 

奥さんに、嫉妬してる?

 

「(うそ…でも…)」

 

そうなのかもしれない…この世界に、私をあそこまで信じて、愛してくれる人はいるんだろうか。
元いた世界だってそう…あんなに、あんなに人に深く愛し合えた人…いないかもしれない…

 

「(でも、別に近藤さんに愛されたくなんか…)」

 

そう思ったら、なぜか顔が熱くなった…。

 

「(そんな…まさか、あんな女たらしに…)」

 

モンモンとした気持ちを抱えて、私は目を閉じた。
認めたくないような、そんな気持ちを閉ざすように…

 

 

 

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永倉さん、ちょっとしか出せませんでした…
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