『蜃気楼、蜃気楼はいりませぬか。』

と赤い服を着た少女が近付いてきました。

 男が黙ってうなずくと、赤い服の少女はバスケットの中から双眼鏡を手渡してくれました。

 双眼鏡で海の方を覗くと、蜃気楼がぼんやり見えてきました。

 焦点を合わせると、そこには家の窓がありました。窓には、赤ん坊を抱いたやさしそうな若奥さんの姿がみえました。

『ああ、あれは確かに、美子さんだ。どうして、美子さんがみえるのだろう。』

赤い服の少女は、もういませんでした。

 

『蜃気楼、蜃気楼はいりませぬか。』

と赤い服を着た少女が近付いてきました。

 少年が、はにかみながらうなづくと、赤い服の少女はバスケットの中から双眼鏡を手渡してくれました。

 双眼鏡で海の方を覗くと、蜃気楼がぼんやり見えてきました。そこには家の窓がありました。窓には、若い女の人と若い男の人がみえました。

『あ、母ちゃんだ。母ちゃんと父ちゃんだ。』

赤い服の少女は、もういませんでした。

 

『蜃気楼、蜃気楼はいりませぬか。』

と赤い服を着た少女は歩いていました。

 誰もいなかったので、こっそり少女は双眼鏡を覗いてみました。

 すると、海の方に蜃気楼がぼんやり見えてきました。焦点を合わせると、そこには雪の積もった小さな家が見えました。窓にはテーブルの上に置かれたクリスマスケーキが見えてます。テーブルのまわりには、おじいちゃん、おばぁちゃん、おかぁさん、おとうさんが座っています。そして、ケーキのまえには赤い服を着た少女が微笑んでいます。

『あっ、あれは、わたしでは。』

赤い服の少女は、もういませんでした。

 

『蜃気楼、蜃気楼はいりませぬか。』

と赤い服を着た少女に言われたら、黙ってうなずくだけでよいのです。

 そして、双眼鏡で海をみるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『蜃気楼、蜃気楼はいりませぬか。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                 

                                       蜃気楼売りの少女

 

戻る