壁にあいた穴からもうもうと煙がたちこめ、その奥から人影が姿をあらわした。

「お前は、変態ブリーフマン!!」
「ハッハッハッハッハ!ブリーフがあれば、愛なんてイラナイ―――――――――――――!!!」
それは、ブリーフ一丁でさらに頭にもブリーフをかぶっている、やけに頭以外の毛が濃いオヤジだった。
「ハーッハッハッハ!君もブリーフをはきたまえっ!
そして共に歌おう!『麗し!ブリーフ・愛のランバダ』を!!」

モサシはもはや、愛なんていらないと言ったじゃないか・・・とツッコむだけの余裕もなかった。

「おのれ〜変態ブリーフマン、ここで会ったが100年目・・・・・・・
貴様があくまでブリーフを見境なしに勧めるのであれば、私はお前を倒さねばならない!」
ホンダラマンダは変態ブリーフマンと向かい合った。
怪しさ全開の互いの視線が絡まりあい、火花を散らす。

「その必要は、ないわ」

その時、別の声が穴の奥から響いた。それに少し遅れて、変態ブリーフマンの体を紅蓮の炎が包んだ。
「ぐぎゃあああああああああああっ!
き・・・・君もブリーフをはいてハワイに行こ・・・・うッ!」
変態ブリーフマンはそれだけ言うと、息絶えた。
 

「エルフローネ密・・・・・・・」
煙の向こうからエルフローネ密が颯爽とした表情で現れ、ホンダラマンダと向かい合う。
室内の空気が、彼女の闘志に答えるように震えた。
「さぁ〜て思い付きのキャラで一発盛り上げたところで・・・・・・・
ホンダラマンダ、覚悟!!!」
「ぬうっ!前置きなしとは想像しとらんかったわ!!」
「受けなさい、激情なるブレイズ!!」
密が腕を振り上げると、紅蓮の炎の渦がホンダラマンダを包み込んだ。密はその間に、モサシのそばへと駆け寄る。
「モサシ様!大丈夫ですか!?」
「・・・・なんとかな」
「愛している、密」
こんなときでも妄想は忘れない密であった。

モサシは密に肩を借りて立ち上がった。その間に、ホンダラマンダは炎を振り払っていた。
「後で殺しに行く手間が省けたわ・・・たとえいくら集まったところで、私を殺すことはできぬ」
「私とモサシ様は一蓮托生、死ぬときももちろん一緒ですが・・・
今は二人であなたを倒す!」
「ほざけ!二人まとめてホームラン打ってくれる!
・・・違った!葬り去ってくれる!」
こんなときでもボケるのを忘れないホンダラマンダであった。
それはさておき、再び凄まじい冷気が二人を包んだ。ダイヤモンドダストが発生し、床には霜が下り、天井にはオーロラまで現れる。
さらには、どこからともなくホッキョクグマと皇帝ペンギンが登場してくる。
「この超低温の前には、なすすべもあるまい!
眠れ!『哀』にあふれた、哀しき氷の棺の中で!!」
「この力は!
・・・心の哀しみがそのまま冷気となっているの?
まるで! 私の情熱の炎と同じ・・・でも、なぜ?
なぜそんなに哀しんでいるの?」
「貴様などにはわかるまい!いや、わかる権利すらないのだ!
知りたければ続編が発表されるまで待てェェ―――――――――!!」
「くッ・・・・
だけど、同じ力なら想いの強いほうが勝つ!」
密は情熱を燃え上がらせた。若さゆえの情熱であり、理由なき情熱・・・
しかし、その力は凄まじい。
熱い想いが炎の壁となり、冷気から密とモサシを守る。
「お前が私に勝つというのか!
それは出来んな!私の・・・・・・・・
私の海よりも深い哀しみは、誰にも埋めることは出来ぬ!!」
冷気が激しさを増した。大気がうねり、吹雪となって炎を吹き消そうとする。

「クエッ」
意味もなく、ペンギンが鳴いた。
攻防は、まだ続いている。しかし密は劣勢だった。炎の壁が、じょじょに薄れていく。

「密・・・・すまぬ」
ふいに、モサシが口を開いた。
「モサシ様・・・」
「俺がお前をスットコブルクで止めていれば、このような目に会うこともなかったであろうな・・・・
元々、お前には関係のない話だというのに、こんなことに巻き込んでしまい、若い命を散らす結果となってしまった・・・
すべて、俺の責任だ。・・・・すまぬ。」

「なぜ私があなたについてきたか、わかりますか?」

「・・・・・・・・ああ」

「あなたを愛しているからです。
心配しなくても、ちゃんと責任はとってもらいますから。すべてが、終わった後に」
 
 

「・・・ムッ?」
ホンダラマンダはわずかな異変を感じていた。
彼の特別敏感な肌が体感温度が一度ばかり上がったと感じた程度のことだったが、自らの「哀ラニーニョ」が巻き起こした超低温の中で、温度が上がるなどありえないことだった。
力を抜いたわけでもなく、疲労したわけでもない。それに計算では、そろそろ相手の力が弱まり始める頃のはずだった。

ホンダラマンダは、焦っていた。
体感温度がさらに上がっていくのだ。1℃どころの話ではない、上がり方の度合いも増えている。
オーロラが消え、霜が解け、ダイヤモンドダストが止み、ついには室内気温が平常温度になってしまった。

「馬鹿な!
ありえぬ!
天地がひっくり返ろうと、こんなことは!」
「ノー・プロブレム。愛の力は無限大ですわ」
ホンダラマンダは密の声を聞いた。
「あなたが海よりも深い悲しみを持って力を振るうのならば、私は宇宙を包むほどの情熱を持って対抗する!
私の心は、エルニーニョ!すべてを焦がす熱い想いは、何者にも消せはしないわ!!」

「おのれ・・・しかし、まだ互角!
互角で勝利はありえぬぞ、エルフローネ密!!」
エルフローネ密の表情には覇気に満ちてこそいるが、疲労の色は隠せない。一方ホンダラマンダには、まだ余裕がある。
まだ勝機はホンダラマンダの方にあった。むしろ密は、劣勢のままなのである。

「私は一人じゃない・・・・!」
熱気を帯びた波がホンダラマンダを覆った。その熱はホンダラマンダを焼くほどではなかった。
ホンダラマンダは、それをろうそくの最後の輝きだと思った。

だが、それは攻撃ではなかった。

ホンダラマンダの視界には、何も入っては来なかった。しかし、激しい痛みとともに、自分の体を刃が貫くのを感じた。
「モサシ=モョモト・・・・・・・・!」
モサシのその瞬間の動きは、ホンダラマンダには見切れないほどの速さだった。
モサシはそのまま、剣を突き立てた胸から右肩にかけて切り裂いた。ホンダラマンダはあおむけに倒れながら、自分を斬った刃を見た。
「清洲城信長・・・・何故これが・・・・ここに・・・・・」
それは、ホンダラマンダが自分の部下である女性に与えたはずの剣だった。自分を斬ることなど、あるはずがなかった。

「そうか・・・・・・・ミヨコ、逝ったか・・・・・・・・・」
そう言い終わらないうちに、ホンダラマンダの首を刃が刎ねた。

「グゥオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
私は・・・私は死なぬ・・・わ・た・し・は・・・・・・!」
「・・・どこから喋っているんだ?!」
ホンダラマンダは首を失った状況で、なおもうめいていた。
モサシは続け様に右腕と左腕を斬り落とした。
「ヌグゥアアアアアアアアアアアアアアア!!!痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
モサシは上半身と下半身を斬り離した。
「ブヒョォエエエエエエエエエエエエ!!!ギャアアアアアアアアアアアア!!!」
「・・・どうしろと言うんだ」
モサシは体をバラバラに切り裂いてから、それを踏み潰していった。

「シュビダバ〜 オウェ〜♪」
最後の一つを踏み潰したときに、こんな声が聞こえたような気がした。
幻聴でなかったならば、それがホンダラマンダの最期の言葉になった。

もしかすると、ホッキョクグマのあくびだったかもしれない。
 

「はっ!
呪いが解けたわ!」
その時、モッツァレラーニャリ姫が歓喜の声をあげた。
「モッツァレラーニャリ姫、ご無事ですか!?」
「んー、無事っていうか、むしろケーキ食いたい?」
「な、何を言っているのですか・・・まだ呪われてるのでは・・・・?」
「大丈夫よ、大丈夫!・・・・たぶん」
モサシは一抹の不安を残した。
「と、とにかく帰りましょう」
「でも、ここも結構いごこちがいいのよ、これが。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「にらまないでよ。帰る、帰るって!
帰ればいいんでしょうッ!」
 

「ただいまー、お父様!お母様!」
モッツァレラーニャリ姫は、帰ってきたら帰って来たで上機嫌だった。
モサシはまるで旅行から帰ってきたかのようにうれしそうにおみやげをくばる娘と、これまたそれを何事もなかったかのようにうれしそうに受け取る父と母を、あきれ気味に眺めていた。
「感動の再開ですわね!・・・・うっ、うっ」
密はそれを見て涙そうそうだった。
モサシは軽い疎外感を感じるほかなかった。

「モサシ=モョモト!モッツァレラーニャリ誘拐の件、ご苦労であった!」
国王は自分なりのねぎらいの言葉をかけた。
「人聞きの悪いこと言わんでください!!」
「ところで、この国にはこんな風習があってな・・・・」
国王は強引に話を進めた。
「国が存亡の危機に陥ったとき、国王はその危機を救った英雄に王座を譲る・・・と。
余が見たところ、そなたには王の風格も威厳も備わっている。」
風格も威厳もあったもんじゃない国王が言った。
「モサシよ!わが娘モッツァレラーニャリを妃に娶り王位をついではくれぬか?!」

「ちょっと待った――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!
・・・ですわッ。」

突然の大声が王宮を揺るがす。声の主はエルフローネ密だった。
「どどどどどどどどどどどうしたのかねッッッッッッッッッッッッッッッッ????!!!!」
国王は極めて冷静に振舞おうと努力はしたつもりだった。
「私は、モサシ様を愛しています!モサシ様も、私のことを愛してくれています!ですから、王女様とは結婚できません!!!!
ここで一句『燃えさかる 二人の愛は エルニーニョ』!!!」

国王ならびに臣下一同はあまりの迫力に一時硬直してしまった。

「き・・・貴様、何様の・・・・!」
最初に反論したのは大臣だった。
「待て」
その一言は、意外にもあの国王のものだった。表情は、いつのまにか何かを悟ったような精悍な顔つきをしている。
「モサシ。エルフローネ密が言ったことは、真なのだな?」
「それは・・・・・・」
「聞くまでもありませんわ。だって、顔に書いてありますもの」
答えあぐねているモサシに代わって、密が答えた。
「あら、本当!」
王妃だった。
「書いてあるわ!『モサシ=モョモトはエルフローネ密を世界中の誰よりも愛しています』ですって。」
「王妃様!!!???」
「モサシ様っ!!」
密は瞳を(炎のごとく)輝かせてモサシの顔を見た。

「それならば、モサシはエルフローネ密と結婚せよ!
そして二人の力でドッコイショ王国を治めてくれい!!」
国王は一括した。ざわついていた辺りが一気に静まる。
「お前が誰を愛し、誰を娶ろうと構わん。
余はお前に国王を継いでもらいたいのだ!!!」

「国王陛下・・・・・」



「・・・モサシさん。」モッツァレラーニャリ姫が言った。
「私は、お茶漬けに生卵を入れるのが好き」
モサシは聞き流した。
「モサシ・・・・」王妃が言った。
「コレよりはずっといい王になれると思いますわ」自分の夫を指差しながら言った。
モサシはそれもそうか、と思った。
「モサシ様。」大臣が言った。
「『情熱の乙女』を娶れるのは、あなたぐらいでございます!!」
モサシは余計なお世話だと思った。
「モサシくん!ブリーフは世界を救うぞ!!」何の前フリもなく変態ブリーフマンが現れた。
モサシはこの際無視することにした。
「モサシ様・・・・・」密が熱い視線を投げかけてくる。
「二人の情熱で、王国を覆い尽くしましょう!・・・・お嫌ですか?」
「モサシ様!!」
国民一同が最期に、見事なユニゾンで後押しした。
 
 

モサシ=モョモト・・・
さすらいの剣士。
賞金首を斬っては金を受け取り、また新たなる獲物を探す。
戦いの中に生きる場所を見出す、孤高の男・・・・

しかし今は、
国の危機を救い、多くの者に慕われる、英雄。
国王の座すらも、薦められるほどの男・・・・

これまではずっと一人で生きてきた。彼にとってはそれが自然な生き方だった。
しかし、エルフローネ密と旅をし、モッツァレラーニャリ姫を救い、国王の信頼と、国民からの感謝を得ていくうちに・・・・
こんな生き方もいいか、と思えてきた。

モサシ=モョモト、異国から来たさすらいの剣士。
 
 
 

彼はいつのまにか、この国が好きになっていた。

「光栄にございます、陛下。

拙者、モサシ=モョモト、この国に骨をうずめる所存にございます」

「では・・・・」

「はい」
 
 
 
 

「皆の者!!宴の仕度じゃアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
国王が、発狂せんばかりの大声を上げてモサシを祝福した。
臣下一同は、跳び上がったり、踊りだしたり、抱き合ったり、国家の「替え歌メドレー」を歌ったり、ブリーフを投げたりした。
 

(これで、よかったんだ。・・・これで。)
モサシは国王や王妃、臣下一同のうれしそうな顔を見て、自分の決断が正しかった、と感じていた。
「モサシ様・・・・」
モサシの肩にいとおしそうに手を置き、密が語り始める。
「子供の名前。何がいいですか?」
「気が早いな・・・・・」
「私、もう考えてあるんです。
                                  さ と み
女の子なら、砂に糖に水と書いて、砂糖水。
砂のようにこまやかに、水のように清らかに、あと糖分もわすれずに、ね・・・・」
「・・・・・・・男の子なら?」モサシは恐る恐る、聞いた。
「グランドジュノン権九郎と名づけますわ。語感がいいから」
「・・・・・お前は考えなくてよい」
「いいえ、妻として、母親として当然の義務ですから」
 

モサシは大きなため息をつくと、独り言を言った。

「・・・・フゥ。
俺の、本当の戦いは・・・・・
これから、始まるのかも知れんな。」
 
 

モッサカ城は、三日三晩にぎやかな笑い声に包まれた。
 
 






THE END







To be continued
to 「ドッコイショ王国物語2」・・・・・・・・・・・
 



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