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わたくしの仕事環境――収入を度外視したSOHO例。(第二回)
白石昇


●接続経路。

 四年ほど前、首都の大学生寮に住んでいたわたくしに、いきなり友人から電話がありました。七百キロ離れた北部の大都市からです。「今イベントの核心に迫ってるんだよ、お前、すぐ来いよ。」と彼は言いました。

 どうやら北部でこっちのミュージシャンと日本のミュージシャンがイベントをやっているらしく、それを見るために彼はこっちに来たらしいのです。そして、首都についてわたくしに電話の一本もよこさずすぐに北部へ向かったらしいのです。友人は宿泊先と通りのの名前をほとんど一方的に告げるととっとと電話を切りやがりました。

 日本から弾けるために旅行に来ているのだし、もともとそういう性質を持った友人なのですから、それは致し方ないな、と思いつつわたくしは受話器を置いて四秒ほど迷った結果、その日の夕方、首都から高速エアコンバスに乗りました。

 そして夜通しバスに揺られること十時間以上、北部の大都市に着いて宿を探し求め再会したのですが、友人と適当に遊んでいるうちに何がイベントの核心なのかとかそんなことはどうでも良くなってしまいました。

 そんなお祭り気分の中で友人の知人を紹介してもらったのですが、その中に家賃不払い運動というのをされている方が一人おられました。初対面のわたくしに対して物腰やわらかに「いやあきょう大麻吸ってバイクでドライブしたんだけどさあ、気持ちいいよねえ」とおっしゃる前衛的な方です。

 そんな感じなので予想通りその彼がやっている家賃不払い運動というはとても前衛的な理念に基づいたものでした。「家をたくさん持っている人間が、家を持っていない人間からお金を取るのはおかしい。理論的には俺のいうことは間違ってないんだよね」とその方は物腰やわらかかつ前衛的にそうおっしゃいます。確かにそうだな、とわたくしも思いました。

 しかし理論的には間違っていなくても、世の中には所有、という概念が存在してその理論が通らないこともままあるのです。というかそれが通ることはほとんどないのです。結局彼の運動は、それを続けてゆくうちに、家族とか、仕事関係の人とか、関係ない他人に迷惑をかけることになって頓挫しかけているということでした。

 そう言った土台をふまえた上でとかく資本主義社会においては家という物を所有している人よりも、それを所有できずに賃貸している人が圧倒的に弱い存在のようです。

 特にここは日本とは違いそれが顕著なのです。通常ここでは市内通話が一律三バーツで時間無制限なのですが、賃貸している人間はそこに備え付けてある電話を使わなければなりません。

 それがたいてい一回五バーツ以上なのです。前に済んでいたアパートメントでは十分ごとに一〇バーツ加算されてゆく計算でしたが、今住んでいるところは七分で自動的に切れてしまうのです。七分間です。切れるのです情け容赦なくそれはもう。

 その七分間でわたくしはサイトを更新しメールの送受信をし、メールマガジンを発行しなければならないのです。ちなみにわたくしのモデムの通信速度は288です。混んでいるときは容赦なく途中で切れます。そうなると一日に何度も繋がねば成りません。

 さすがにそういう事をしていると電話代が月に千バーツ超えるのはザラなので管理人さんに自分の電話回線が欲しい旨相談いたしました。管理人さんはあっさりいいよ、とおっしゃいました。加入費は三千バーツ以下ですむようです。わたくしは書類に記入し、近所の電話会社まで出向いて工事手続きを取りました。先月上旬のことでした。

 しかし、二週間ですむと説明を受けた電話工事なのですが、一ヶ月経った今も来やしません。さすがにそれでは精神衛生よくないので電話したら、日本国旅券を持ってもう一度電話会社の方に来てくれ、という電話がありました。と、そう言うわけでわたくしの通信経路は今後どうなるかまだ流動的なのです。

 それでは、次回はプロヴァイダについてご説明差し上げたいと思います。
 
 
 

初出・【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0868 2001/05/29.Tue.発行


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