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わたくしの仕事環境――収入を度外視したSOHO例。(第四回)
 
白石昇


●業務内容。

バルコニーに出ると隣は椰子畑です。十メートルくらいの低い樹が砂糖椰子。そしてその向こうに二十メートルはありそうな樹があり、ボウリング球ほどの大きな実をつけています。そうです。いわゆるジャイアント馬場が膝で割るココナツというヤツです。

砂糖椰子は絞って煮詰めると茶色い砂糖になります。そのまま囓って噛み煙草のように使われることもあります。ココナツは胚乳を取り出して絞り、ココナツミルクを取ります。ココナツミルクはカレーやトムヤムなどの料理に使われます。

また、かなり厚い表皮は日本に送られタワシやほうきになります。その中にあって胚乳を包んでいる固い殻は焼いて砕かれ活性炭として煙草のフィルターなどに使われます。
 
 
 

まったく無駄はありません。

椰子畑の向こうには工場がふたつ有り、家具用のパイプとか、日本車の自動車部品とかを作っています。工程は時間単位で管理されています。造管機はコイルから板鉄板を引き出し、ロールで丸めて端部を溶接してから、一定の長さで切り落としてゆきます。作業中、工場内をカッターの音がリズミカルに響きます。労働者は交代制で、製品は能率良く生産され続け、工場が動いている間、機械が止まることはありません。
 
 
 

素晴らしく無駄はありません。

そして工場の更に向こう、運河を渡ったところには豚の屠殺場があります。毎晩豚さん達はここで、鋭利な刃物で大動脈を切られて血を抜かれた後、軽く茹でられて毛を剃られ、内臓を抜かれた後、お尻から二枚におろされます。頭も耳も鼻も内臓も、足も尻尾も、すべて、近くの市場に出荷されます。流した血でさえも豆腐状に固められ、わたくし含め地域住民の血肉となるのです。
 
 
 

徹底的に無駄はありません。

もしかしたら世間というものは、わたくしの地元に限らず、どこでも無駄がなく成立しているのではないかと思います。が、そんな生産的なわたくしの地元において、ひとつだけ無駄だらけのものがあります。
 
 
 

それは、わたくしです。

ええそうなのですごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいいい年した大人が収入もなく日々を過ごしているのです。そして椰子の実や鉄パイプや豚肉とは違ってなくても人間の生活にはまったく影響がないものを生産し続けているのです。

これも皆安い食料を提供して下さるこの国の方々と、強い円を支えて下さる日本の皆様のお陰なのです。この場を借りて日刊デジクリ約一万九千人の読者様に御礼と御礼を申し上げます有り難うございます。

 ちなみに、去年の収入は五万九百八円でした。五万円が九州芸術祭の賞金、九百八円がメールマガジンの広告収入でした。この仕事を始めて十一年、はじめて本業収入だけの歳でした。

で、今年はとりあえず年内は収入がなくてもやりたい仕事が出来るだけのお金を四月までの賃労働でゲットいたしましたので、今年も泰日両国の皆様に甘えさせていただき業務を遂行させていただきたいと思っております。

といった土台をふまえた上で、詳しい今年の業務内容は次回。
 
 

初出・【日刊デジタルクリエイターズ】 No.0890 1/06/28.Thu.発行

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