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平成十三年五月十九日(土)。

 昨日はとっとと朝から運動を終えました。そして午前九時から日灼けタイムです。曇りがちなので午前十一時まで寝ころんで本を読みながら身体を灼きました。それからご飯だったのですが、部屋でトムカースープなどを作って食ったのです。

 そうしてダレてダラダラと作業していると午後からいきなり豪雨です。派手な雷も鳴りました。すると当然のように停電になりました。近所の工場も物音がしなくなりました。どうやらここら一体全部が停電のようです。

 何度か電気が復旧するのですが、そのたびにポンと音がして、火花のようなものが二軒隣の工場からあがってすぐにまた停電になります。電気がなければ辞書データなど入力できないので仕方なく窓際に行って本を読みました。

 本を読んでいるとお腹が空いてきました。でも停電なので電気釜は使えません。そして、外食しようにも今日から私には二十五サタンしか所持金がないのです。二十五サタンです。駄菓子屋で買う飴玉が二個一バーツなのですから、二十五サタンで買えるものなどどこにもありません。

 私はまだ少し木炭が残っていたのを思い出し七輪に火を入れました。そして鍋に米を入れて研ぎ、それをバルコニーに置いた七輪に乗せました。部屋の中は暗いので、私はバルコニーで本を読んでいたのですが、また少し空が暗くなったので本を読むのをやめました。

 相変わらずすごい雨です。お米が炊けるまで何もすることがないので、私は藝人としてどうやったらみなさんに喜んでいただける仕事が出来るか、と言うことについていつものように考えはじめました。そのためにはみなさんに白石昇という藝人をもっと知っていただく必要があります。

 そのためにはやはりゴールデンタイムのテレヴィ出演が必要不可欠でゴールデンタイムのテレヴィ番組に出るならやはり歌うだけではなく踊る事もできなければならないだろうしただそれだけでは賑やかさに欠けるので何人かでグループを組む必要があり、そんなグループ組むくらいなら最初から人気グループに加入した方がいい、とすぐに結論らしきものが出てきました。

 私はモーニング娘。に加入するべきなのです。考えが生産的に発展しきったので、今度はどうやってモーニング娘。に加入するかを考えなければなりません。それにはオーディションを受けるしかないのですが、ただ何の準備もなしに受けるわけにはいけません。

 とそこまで考えたところでだいぶ米が炊けてきました。私は鍋から米を余さずかすり取り、丼に入れて鍋の蓋で蓋をしました。木炭の火力がだいぶ強くなってきたので水をかけて弱くしました。空になった鍋に水を張り、島に住んでいた友人から貰ってきた食材袋の中からクノールのスープ粉末を出します。

 スープ粉末の袋には、酸っぱい川式のスープなんだぜ、と言うような名前が台湾語で書いてあります。台湾のクノール社が作ったものらしいです。私はそれを鍋にぶちまけて、とりあえず同じように袋に入っていたカットわかめを手づかみでぶち込みます。そして鍋を再び七輪に乗せました。

 オーディションに受かってモーニング娘。のメムバーになるためにはまず、しっかり踊れなければなりません。踊る、と行ってもいわゆるタイダンスとか日本舞踊とかワイクルーとかの指先の緩やかな動きにすべての生命が宿ったような種類の舞踏ではありません。

 アップテンボでダンサブルな踊りがしっかり出来ないといけないのです。しかし、自らを省みて見ると私はアップテンポな踊りというものが著しく苦手で自他共に認めるほどそれはイケてないのです。

 まず最初にそのあたりを是正しなければ、と言うよりも最初から積み上げてゆかねばならないのでしょう。一日八時間、きっちり踊り続けたとして私にそれが出来るのでしょうか? 出来るようになるまで半年くらいかかるのでしょうか? それに、アルツの私にあのダンサブルで複雑な振り付けの順番が覚えられるのでしょうか?

 多くの疑問符が私の頭のなかに自然派生しはじめます。まあ半年経てば何とかなるだろう、と言う結論に達したあと、突然、モーニング娘。としてやってゆくにはこのままの身体じゃまずい、と言う気持ちが芽生えます。

 確かに私は人も羨むような巨乳ではありますが、全体的にゴツすぎるのです。とりあえず最低でも三十キロは減量せねばなりません。三十キロの減量、それは私に取って未知の領域です。

 しかしモーニング娘。に加入するにはそれは避けて通れない道なのです。私は二年半以上前に五ヶ月で二十キロ体重を落としたときのことを思い出しました。食事制限と十時間以上立って歩き回って五ヶ月かかったから、三十キロだと一年かかるだろうな、あそこから落とすとしたら脂肪じゃなくて筋肉だもんな。

 私は酸っぱい台湾スープを味見してみました。それは大量に入れたカットわかめのせいもあってか、かなり酸っぱい味でした。ふと私の視界にこれもまた島から貰ってきたビーフシチューのルーがあります。

 私は迷わずそれをぶち込みました。水も足しました。そして、煮えている間に、島から貰ってきた大人のふりかけでご飯を食べます。そしてしばらくしてルウが融けたら残ったご飯でビーフシチューを食いました。そうなのです。味が濃く、量が多すぎてとてもビーフシチューがおかずだと思えないのです。

 気分的におかずであるご飯をきれいに食べ終えるとすっかり満腹でした。そして私はいま自分が繰り広げた食物摂取行為が、食いながらずっと対策を講じていたモーニング娘。加入計画にとってすごく遠回りな行為であることに気づいたのです。

 三十キロ落とすにはこんなに食っていては駄目なのです。一日四時間以上の有酸素運動を伴いながら完全に油ぬきをした炭水化物中心の軽めの食事を一年以上続けなければ無理でしょう。そうしなければモーニング娘。に入れるわけがありません。

 いや、とりあえず今のところ体重を三十キロ以上落としたり、モーニング娘。オーディションを受ける予定などはないのですが、攻めの藝人として、自分がモーニング娘。のメムバーになる可能性は捨ててはならないなと思ったのでした。

 結局停電とその妄想は三時間近く、夕方まで続きました。
 


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