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高い椰子の樹に囲まれたそこには、〈ここは麻薬解放区です〉と書かれた看板がありました。あらあらすごーい。当然そこに書き付けてある〈麻薬〉と言うものは、おままごと的に植物の葉っぱを取ってきてどうのこうのするような可愛いものではなく、明らかに化学的精製を伴ったヘロインとか、まあ、はっきり言ってしまえば最近全国的に流行しているらしいシャブのことを意味しています。 そうは言ってもそのあたりは、おばちゃん達が軒に座りたむろして鶏の足の骨をラジオペンチで抜く作業をし、豚肉抜き回教徒用宗教的処理済即席麺が並べられた駄菓子屋のまわりをガキがかけずり回っているような普通の回教徒集落です。なにひとつとして解放区的なファンキーさはありません。 わたくしは今月からおこづかい帳をつけはじめたばかりで、ちょうど筆記用具を持ってましたので、すかさずその看板の文字を紙に書き付けました。こんなに前衛過ぎる看板は、どうしても真意をたださねばならないと思ったのですネイチヴに。 わたくしはそのまま市場に向かい米屋でキロ十四バーツの古米を一キロ買ってから、さらに一個二バーツの中国ドーナッツパートンコーを四個買い、それを歩きながら食べました。もう昼近くだったので朝揚げたらしいパートンコーはかなり冷えてきていました。 しかし真意をただすと言っても、そこらのネイチヴに聞くわけにはいきません。なぜならわたくしは密入国の方をのぞいてこのあたりで唯一の外国人であり、観光査証で収入もなくのうのうと暮らしている人間だからです。 そんなとんでもないヤツであるわたくしがいくら回教徒集落の看板に書いてあったとはいえ、そんな法的に許容されていない前衛的なものに興味を示しているなどと噂になったりしたら、近所の工場で一五〇バーツ前後の日当を得るために毎日八時間規則正しく働いているまっとうな労働者の方々がどう思うでしょうか。 ええ、当然むかつくでしょう。私が岩手県で工場労働をしていたときに近所にそんな外人がいたら、何かあらを探して入国管理局にチクっていたかもしれません。そうなのです。まっとうに働いている方々はいたずらに刺激してはならないのです。だから、真意をただすべき人間は選ばねばならないのです。 そうして四個あったパートンコーがなくなってしまう頃、私はアパートメントとなりの工場前にいました。そこにはわたくしの身元保証人がいるのです。彼はノビー落合の著書を原文(最もノビー落合のそれはそれで前衛的内容の著書が泰語に翻訳されているのを見たことはありませんが)で読むほど日本語ペラペラでスラスラですので、日本語で真意をただせば、話が他に漏れることはなく、わたくしは近所においてこれからもいい子でいられること請け合いなのです。 ああこれね、これ、間違いだよ、本当は〈ここは麻薬非解禁地域です〉って書いてあるんだ。字を書き間違えたんだよ、子供のドー、を、鬼のヨー、に、と身元保証人は日本語で平然といいやがります。そう言われてみればそのような気はするのですがわたくしも今月に入ってお小遣い帳をつけはじめ、それに正確を期すために気をつけているので、そんなに間違えたりするとは思えないのです。 何か凄く釈然としないので、きょう首都に出る途中、もう一度確認してきたいと思います。僕間違ってないもん多分。
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↑ 泰国藝道おこづかい帳。 通巻第004号 平成13年06月06日 白石昇事務所発行 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ------------------------------------------------------------------------ ◆平成13年6月5日のおこづかい帳 ◆読者からのご質問
Q. ふっふっふ。珍しくチェック!チューブアイス?それともキューブアイ
過去、日本からロックアイスというものを泰国に広めに来た日系企業のお手伝
ちなみにその方達がこちらで製造し広めようとしておられるロックアイスの値
関係者の方は、知らない、とおっしゃいました当然のように。わたくしは再び
製作・著作 平成13年06月06日 白石昇事務所発行
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