月初めに約九百キロ離れた緬国国境まで行って入手してきた西瓜石鹸プレゼントですが、このたび、厳正な抽選の結果、愛知県在住の職業粘土藝人様性別オス様、が当選されました。

　と言っても応募総数一件だったんですけどね。当選確率十割。

　まだ送ってませんがそのうち港に行くときにでもサクリと送ります。他に同梱して欲しいものがありましたら当選者様はメールで事前に連絡して下さい。高くなくて重くないものであれば極力ご期待に添うように致します。あ、あと生ものもダメです。

　さて、話は変わってこのようなメールが読者様適齢期性別オスから最近届きました本人の許可をいただいた上必要部分だけ引用抜粋です。

　実はわたくし、基本的に金縛りに悩まされたことはあっても純粋な不眠症に悩まされたことはありません。

　金縛りというのは簡単に説明すれば身体が疲れまくって眠ろうといるのに頭がまだバリバリに起きていて、眠ろうとはしない状態のことです。ええ間違いなくそうです経験上。頭が起きているのに身体が動かないのです。だから一生懸命頭が身体を動かそうとするわけです。

　そうやって動かそうとしても動くのは頭の中のイメージ、いわゆる妄想だけでしかありません。しかし実際に身体は動かないのですから、頭の中でも思い通りに動くわけはないのです。その結果頭の中ではとんでもない事が起こってしまいます。

　ようするに妄想の緊縛状態なのですから頭の中で何が起こるかわからないのです。人によっては幽霊を見たりもするようです。わたくしは過去、金縛りになった場所から屋根を突き破って飛び上がり、ものすごいスピードで印度まで空飛んでいったこともあります。それはもう気持ちようございました。

　しかし、こう言ったときには暴走をはじめた頭の回転速度を緩めて沈静化させ、スリープモードにしてあげればちゃんと金縛りから解放されて、眠ろうとしている身体に同調して頭もお休みすることが出来ます。そうすればもしかしたら不眠症も治るかもしれません。

　それではそうするためにはどうすればいいのでしょうか？　ようするに頭の回転を緩やかな速度の単調で安定した流れに戻せばいいのですから、伝統的な方法を使えばいいのです。そうですヒツジですヒツジ。頭の中で丁寧にヒツジを、
 
 
 

　食べるのです。

　身体が勝手に眠りはじめたり、頭が全然さえて眠れなかったりしたときは、すみやかに頭の中で自分がヒツジを食べるまでの物語を構築して下さい。当然、岩手県花泉町のフレッシュスーパーマーケット丸江花泉店で買ってきた一〇〇グラム八十円のラム肉をフライパンで焼いて食べるというような短絡的な方法を採ってはいけません。

　それじゃ全然丁寧じゃないです。そんな短絡的な妄想では頭の回転を緩やかにするどころか、さらに頭がスリープモードから遠い方向に行ってしまいます。頭ますます乱調で身体と脳は更にバラバラになる事請け合いです。

　ちなみに岩手県花泉町のフレッシュスーパーマーケット丸江花泉店に深い意味はありません。単にわたくしが過去、そこでラム肉を買ったことがあるのでなんとなく。

　物語は最低でもあなたが食べる羊が種付けされるところから始まらないといけません。それをあなたは羊小屋の入口からひっそりと見守るのです。このときのあなたの気持ちは『巨人の星』の明子ねえちゃんでも、家政婦役の市原悦子でもかまいません。

　が、しかし、他人の性行為をこっそりと見ている、という背徳的で言わば出歯亀的な行動を物語の初手からとっているあなたは決して褒められた人間ではないのですから、ここは、由美かおるの入浴を覗くうっかり八兵衛のような気持ちになった方がいいのかもしれません。

　あなたに覗かれながら種付けされたヒツジは母胎の中で日々大きくなってゆきます。そうしたらあなたは母胎を時折撫でたり、母ヒツジに草を食べさせたりして出産を待ちます。

　そして何ヶ月か経っていよいよ出産です。難産の母胎から出てきたヒツジの足を引っ張り、出産の手助けをするのはあなたの仕事です。あなたの介添えをへて生を受けた赤ちゃんヒツジはまだ目も開かぬ状態で母親の乳房を求めます、そして乳を食み、やがて立ちがあるのです。

　順調に育っていく子羊、あなたは一日中子羊と生活を共にします。それに伴い一緒にヒツジ小屋の藁の上で眠ったり、お母さんのお乳でチーズを作ったり、ペーターが白パンを食べたがったり、オッペンハイマーさんに叱られたり、セバスチャンのもみあげが長かったりしなければなりません。

　そうして小屋を畳んで放牧などを繰り返し幾年月、やがてあなたと子羊との別れがやってきます。この時期は大きく分けて二通りあります。その判断基準は当然、あなたがこの子羊をラムで食べるかマトンで食べるかによって決まるのです。

　そして焦らずゆっくり丁寧にあなたはまずその羊の毛を刈ります。そしてその毛を一所に集め、ペーターのおばあさんに渡してしまったら屠殺開始です。羊の頸に鋭利な刃物をさし込むのは誰でもなくあなたでなければなりません。

　大動脈から流れ出る血を余さず容器にすくい取り、大草原の中で絶命した羊の皮を剥ぎます。そしてそれが終わったら腹を裂き、内臓を取り出し両足を吊して背骨の部分から二枚におろします。

　ここまで進んだらようやく調理開始です。まずはじめに比較的腐りやすい内臓を処理せねばなりません。肝臓はしっかり血抜きして、他の部分はきれいに水洗いして下さい。腸に粗挽き肉を詰め込んで好きなだけ腸詰めを作るのもいいでしょう。肝臓を刺身で食べるのもいいでしょう。あなたは羊と過ごした日々に思いをはせながらその身体を食肉として自分の身に落とし込んでゆかねばならないのです。

　肉は食いきれない分を適当に干し肉にして、ケバブでもシチューでも好きなように調理して下さい。ただし、しっかり愛を持って丁寧に調理することが必要です。

　ここまで物語が進む頃には間違いなく頭の回転は緩やかに戻ってしまっています。と、いうよりここまで物語が進むことはまずなく、たいていがその前に頭がスリープモードになってしまいます。この方法なら眠れる事間違い無しです。

　私はだいたい種付け前、蒙古草原にこれから種付けをする羊発情用の小屋を立て、そのまわりに張り巡らせる有刺鉄線をラジオペンチで編んでいる時点で寝てしまいます。いまだかつてヒツジを食するところまでいけた試しはありません。

　今までの最高は、毛を刈るバリカンを隣のパロに住む長老ヨゼフ爺さんに借りに行ったところまでです。その時もきっちり眠れました。

　ただ、もう夜じゃなくなってましたけどね。