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シュワルツの球面三角形

● 多面角万華鏡

 「多面体の模型」には一様多面体の理論背景として多面角万華鏡が紹介されています。
 通常の万華鏡は、正三角柱の側面を鏡にした玩具で、ビーズや紙片などを底に入れ回転させると、鏡に反射した動く対称図形が認識される、というものです。いつでも市販されていますし、英語でもkaleidoscopeという立派な単語があるので、永く親しまれているのでしょう。
 万華鏡の見るほうの底面を広げた角錐台を考えます。対面の底面は鏡に反射してもはや平面ではなく、何となくドーム状に展開するはずです。角度をうまく取ると、球面を一回覆うようになるでしょう。たとえば、底面が正二十面体の表面に見える角度があるはずです。

● メビウスの球面三角形

 正多面体をはじめとする一様多面体の頂点は球面上に配置しているので、これ以降は球面上の図形で考えることにします。我々も地球の球面上に住んでいるので想像は容易でしょう。
 球面上の移動での最短距離は、大円、つまり球の中心を通る平面と交差する円で示されます。大円の一部を取って、球面上の線分と称することにします。同一大円上にない三点を球面上の線分で結んだ図形が、球面三角形です。(単純素朴な説明で申し訳ありません)
 球面三角形を考えると都合が良くなる理由は、上述の開いた万華鏡の隣り合う鏡の角度が、球面に投射した場合に球面三角形の角の角度に一致するからです。たとえば、上述の二十面体ですと、球面三角の角の角度は360/5 = 72度になります。

 対称性の考察から、辺で折り返して行った場合に球面を一回覆う三角形として選ばれたのは、頂点の角度が、
  (1) 90度、60度、60度
  (2) 90度、60度、45度
  (3) 90度、60度、36度
 の3つの球面三角形で、メビウスの三角形と呼ばれるそうです。それぞれ球面を、24枚、48枚、120枚のメビウス三角形が覆い尽くします。polyhedでは、シュワルツ三角の300番、400番、500番を選び、[対称]または[捩れ]をクリックして何か立体を表示させてから[2]のキーを押すと、メビウス三角形が球面を覆う様子が見られます(画面表示は都合により平面三角です)。
 上述の3つの角が72度の球面三角は、(3)のメビウス三角を6枚貼り合わせると得られるので、複合とみなされます。(1)のメビウス三角は(2)の2枚の複合になっていますが、対称性によって独立して扱われます。
 対応する多面角万華鏡は、それぞれ、四面角万華鏡、八面角万華鏡、二十面角万華鏡と呼ばれるそうです。それぞれ対称性の四面体的、八面体的、二十面体的に相当します。

(2) (3)

 5つの正多面体と13の半正多面体はメビウスの三角形から構成することができます。たとえば立方体ですと、(2)の三角形の60度の頂点に注目します。対辺で折り返しが起こった場合に移動がおき、その移動を直線で結ぶと立方体の辺ができます。45度の頂点を固定してパタパタと8回折り返すと、正方形ができます。
 注目すべき三角内の点は、2つの例外を除いて、メビウス三角形の頂点、辺上で対角の角の二等分線との交点、内心つまり角の二等分線の交点です。角の二等分線上に点を取らないと異なる辺で折り返した場合に長さが異なってしまい、長方形などになってしまうからです。
 2つの例外とは、変形立方体と変形十二面体です。前者は(2)、後者は(3)のメビウス三角内の適当な点に該当しますが、頂点を数えてみると、変形立方体は24、変形12面体は60しかありません。つまり、一つおきのメビウス三角のみを採用することになります。polyhedのメビウス三角の色分けを見ると一目瞭然で(上図)、図形が左右非対称になるのも道理です。つまり、メビウス三角を一回折り返すと裏表が逆になりますから、裏表の一方のみを採用していることになるからです。
 メビウス三角の頂点周りに正方形、正五角形、正三角形、そして二角形(!)ができます。それらの正多角形に囲まれた、取り残されたメビウス三角に対応する新たな正三角形が生じています。これが変形一様多面体特有の変形三角形で、polyhedでは灰色表示されます。

● シュワルツの球面三角形

 メビウス三角形の「球面を一回覆う」、という制限を少し緩めて有限回としたものがシュワルツの三角形です。シュワルツ三角は一様多面体と密接に関係しています。
 シュワルツの三角形は、正多角柱と反正多角柱に対応する二群の無限列の三角を除くと、メビウス三角およびその複合になっています。14群44種が知られています。上図(2)や(3)を眺めていると、2枚、3枚、4枚〜の、辺で連続するメビウス三角で、さらに大きな球面三角形が作れるように見える場合があり、それはまず間違いなくシュワルツ三角の一つです。
 ここで言う群とはどのようなグループかと言いますと、たとえばあるシュワルツ球面三角を考えて、その辺を延長すると球面が8つの球面三角形で分割されることになります。最大4種の球面三角形ができ、そのどれもがシュワルツ三角になっています。それらを一群としてまとめます。

 シュワルツ三角形は球面を何回覆うのでしょうか。私もpolyhedを作るまでは考えたこともなかったのですが、メモリの割り当て量を決めないといけないので、実測してみました。結果は、選択リストの300番台のシュワルツ三角は必ず24枚、400番台は48枚、500番台は120枚で球面が覆われます。
 たとえば、先にあげた各角が72度のシュワルツ三角(550番)は500番のメビウス三角6枚で構成されていますから、球面を6回覆うことになります。
 シュワルツ三角を表示させるために[2]キーを押すと、正二十面体が現れます。表示された一つ一つの正三角形が6重になっているはずです。三角形の頂点の番号付けは、123, 132, 213, 231, 312, 321の6通りしかありませんから、裏表・回転のすべてを尽くしており、これで目一杯の重なりです。
 計算は計算として、それでは具体的にどこがどうつながって6回も球面を覆っているのか、現時点では私の想像を超えています。なんとか直感的な表示ができないものか、と思います。

2002年7月27日 岡田好一