2003年5月26日 0:19:11
久しぶりにカセットテープの箱を取り出し、取って置きのシャンソン(フランス語の流行歌)を聞いてみた。ミッシェル・ポロナレフなどの懐かしい声が入っている。テープはTDKのSDである。このテープは録音帯域が20kHzに到達する初期のテープで、記憶に拠れば一世を風靡したはずである。30年前の録音だからマイクでテレビのスピーカから音を取ったと思う。ドルビー雑音除去技術も使っていないので、ヒスノイズは目立つ。録音機はたしかブランド不明のLL(language
laboratory)機で、音楽的には大したことは無いとは思うのだが、しかし、意外にしっかりした音が入っている。再生機はパイオニアの普及機で、約十年前の製品のようだ。
カセットテープは幅が狭い上に、走行速度も4.8cm/秒と遅く、音楽用にはとても無理と考えられていたのだが、このSDなどの広音域テープとTEAC社などの低ワウフラッターのテープデッキとが相まって、アマチュアオーディオファンは取り扱いの難しかったオープンリールテープから開放されたのであった(とはいっても、そのころの私は高級オーディオとは無縁であったが)。その後、ビデオもオープンリールからVHSカセットへと移行したから、二十世紀の最後の四半世紀はカセットテープの時代、と言えるのかも知れない。
● オーディオカセット
普通に言うカセット、つまりコンパクトカセットテープは(多分音声録音用に)オランダで開発された画期的なオーディオ用アナログ磁気テープである。いまだに広範に使われているので、これを大きく凌駕する技術はついに現れなかった、ということだろう。
実を言うと、最初に使ったテープレコーダは語学学習用の4.8cm/秒のオープンリールの小型機だった。直径3インチほどのリールに直接巻かれたテープを扱う。外国語がちゃんと識別できるくらいだから、少なくともAMラジオ程度の帯域はあったのだろう。付属テープにはデモ用に音楽が入っていて、結構きれいに聞けたと記憶している。
であるから、テープの走行速度は同じでも、幅が半分ほどしかないカセットテープの音質には最初は半信半疑であった。しかし、数が売れ、技術が進み、しだいにオーディオテープと言えばカセットになっていった。
インターネットは便利なもので、上述のSDテープが歴史的にどんなテープだったかもマニアの手で書かれている。その後色々なテープが使用されたのだが、私と同じような感想を持つ人はいるのだなあと、感心してしまう。私にとっても、SDは非常に印象的なテープだった。
ちなみに、メタルテープという高級カセットテープは絶滅寸前らしい。今、主に手に入るのはノーマルとハイポジの2種類ということらしい。
● ディジタルの時代
ラジオを別とすると、最近はCD, DVD, パソコンで音楽を聞いている。
再生専用のCDとDVDは今ではソースも安いし、原理的にも安心して聞けるので、ありがたい時代になったものだと思う。
パソコンの場合、ソースは波形のこともあるが、MIDIも結構ある。MIDIは音源によって全く音色が変わってしまうのだが、それも楽しみの一つである。
問題は、個人的な楽しみのために録音したいときに何を選ぶかである。DATは動作原理からして安心で音も良さそうだが、テープとしての操作特性は残っている。MDは広く普及しているし、機材の選択範囲も広いのが良いのだが、圧縮の特性から必ず音質が変わるそうなので、既知の音の手軽な録音がターゲットとなろう。
そこで、一時期はパソコンを使っていた。MP3のソフトがマイクからの音を長時間、直接MP3で記録してくれるので、音声等の場合はこれで充分である。MP3の良い点は、音声向きの圧縮と違って音楽向きなので、レベル調整が甘くても聞ける点である。MP3も1/10圧縮程度になると明らかに音質を変えてしまうが、既知の手軽な音楽の録音には使えると思う。
他に比較するものがなくなってしまう音を残す必要のあるときは、44.1kHz,
16bitステレオの波形そのものを記録するしかない。これはCD信号と同じなので、後でCD-Rに直接記録し、市販のオーディオ機器で利用することもできる。
普及パソコンのマイク入力の特性を真剣に検討したことは無いが、ミニジャック入力なので何となく不安がよぎる。それに加えて、ノートパソコン等で高速CD-Rドライブが回りだしたときのヘッドフォン出力は悲惨なので、類推すると、HDのアクセスがあったときも、それどころかCPUの負荷が激変したときにも、信号に揺らぎが重層するのではないかと考えてしまう。
● 圧縮と間引き
ところで、今聞いているのは、とあるゲームに付いていたBGMが11,025Hz, 16bitステレオで録音されていたものを自作ソフトで補間して44,100Hzのファイルに整形したものである。なぜ整形する必要があるのかというと、11,025Hzの元のファイルをそのまま再生すると高域遮断のフィルターがかかるらしく、高音が全く情けなくなってしまうからだ。情報的には何も付け加えていないのだが、44,100Hzのファイルにするだけで、ずいぶんと高音が聞こえてくる。もちろん、原理的に5,500Hz以上の音は入っていないので、伸びのある高音は期待すべくも無いのだが、それでも耳に敏感な音域を救ったためか、非常に素直で、音楽の細部まで聞ける音になる。16bitなので量子化雑音は聞こえず、耳を澄ましても期待を裏切らない。
つまりは、単純な間引きの1/4圧縮でも、まずまず聞ける、ということである。補間の演算は簡単なものなので、DSPチップで簡単に実時間動作が可能であろう。
同じく元が22,050Hz, 8bitステレオ(多分)だと、細部はすっ飛んでしまうものの、高音部はかなり伸びる。キラキラ輝く高音部強調の音がまずまず再現されているようである。ステレオなので定位は充分で、音源の位置の違う音は確実に聞き分けられる。
元が11,025Hz, 8bitモノラルともなると、計算上はCDの1/16圧縮にも達する。さすがに、細部もだめで高音も出ない。しかし、普段聞き慣れているAMラジオより音域は広いはずである。たとえぱWindows
Media Playerのエフェクトをかけると低音が強調され音場に広がりが出るので、何とか聞ける感じになる。
サンプリングの理論には詳しくないので、いわゆる折り返し雑音が、エンコーダもデコーダも独自設計できるとして防げるのかどうか、私は知らない。しかし、音を聞いた感じで判断すると、個人の私的な録音に関しては圧縮アルゴリズムでなくても、間引くだけで用が足りるのではないかと思う。