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例外中の例外

〜Saint Valentine's day in SELECTION〜



 バレンタイン……。
 それは多く、女性が男性へ想いを伝える日。

 が。
 例外も、多々あることを忘れてはならない。

          ◆

 絆は、チョコレートを砕くために包丁を握っていた。
 刀剣を手にするのと同じような雰囲気。
 すなわち、声を掛けるのもはばかられるようなオーラを
辺りに撒き散らしている。
 絆の認識は、こうだ。
『世話になった男性に、チョコレートを渡さなければいけない日』
 よって、セレクションプロジェクトの阻止より
パートナとして活動しているアーサーに、
チョコレートを用意しているのだ。
 冷え冷えとした空気。
 調理場の片隅で作業をしている彼女には誰もが気付いているのだが、
注意をする人物はいない。
 ……たった一人を除いては。
「おいおい、絆。何やってるんだよ?」
 当のアーサーだ。
用事があるらしく、しばしためらった後に絆を呼んだのだ。
いくら彼でも、勇気がいったらしい。
「チョコを作っているの。
アーサーは邪魔だから、どこかに行っていて頂戴」
 渡す相手にさえ、きつい一言を放つ絆。
 しかし、用事のあるアーサーにとっては引くわけにはいかない。
「でも、任務のことで呼び出しがかかって――」
黙ってて
「………………」
 絶対、嫁のもらい手がないぞ。絆は。
 そう思いつつ、アーサーは引き下がった。

 結局、絆のチョコレートの味がどんなものだったか、
それは誰も知らない。
 アーサー曰く、
「……悪い、それだけは」
 よっぽどうまいか不味いか、そのどちらかだったのだろう。

          ◆

 数年前。
 真由は一人、クリームを泡立てていた。
 コンクリートの壁の中で、彼女のエプロンだけが鮮やかだ。
「お父さんと、月岡さんと、それから……」
 父は忙しいから、机の上にこっそりと置いておこう。
この日のために、色画用紙でメッセージカードも作ったのだ。
画用紙を買ってきてくれた月岡は、少し怪訝そうにしていたけれど。
 二人とも、どんな反応を示してくれるだろうか。
 父はきっと、何かの機会にボソッと礼を言うだろう。
 月岡さんはきっと、信じられないというようにこれを凝視するだろう。
 楽しみだな。
 嬉しそうに笑うと、彼女は仕事を続行させた。



 現在に戻って――
 野々口家、1階。
 正太は幼稚園から帰ってきた。
「あれ? あまいにおい……」
 きょろきょろと辺りを見回すが、それらしきものはない。
 靴を脱いで、上がろうとした時。

 バン!

 食堂の戸が開き、姉が現れた。
「おっかえり〜正太♪ 待ってたんだぞぉ」
 手に、皿が載っている。
 甘い香りはするが……それ以上に、嫌な予感がした。
「ただいま、おねえちゃん。
それ……何?」
 後ずさりたくなるのをこらえて、正太は尋ねる。
「ああ、正太にバレンタインのチョコレート!
どうだ、いいにおいだろ」
 姉は果てしなく嬉しそうだ。
 自分で料理していたのだろう、あちこちに黒いものが付いている。
それらはチョコレートに見えもしたが……
皿の上に載っているものは、有機物に見えこそするが
とても食べられそうなものには見えない。
まだ、毒キノコを食べた方がましかもしれない。
「これ……ぼくにだけ?」
 正太は恐る恐る聞いてみた。
「ああ、親父にもあげたんだけど……
体調が悪いって言ってもう寝てるみたいだ」
 それはまさか……食べた後に?
 とまでは聞けず、仕方なく正太は食堂に行くのであった。

          ◆

 火影は、安物のチョコレートを買い込んでいた。
東地区で甘味を買おうとしても、大したものはないのだ。
が、それでも根性で入手出来た。
 プレゼントする当ては、全くない。
せいぜい叔父くらいなものだ。
 では、何のために菓子を揃えたのか?
 彼女の楽しみは……自分で食べることだ。
「男の人ばっかり甘いもの貰っちゃって、
女の人はあげなきゃ貰えないんだよ?
そんなのってずるいよね」
 というのが彼女の主張である。
 2月15日に、割引されたものを買うのが楽しみだったのだが、
最近ではそれもない。不況のせいだ。
 紙袋を抱えた火影の足取りは、いつにもまして軽かった。

          ◆

 バレンタインの翌日、2月15日。
 学校では……。
「勝美さん、遅いですね」
「まあ、勝美ちゃんは大抵こうだから……」
 放課後の教室。
 国香と時子は、チョコを手に勝美を待っていた。
女子同士でのチョコ交換は多い。
「でも、勝美ちゃんって……食べる方専門じゃなかったっけ?」
 手製のマフィンを持っているのは、国香。
「……作れないのなら、買ってくると思うんですが」
 外国製のチョコレートを持っているのは、時子だ。
「そうだよね。苦手だったら、わざわざ作ったりしないよね」
 と、淡い期待を持っていた二人だったが。
「ごめん! 遅くなった!」
 派手に教室の戸を開けて、勝美が入ってきた。
「いやー、親父も正太も、昨日から体調が悪いみたいで。
心配で、昨日ラッピングするの忘れてたんだ」
 そう言って、二人によれよれの包みを渡す。
(まさか……)
(これは……)
 二人は、その予感を振り払った。

          ◆

 ABM店内。
 占い師は、後ろ手に店に入った。
 いつ仕事をしているのか分からない、兄がぼーっと座っている。
 近付くと、やっと店長はこっちを見た。
「何? 家賃は払ったはずだけど〜〜」
 間延びした声に構わず、
彼女は後ろに隠していたそれを差し出した。
「……? 何、これ?」
「………………チョコレート」
「……ありがとう」
 店長が答えた時には、妹の姿はなかった。
 箱の上には、カード。
 そこには、たった一言だけ。

 Happy Valentine!

 そう、書かれていた。



   後書き

 入試も間近だというのに、書いてしまいました。
(この手のパターンが多いぞ)
イラストだけにしておこうと思ったのに、つい(苦笑)。
 さて、恒例のキャラについて。

 絆さん。
 刃物を持たせるとこんなことになりそうです。
きっと、美味しいものが出来たのでしょう……。
 どこまでも義務的な彼女でした。

 勝美嬢。
 真由とは対照的に、料理の腕は信用出来ないので
こんな恐ろしいことになっています。
 国香と時子の運命やいかに。

 真由。
 色画用紙というところが幼稚園児か小学生のようです。
初めてなんでしょうね、バレンタイン。
 ただ、間違っているのはあげる相手です。
彼女、ハウンドにはあげません。

 火影。
 自分で食べる楽しみ、というのは幅広い理解を得られそうです。
料理上手な彼女こそ作ればいいのに、世の中間違ってます(笑)。
彼女の描写が妙にリアルかもしれません。

 占い師さん。
 兄弟揃って、どういうキャラなのか分からず。
店長の性別は書かれていないような気もしましたが、
気にせず書きました。
 あのカード、カードセット(効果:『カードの嵐』)じゃ
ないだろうなと筆者でさえ思いました。
 ……どうなんでしょう。

 それでは、よいバレンタインを。

坂上 葵
2004/02/08 2:01 AM