マジコン規制について思ふ
今、著作權保護と稱して、マジコン販賣・マジコン單純所持を禁止する
法改正をしようといふ動きがあるやうです。
ゲームの不正コピーが横行してゐるのでゲームソフトが思ふやうな利益を
もたらさないといふのが理由の樣です。
僕も勿論不正コピーへの何らかの取締りはすべきだと思ひますが、
その規制の方向性としてマジコン全面禁止は本當に正しいものなのでせうか?
マジコンは、不正コピーで出回ったソフトウェアの實行に使はれるといふ側面が
確かにあり、マジコンの普及が不正コピーを後押ししてしまったのは否定出來ません。
しかしその一方で、マジコンは「ユーザーサイドが自主的に製作した自作ソフトを
實行する爲に缺かせない道具」としての側面も持ちます。
マジコンの普及してゐる機種のゲーム機においては、マジコンが自作ソフトを
實行する道具として活用もされてをり、自作ゲームを樂しむ事をはじめ、
MP3プレイヤーや文書リーダーとしての活用も出來るため、
ゲーム機がゲームに限らない幅廣い活用を行へる便利な道具に變化するための
道具として、マジコンはとても有用な存在だと言へます。
マジコンの使用禁止は、勿論これらの活用法も全て禁止される事を意味します。
「マジコン禁止で、ソフトを自作しそれを實行する權利を奪ふな!」といふ主張は
僕だけでなく他の樣々なかたも主張してゐるのを耳にします。
しかし、マジコン禁止の弊害はそれだけでは無いといふのが僕の考へです。
幅廣い使ひ道で使へる便利な道具がただのゲーム機に逆戻りする、
自作ソフトを製作する樂しさが奪はれてしまふ、それらも勿論重大ではありますが、
もっと大事な、下手をすれば不法コピーの損害などといふ話などふっ飛んでしまひ
かねない程の重大な弊害が存在すると、僕は考へます。
マジコン禁止は、逆に社會にとっての重大なセキュリティ缺陷と
なり得ます。
メーカーの意圖に反するソフトを實行する事がなぜセキュリティ向上につながるのか
と不思議に思へるかもしれませんが、その理由を説明します。
ハームウェア(ウイルスソフトなど惡意を持ったソフトウェア)といふものは
「惡意を持った個人」や「犯罪組織」だけが作る物であると考へられがち
なのですが、實はさうではありません。
實は普通の「世に信頼されてゐる樣なメーカー」も、その樣な有害なソフトを
製作・配布しうる立場にあります。
實際、SONYの「ROOTKIT問題」など、著明なメーカーがパソコンに極めて深刻な
被害をもたらすソフトウェアを忍ばせて大問題になった例があります。
これは、音樂CDをパソコンで讀むと、ユーザーが知らない間にパソコンの擧動を
裏から監視しコントロールするソフトをインストールしてしまひ、一度インストール
されると通常の手段では削除が不可能になってしまふといふもので、
そのソフト(ROOTKITと呼ばれる)が非常に大きなセキュリティ脅威をもたらす
ばかりでなく、更にその仕組みを別の惡意を持ったソフトに利用される事態をも
もたらしました。
しかも、この事件が發覺した時に、多くのウイルス對策ソフトメーカーが最初に
取った態度は、「大手企業が作ったソフトウェアだから惡意のあるソフトとは
見做さない」といふものであり、これで對策が遲れる事で更に被害が擴大し、
ウイルス對策ソフトメーカーの社會信用をも大きく損なはれる結果になりました。
これは、著明な企業なら惡意のソフトを作る事は無いといふ假定が全く出來ない
事を表すばかりでなく、大手ソフトウェアメーカー同士のチェック機構・自淨能力も
(ウイルス對策ソフトメーカーも含めて)あてに出來ない事を意味します。
つまり、ユーザーにとって完全なブラックボックスになると、その中身を
信用する事も出來なくなるといふ事なのです。
オープンソースといふムーブメントがあります。
ソフトウェアを公開する際、そのソフトのソースコード(機械語に變換する前の
人間が讀む事の出來る源プログラム)も公開し、世の人々にソースコードを讀んで
もらへるやうにする運動の事です。もちろんプログラミングの知識さへあれば
ソフトの利用者自身が讀む事も出來ます。
この樣なソフトの場合、プログラムの擧動を讀んで確かめる事が出來るので、
有害な擧動をしないかどうか確認する事が(理論上は)可能です。
利用者自らがプログラムを讀めなくとも、世の中の誰かが讀めれば、讀んで有害な
處理を發見して告發するかもしれません。
有害なソフトを作る側にすれば、自分が埋め込んだ惡意の擧動が發覺する可能性が
それだけ高まる事になるので
さういふ惡意の有るソフトをオープンソースで公開することはそれだけ自分の身を
危險にさらす事になります。惡い事はバレる、これがオープンソースです。
この意味で、オープンソースのソフトはさうでないソフトより安全と言へます。
現在の市販ソフトは、殘念ながらほとんどがオープンソースではありません。
萬が一、ソフトウェアメーカーが惡意を持って有害な働きをする處理を忍ばせてゐた
としても、オープンソースに比べればずっと發覺しにくい状況にあります。
マジコンは、ゲーム機の各種擧動を解析し、洗い出した擧動をうまく利用したり、
または裏をかいたりしながら目的のプログラムを讀み込ませ實行させる機械を
設計・製造する事によって作られます。
解析に從って明らかになった擧動は、自作ソフトを作る人に役に立つ樣に
公開される事でせう。おかしな擧動がもしあれば、白日の下に晒される事に
なるでせう。
マジコンがあれば、パソコンとのデータのやりとりも格段にやり易くなりますし、
自作プログラムを實行する事も出來る譯ですから、さらなる知識を求めて
更なる解析にいそしむ人も出て來やすくなります。
即ち、ゲーム機メーカーが何か不正をしてゐるなら、發覺の機會が増えるといふ事です。
ゲーム機に内藏されたソフトは、そのソースプログラムが公開されてゐる譯では
ありませんし、パソコン等で使はれる汎用の記録媒體に入ってはゐないので、
これを解析するには莫大な勞力が必要です。
個人個人の力ではプログラムを取り出して來るだけでも難しいかもしれません。
マジコンその物がユーザーにとって有害な擧動をする可能性も、やはり
無いとは言へませんが、マジコンを使ふ人はそのリスクを承知した上で使へば
良いのですし、マジコン使用者がもたらしたセキュリティ情報にはマジコン
不使用者も恩惠にあずかる事が出來るはずです。
言ふまでもなく、マジコンが禁止されれば、ゲーム機のブラックボックス度が上がり、
メーカー側の惡意が入り込む餘地がそれだけ大きなものになります。
最近ではハードウェア・ソフトウェア共に、その規模が膨大なものに膨れ上がって
來てをり、ゲーム機メーカーに限らずあらゆるメーカーは自社で全ての設計を
するといふ事が出來なくなってをり、パーツ毎に別のメーカーから
ブラックボックス化した「部品」を購入し、組み立てるやうな作り方になってゐます。
即ち、最終的な製品のメーカーに惡意が無くとも、パーツのメーカーの中に
惡意を持ったところがある可能性もあり、その樣なブラックボックスを數多く
導入するほど、惡意のある機能が含まれてしまふ可能性が大きくなってしまふ事に
なります。
このやうな状況で、ゲーム機等の道具がユーザーにとって完全なブラックボックス
になってしまったら、その道具は信用出來ると言へるでせうか?
たかがゲーム機に惡意の機能を埋め込むなんて、等と侮ってはいけません。
假に、もしもゲームメーカーに惡意があるものだと假定すると、
例へばゲーム機のニンテンドーDSやPSPにはマイクと無線LANがついてゐますが、
ユーザーの知らない間にマイクから音を録音、その内容を無線LANで送信してしまふ
擧動があれば、それだけで立派な盜聽機の出來上がりです。
最近、著作物利用者の事を無視して一方的に著作權利者の都合ばかり優先した
著作權法改正が横行してゐるといふ聲が聞かれますが、
このマジコン規制化の動きも、セキュリティといふ面まで含めて考へれば
やはり著作權者の都合ばかりが優先されてしまってゐる感が否めません。
先に上げたROOTKIT問題も、ユーザーのパソコンを乘っ取ってでもコピーを阻止し、
その結果ユーザーのパソコンに重大なセキュリティ缺陷が出來たり、
重大な動作不良が起きても全く構はないとする強引極まる意識がある事と
無關係ではありえません。
コピー防止機能の附いたCCCDでもCDプレイヤーが物理的に破壞される(故障する)
事もあることが問題になったりもしました。
著作權を守る事も重要ですが、ユーザーの機器、それも不正ユーザーでは無い
正規ユーザーの機器が破壞されるのもいとはないといふ意識では、
權利保護のバランス感覺に缺けてゐると言へるのではないでせうか。
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