【口臭の話】

口臭で悩んでいる方は意外と多いようです。が、歯医者がもっとも困る話題のひとつがこの口臭というやつでして・・・。
なぜなら歯医者は口の中が勝負フィールドなので、その臭いに対しては嗅覚がマヒしてるからなんですよ。診療していて、「この患者さん、口くさいな」なんて思うことはごくまれです。

さて、ここで口臭を便宜的に分類してみましょう。
1:治療の対象にならないもの(生理的あるいは食物によるもの)
2:病的口臭
3:自臭症

1について
口臭は誰にでもあります。口の中をナワバリとしている細菌というものがいっぱいいまして、そいつらが排出する分解産物の中に悪臭を発するものがあるんです。硫黄化合物や窒素化合物がその原因と言われています。
要は口の中の菌が少なくなれば臭いが減る道理ですが、これには唾液の量が関連しています。
寝ている間は唾液の量が減少しますから、朝起きてすぐは口臭がきつくなります。
口をあけて寝る人はこれが顕著です。

2について
口腔内細菌が原因の口臭については、どこまでが生理的でどこからが病的とはなかなか言いがたいです。
数値的に線引きしたいところですが、ハリメーターやガスクロマトグラフィーのように、口臭を分析できる装置があるにはあっても、実はすべての臭いをカバーしてるものじゃなかったりします。(例えばハリメーターだと揮発性硫化化合物のみ)
究極的には本人と周りが気にならないなら、口臭なんてあろうがなかろうが関係ないですから。
このへん、3の自臭症との関わりも重要ですね。

病的口臭のケアとして具体的にできることは何か?いよいよ佳境に入って参りました。
口の中の菌を減らすことがまず第一です。
隅々まで歯を磨くこと、虫歯を治すこと、歯石を取ること。
舌も細菌の棲家になるので軽くブラシをかけておくといいという考え方があります、が、磨きすぎは炎症がおきてかえって逆効果になります。
舌が口臭の原因になるようなら、口腔乾燥や代謝の異常を疑った方がよいので、そちらへの対応が先かもしれません。

それからフォーダイス斑が口臭の原因になっている可能性はありますね。
フォーダイス斑とは、本来皮膚にあるべき皮脂腺が粘膜にあるもので、程度の大小こそあれ、成人男性の70%にあるとも言われています。頬粘膜や上唇なんかに黄色いぶつぶつがあったらそれのことです。
本来病的意義はないものですが、フォーダイス斑からの分泌物が細菌に分解されて臭うということは考えられます。頬の内側も軽くブラシかけておくといいかもしれません。

矯正治療中や入れ歯をお使いの方などは、口の中に異物がある(それだけ菌の棲家が増える)関係で、どうしても口臭が出やすくなります。
それぞれ専用のブラシがありますので、歯科医師に相談してみると良いです。
特に入れ歯を入れている方は、歯と入れ歯を別々に掃除することが、口臭だけでなく、虫歯や口腔粘膜病変の予防にも大切です。

また近頃ではカビの一種であるカンジダが原因で(どーしてカンジダが口の中にとりつくのか、その原因はひとまず置いておきますが・笑)口臭が発生することがありますが、この場合にはアンフォテリシンB製剤シロップによる含漱が効果あります。

それからシェーグレン症候群などの疾患や薬の副作用、加齢などが原因で起きる唾液の減少、ないし口腔乾燥症も口臭のひとつの要因です。
対症療法として洗口液や人口唾液の使用が考えられますし、ガムを噛むなど口腔機能を活発化することが効果を示すこともあります。
また、漢方薬やミネラル(亜鉛など)の投与を行うケースもあります。

口の中が原因でない口臭もあります。主なものだけでも耳鼻科領域ないし呼吸器系の疾患(蓄膿症、扁桃腺炎、気管支炎、上顎洞がん、肺がんなど)、糖尿病、肝臓疾患、消化器系疾患(食道がん、胃がんなど)、甲状腺機能異常、魚臭症(トリメチルアミン尿症)などです。
これらは歯科医師の領域を超えますので、それぞれに該当する専門医にご相談ください。

3の自臭症についてはいずれ、別項を設けてお話したいと思います。