今日もこの神殿は穏やかで清々しい空気が流れている。 「ねぇ、フォルト。私、ここへ来て一度も大神官様にご挨拶してないんだけど?」 「えぇっ!?カペラちゃん、ふざけてるん?」 「ふざけてなんかいないわよ?」 「だってサ、オレ達もう何度もカノープス様に会ってんだってサ」 「う、うそっ!?フォルトこそ私をからかってるのっ?」 確かにこの神殿に来ていろんな人に会ったけど、カノープス様という人には会ってないという確信はあるわ。 「何度も会ったといえば、あのちょっと控え目な感じの女の人になら何度も会った気がするけど?」 私は少し先の方を慌てて走っている小柄な女の人を指差した。確かに彼女とは何度も会っていて挨拶も交わしてさえいる。ちょっとドジな人らしく、よくつまずいて転んだり何かモノを落としたりしていた。上目遣いで、目が痛くなる様な蒼い髪と深紅の瞳が印象的な人で確か自己紹介もしてくれた。名前は「スピカ」さんと言っていた。 「あぁ、あの人はカノープス様の奥さんだって話はコレ本当」 「えっ……あの人が奥様?」 「結構意外?ちなみにオレは超意外だったサ。ありゃりゃ毎晩イジメられとんだろね。カノープス様ってばSっぽいもん。でもってスピカ様ったらMっぽいし……あ!」 「え、どうかしたの?」 「フォルトォ、お前、 言ってくれるなぁ?」 「たはっ♪ご機嫌麗しゅう、カノープス様ぁ。今のは営業トークで……♪」 「言っておくがスピカはあれで結構怖いんだぞ?」 フォルトのすぐ後ろにいつのまにか立っていた人がどうやらカノープス様らしい。ここに来て一度も会っていない確信が一層深まった。 「あの、はじめまして。カノープス様ですか?」 「ん、そうだ。月のお姫様にはもう3度程お目にかかったが?」 「えぇっ!?どうして私全然覚えていないのっ?また記憶喪失??」 どうやらスピカ様が探していたのはカノープス様だったらしく、こっちに気づいて既にかなり前から、ここへ向かって走っていたらしい。 「まぁ!カノープスったら、また外から来た方をイジメて遊んでらしたの?」 「いやぁ、別にイジメてるつもりはないんだけどな」 「だって解りっこないでしょぅ?1度目は0.01秒顔を見せただけだったし2度目は他の方に乗り移ってただけだし3度目はまるで違う姿をしておいでだったのだから!」 ……私ったら、とんでもない所へ来てしまったのかしら? 「まぁまぁ、そのうち慣れてココもなかなか楽しくなるってサ?」 私の表情から気持ちを読み取ったのかフォルトが横からフォローしてくれた。 ココではずっと『変な人』だと思ってたフォルトが一番まともなのかも……。 |