髪を染めた訳


これは星の神官長・ケフェウスがカペラと再会する2年程前の話。

 ここは星の神殿。現在、俺は一応この神殿の神官長を任されている。
 この神殿の中の個室では一番豪華な部屋の大きな見慣れた部屋の扉の前に立って一度深呼吸をしてからノックをした。
「どうぞ。」
 短い返事を待ってから扉を開けると椅子に座っている男性が笑顔で出迎えてくれた。
「あ……ケフェウス、久しぶりだね。」
「はい、何せ人使いの荒い方の元に仕えていますから、ここ数日は大仕事で顔を出せませんでした。」
 笑顔で出迎えてくれた方は一応この神殿の大神官であるアルクツルス様なのだが童顔のせいかあまり威厳がないと思うのは俺だけだろうか?
「仕事だったのなら仕方ないけど、君の顔が見れなくて寂しかったんだよ。」
(その大仕事を俺一人に頼んだのはこの方のはずだけど本当に忘れてるんだろうか?この人ならあり得る!)
 威厳がない気がするのは、たぶん童顔のせいだけではなく天然ボケな性格のせいもあるかもしれない……。
 いつもの報告書の提出やら書類の整理やらの作業をしている最中ずっと視線を感じていたが、どうせ聞いてもはぐらかされて終わりだと思ったので聞かない事にした。
「それにしても立派な金髪だねぇ、君の髪は。」
 前からアルクツルス様から褒められていたが生まれてから特に手入れもしてるわけじゃなくこの髪なのだから複雑だ。第一この神殿ではあまり見ない金髪だから珍しいのだろうといつもの様に無視をしていた。
「君の母親で月の大神官のデネヴを想い出すよ。」
 そりゃぁ、実の母親だから似ている所もあるだろうけど一体何が言いたいのだろう?
「本当に魅力的なヒトだったんだよ。狙ってた中で唯一、ぼくに全くなびかなくてねぇ♪」
「……………。」
「何故かと思ってたらぼくの親友で当時、雲の神官だったエルナトを選んだんだ。どぉりで彼はぼくとは正反対の性格だからだったんだね。」
 俺に一体何を伝えたいんだろう?
 しばらくまた沈黙が続いてふとアルクツルス様の方を見ると何やら熱い視線が感じられた。今度ばかりは聞かずにはいられなかった。
左:ケフェウス、右:アルクツルス
「何ですか?」
「うん、デネヴの面影の濃いケフェウスとなら一緒に寝れるかも。」
「…………はぁ?」
 一瞬アルクツルス様が何を言っているのか理解できなかった。好きなヒトと似てる人間と一緒に寝る?
 そもそも俺は男でアルクツルス様も男で……普通添い寝はしないだろう?
「今度、試してみる?実は僕、守備範囲広いんだよね♪」
「!!……そっ、染めますっ!この髪は絶対に、すぐっ今日中にっ!!」
「えぇっ?勿体無ーいっ。」
 ……これが俺が髪を染めた本当の理由。今となってはアルクツルス様は本気だったのか冗談だったのか解らない。事実、髪を染めてからはそういう会話が皆無なのだから尚更、彼の心の内は理解できない。

 そして現在、母デネヴの元へ帰り、月の大神官候補カペラと再会を果たし、全てを話して受け入れてもらった。
「私、ケフェウスって目立つからって髪を染めちゃう性格じゃないと思ってたのよ?」
 言えない……君の実のお父さんに犯されそうな身の危険を感じたから髪を染めただなんて!
「でもすぐにまた綺麗な金髪が生えてくるわね。もう染めないんでしょ?」
「うん、そうだね……。」


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