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★★★★★ キリンヤガ マイク・レズニック 早川文庫
 不思議な小説です。早川のSFシリーズですが、SFと思うと読み誤ります。(僕はSFを見下してるわけではないので誤解なく。どっちかというと(大)好きです。)
 未来社会でケニヤのキクユ族のインテリ階級の老人が星を買い取り、キクユ族を集めて「本来のキクユ族の暮らしをはじめるぞー」と一切の文明を捨て、農耕と狩りで昔ながらの生活を始めます。その老人はムンダマグといわれる一族の知恵袋の地位に座り、その星の天候を操る外部衛星システムを操作できます。ムンダマグはその星にケニヤの山「キリンヤガ」の名を冠して彼の信じる一族の神「ンガイ」の教えにのっとったユートピアを作り上げようとするのです。
 短編のオムニバス形式になっています。はじめの一話が僕には印象的でした。一族のある女性が赤ちゃんを産みますがその赤ちゃんは老人ムンダマグの指示で殺されます。外部のシステムを管理する白人の組織が監視していて突然乗り込んできます。ムンダマグは慌てずにいいます。「逆子でうまれた子供は呪われているので殺すのが我等のきまりだ。」ムンダマグはキリンヤガに移住する前はオックスフォードだかなんかの名門大学を優秀に卒業した超エリートです。白人はなんと野蛮なと責め立てますが、ムンダマグは「一度でも妥協して外部の干渉を受けるとキクユ族はキクユ族ではなくなる。」とあくまで突っぱねます。
 このへんは考えさせられました。首狩族が首狩をやめると首狩族でなくなるというのと同じ理屈だと思います。外部の人間が習慣についてとやかくいうのを容認するとどんどんと文明を受け入れざるを得ない。文明社会は機械と公害の醜い社会だが、キクユのルールに従って逆子の赤ちゃんをハイエナに供し、許されたものだけが生きれば人類も自然も共にバランスとって生きられる社会になる。それがキクユの神ンガイの社会であり、それは人間だけに福音のある社会じゃないのだ・・・とまあこんな感じです。
 ところで僕はケニヤに行ったことがあります。文明化されてないアフリカに行けば何か新しい経験ができるだろうと思って...。(最初の海外旅行でした。18歳のときです。)想像していたより文明化されていてちょっと損した気分でした。僕が行ったケニヤはもちろんムンダマグがキリンヤガで護ろうとしたキクユの生活をすでに失ってます。
 本作はだいぶん昔からSFマガジンにちょっとづつ掲載されてました。ムンダマグは子供たちにライオンやハイエナを登場させた寓話をたくさん語ります。そしてそれらがキリンヤガという彼らのユートピアを護る知恵につながります。ユートピアのキリンヤガは決して住みやすいところではありません。むしろ過酷で護りがたい土地です。でもそれがキクユの理想郷なのだと信じて戦うムンダマグとその住人の姿は不思議な感覚を読者の胸に残します。
 SF小説というよりは、社会を書いた小説。ジョージオーウェルの「動物牧場」とか「1984」のようなカテゴリにはいるのかな? でも僕が知っているどんな仮想社会小説とも違うのが本作です。センスオブワンダーを求める人にお奨めです。
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