評価p 書名 著者 出版社
★★★★ 国境 黒川 博行 講談社
 はちゃめちゃです。黒川さんの小説に出てくる主人公たちはいつも決まった人がいて、他の作家さんたちにない独特の雰囲気を醸しています。
 「武闘派ヤクザの桑原」と「大物ヤクザのご落胤で堅気の二ノ宮」が中心人物のシリーズです。主人公はたぶん二ノ宮なんでしょう。いつもどたばたして大冒険してくれます。ごみ処理場の話とか、博打の話とか舞台が色々ですが、本作品の場合は北朝鮮です。
 ヤクザをだまして金を巻き上げた男にヤキを入れるために桑原が北朝鮮に潜入する話です。北の保安局員の目をかわして、現地のヤクザと喧嘩したり、仲間になってみたりして男を追います。海外旅行者の身分では、平壌の他のところにはいけないので、一度目の潜入ではおとなしく帰って今度は中国国境から密入国します。見事目指す男を見つけ出し、奪った金を巻き上げて帰ってきます。
 黒川作品の魅力の一つは割とわかりやすいヤクザと地に足のついた関西弁です。とーっても自然な如何にもヤクザのしゃべりそうな関西弁です。桑原は割といい人ですね。本当のヤクザってこんな甘いもんじゃないと思いますが、一応仁義みたいなのがあります。爆発的に売れたり、映画になることはないでしょうがしっかりと面白い小説です。
 本作は拉致問題が大々的に取り上げられるちょっと前に書かれたもので、脱北者がたくさん出始めて、北朝鮮関係の本が林立し始めたころの作品です。直木賞候補にもなりました。(唯川恵さんに持っていかれたんじゃなかったかな。)よく調べて書いてあってたぶん北朝鮮ってこんななんだろうなと思いました。
 当時、怖いものみたさが手伝って、北朝鮮脱北者の暴露本をたくさん読んでいました。会社の人に「北朝鮮って、飢えが酷くて、人を狩って喰う人もいるらしいよ。」とか、「謂われなく政治犯にされちゃって、収容所ではさらに食べ物がなく、泥をしゃぶる人もいるらしい。」とか言ったら、「そんなわけねえだろ」と一蹴されてしまったことがあります。今なら信じるんでしょうけど。小説は書く人も読む人も常識をかなぐりすてないといけないですね。
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