評価p 書名 著者 出版社
★★★★ 変身のロマン 澁澤 龍彦編 学研M文庫
 (著者名の「ひこ」が漢字でません。外字作ってもインターネットでは無意味ですし・・・。ご容赦を。「もりおうがい」の「おう」みたいなものですね。)
 まがまがしいお話を一杯日本に持ち込んでくれた澁澤(しぶさわ)大先生の編集によるオムニバスです。著者は熱烈なファンのいるフランス文学の翻訳者です。サドとかバタイユとか、仏文科のへんな連中がイレアゲている作者の小説(<=とよんでいいのだろうか)をたくさん翻訳し、自らも伝奇小説のようなものを手がけ、「黒魔術手帖」とか、「秘密結社手帖」とか怪しい著作をたくさん出してます。残念ながらもうこの世の人ではありませんが、今でも熱烈なファンがたくさんいるし、翻訳書は書店に溢れかえっています。
 本短編集は「変身」をテーマにした名短編がたくさん紹介されています。  前書き文の「メタモルフォーシス考」は澁澤先生の美的感覚みたいなのが滲んでいて面白いです。例えば冒頭がこんな感じです。

 まだ文学などに血道をあげ出す以前の、ごく幼い少年時代から、私には、超自然のお伽話や夢幻的な物語にいたく心を惹かれる傾向があったが、とりわけメタモルフォーシス(変身)を主題とした物語に対しては、それを読むたびに。一種の生理的恍惚間とも呼び得るほどの、はげしい情動が身内に生起するのを感じたものであった。そしてこの傾向は大人になった現在でも少しも変らず、例えば北欧の画家スワンベルグの画集をひらいて、鳥や獣や魚のような空想的な動物と女の姿態とが混り合った、奇妙な半人半獣のエロティック生物のイメージなどに出くわすたびに、私にはあたかも少年時代の読書体験によってしばしば味わった、あの懐かしい情動のふたたび甦ってくるのが感じられるほどなのである。・・・・・・中略・・・・・・童話や神話の領域にいたっては、このテーマを抜きにしては何事も語りえないほど、それは人類の揺籃期の想像力と密接不可分な結びつきを示しているように思われる。・・・・・・中略・・・・・・まさにメタモルフォーシスこそ、神話的想像力の本質的な作用の一つではあるまいか


 うーん。この思い入れ、文学やる人は狂人と紙一重です。わからない人には「変身」が「はげしい情動」を生起せしめるなんてまったく理解できないでしょうが、僕にはここで書かれた情動が、古来人類が持っていた「怖いものみたさ」の感覚にかなり類似していると思うし、ホラー小説や映画がはやる素因になっていると思います。
 澁澤さんの論文めいた文章はこういう人間の後ろ暗い(決して邪悪なという意味でなく、)エロティックでグロテスクな気が付かなかった感覚を切り捌いて料理してしまいます。本作は前書きと編集後記があるのである意味澁澤作品であり、また古今東西の名品が読める贅沢な短編集でもあります。
 収録作品には「雨月物語」とか「高野聖」みたいな著名な日本古典からオウィディウスの「変身譜」、「聊斎志異」などともちろんフランスの作品と色々とびます。日本の作品は知ってるものが多いですが、外国のはさすが澁澤先生というような掘り出し物が出てきます。博覧強記の澁澤先生ならではのものですね。
 ★4つなのは、好き嫌い分かれると思うからです。立ち読みで前書き読んでから感じるものがあれば買いましょう。
 さて、本作は元々立風書房なるとこからでてたものを最近(澁澤氏死去後)学研から文庫に再録されて出されました。最近、学研M文庫はなぜ今頃と思うような不思議な作品の版権買い漁って色々出してくれます。「東雅夫」という編集者とその一味(<=悪い意味で使っている言葉じゃないつもりです。)が日本の伝奇小説とほじくり返そうという野望を持っているようですね。注目の活動です。(青空文庫でも結構読めますが)岡本綺堂とかふるーいのを出してきます。当然この澁澤龍彦もその野望の一環なんでしょね。学研というと勉強の参考書の出版社という感覚持ってましたが、おどろおどろしい小説なら「学研」という日が近づいているのかもしれません。
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